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28話

 小さい頃から、ツバサくんは、ツバサくんだったらしい。

 小さい頃から、と言っても、今も見た目は幼児なので、なんだか紛らわしいけれど。


 ツバサくんは3歳になる頃にはもうその頭角を現していた。

 頭が良いだけでなく、手先も器用で、スポーツも出来る。なにをさせても同世代の子達とは一線を画す子どもだった。

 けれど、決して裕福とは言えないお家に産まれたツバサくんには、英才教育を受ける機会も、その頭脳に気づいてくれる人もいなかった。

 母一人子一人、いつもお母さんは、夜遅くまで働いていて。

 ツバサくんは、先ほど私が通っていた本屋の老夫婦に、よく預けられていたらしい。

 あの本屋はツバサくんの家のすぐ近所にあって、優しいおじいさんとおばあさんの二人で経営していた。

 手がかからない上におじいさんの話にいつまでも付き合ってくれるツバサくんを、孫が出来たみたいだと、二人は喜んで相手してくれた。

 子どものできなかった二人にとっては、本当に可愛い子供のような、孫のような存在だったのだろう。

 おじいさんはかなりの読書家で、実は店の裏の書庫には大量の本があったのだと、ツバサくんは教えてくれた。

 それを順番に、おじいさんに読み方を習いながら、ツバサくんは幼少期を過ごした。


 お母さんは優しかったけれど、ツバサくんの才能にはあまり興味を示さなかったらしい。

 虐待をしたりとか、そういう意味ではなくて。

 ただ健やかに、好きなことをして育ってくれればそれでいい、と。


 ――だけど。


 小学校に上がる頃には、書庫の本で知識を得たツバサくんは、大学の論文を読んで、それについて答弁ができるほどに成長してしまっていた。

 そうなると、時間が経てば経つほど『他の子より少しだけ頭の良い子』という、ただ違和感で済んでいたものが、済まなくなってくる時が訪れる。


 最初にツバサくんに目を付けたのは、担任の先生だった。

 明らからに他の子とは違う存在に、特別扱いを始めてしまったそうだ。

 それは他の学年の先生にも伝わり、学校中で噂が立つようになる。

 周りが盛り上がれば盛り上がるほど、期待されれば期待されるほど、ツバサくんは息が詰まって行ったのだという。

 特別扱いされる存在は、いじめられこそしなかったものの、遠巻きにされ始め、誰も近寄らなくなっていく。

 最初の頃は仲良くしてくれていた友達とも、徐々に会話が合わなくなっていく。

 授業は簡単すぎて、なんの為に参加しているのかがわからなくなっていく。

 唯一の逃げ場所になるかもと思って入った小学校の図書館には、おじいさんの書庫とは違い、小学生向けの簡単な本ばかりでツバサくんの心をわくわくさせるような本はなかった。


 勉強目的以外での学校の意図は、人との接し方や社会の縮図を学びに行く場所なのだろう?

 これでは、なにを学びに学校へ通っているのか分からない。

 けれど、仕事で遅くまで働いているお母さんが自分の為に働いていることを、ツバサくんは知っていた。

 お母さんを心配させる訳にはいかない、とツバサくんは学校に通い続けた。

 我慢を続けた。


 学校帰りに寄り道するおじいさんの書庫だけが、ツバサくんの唯一の憩いの場となって行く。


 中学は、小学校の先生の勧めもあり、大学までエスカレーター式の有名私立中学を特待生として通うことになる。

 これでお母さんを少しは楽にできる、と思ったが、そこでもつまらない毎日を過ごした。

 中学三年生になる頃には、学校へ毎日通うことも、ツバサくんはやめてしまっていたらしい。


 私に出会ったのは、その頃だったという。

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