22話
それから、どうやって部屋に戻ったのか覚えていない。
なんだか身体中が、ふわふわしている。
火照った身体をどうにかしたくて、部屋に戻ってすぐ私は布団の上で横になり、涼んでいた。
ツバサくんが窓を開けてくれたおかげで、心地いい風が入ってきてちょうどいい。
ただ、火照っている原因は、お酒なのか温泉なのかツバサくんなのか全部なのか、もうなにがなにやら。
当のツバサくん本人は、まぁちゃん相手にいつもの掛け合いをしていた。
「ずるいですー! まぁちゃんも美味しいごはん食べたかった、キレイな花火、見たかったです―!!」
「…るさいな、ったく」
ポカポカと何度も何度も叩かれているようだが、まったく痛くないからか、ツバサくんは気にする様子もないようだった。
「お前、お土産用に買ったお菓子、全部一人で食べただろ」
「ぎくぎくっ! なんでそれに気づいたですかー!」
「ゴミ箱、しっかり証拠残ってんだよ」
「ムキーッ! それとこれとは別なのです―!!」
まぁちゃん、お土産食べちゃったんだ。それ、図書館のみんな用に買ったんだけどな。
また買い直さなきゃ、と思いながらも、先ほどまでの気恥ずかしさもあり会話に混ざれない私は、目を閉じたまま二人の話を聞いていた。
「リンゴたんは、寝ちゃったですか?」
ふと、まぁちゃんが布団側にいる私の方に話を振る。
「酒飲まされてたからな、酔いが回ってるんだろ。そっとしておいてやれ」
私が起きていることに気づいている上で、察しているのかいないのか、返事をする前にツバサくんが答えてくれた。
ごめんね、まぁちゃん。
先ほどよりも少し冷静になった頭で考えいた。
ツバサくん、さっきキスしようとしてなかった?
ちょっと待って、さすがにそれは、気のせい…だと思う。
でも、それを抜きにしても、抱きしめられた理由の説明が結局つかなくて。
変な意味じゃない、よね。なんというか、酔ってたからとはいえ、私が泣きそうな顔してたから。
もしくは、嫌がらせ。からかってた。その場のノリ。
――ダメだ、どんな理由だったとしても、私が恥ずかしいことに変わりはない。
考えれば考えるほど分からなくて、横になったままでいると、不意に顔の近くに気配を感じる。
ツバサくんだ。
私の横に腰掛けたツバサくんは、目を閉じて動かない私の髪を、ゆっくりと撫で始めた。
ツバサくんの手は、少しひんやりしていて、気持ちがいい。
「ごめん…な」
小さい声で呟いて、私の髪を撫でていた手の動きを止める。
手が離れてしまうのかと思うと少し寂しくなり、うっすら瞳を開いた瞬間、途端に視界が暗くなった。
暗くなったのは一瞬で、額に温かいものが触れ、ゆっくりと離れて行く。
私は気づかないフリをするため、開きかけていた瞳を慌てて閉じた。
その後、頭をポンポン、と叩いて、またツバサくんはゆっくり私の髪を撫で始める。
なんだ、これ。
額に、キス、された。
心臓が高鳴る。うるさくて、落ち着かない。
え、ちょっと待って。
ツバサくんは、私のこと好き…なの?
さすがの私も、こんなことされたら、考えてしまう。勘違いしてしまう。
いや、いやいやいやいや。
それ以前に。
彼は5歳児で、妖精で、人間でもないのかもしれなくて。
頭が混乱する、どこをどう受け入れたらいいのだろう。
考えても考えても答えは出なくて、グルグルしている内にそのまま眠ってしまっていた。
身体から完全に力が抜けて、寝息を立て出した私を確認して、ツバサくんは苦笑する。
それからなにか呟いて私の隣に横になる。
なにを言ったのかは、眠ってしまっていた私には聞き取れなかった。
私達はそのまま、朝まで眠り続けた。




