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16話

「二人で楽しそうだな」


 はっ、と後ろを振り返ると、そこにはバスタオルで頭を拭きながら戻って来た、お風呂上がりのツバサくんが立っていた。


「ツ、ツバサくん…?」


「どうした?」


「ツバサくんは、いつからそこにいたの?」


「ん? いや、風呂から上がったら二人の笑い声が聞こえてきただけだけど」


 なにが言いたいんだ? と言った顔で首を傾げるツバサくんに、なにも聞かれてはいなかったのか、と胸を撫で下ろした。


「そ、そっか」


「リンゴたんは、でぇとにおさそいしたい人がいるらしいのですっ!」


「こ、こら!」


 この期に及んで言い渋る私に、まぁちゃんがファインプレーというのか、キラーパスというのか、とんでもない球を投げてきた。

 まぁちゃんを軽く睨んでみたけど、相変わらずよく分からない笑顔で、ふわふわ浮かんでいるだけだ。

 ――そう、この子にはなにを言っても無駄だ。


「誰を誘うんだ?」


 冷静に、淡々と質問してくるツバサくんに、余計緊張してしまう。

 その無表情が、怖いです…


「あ、あの、あのね」


 台所にいた私は、濡れた手を拭きリビングに戻ってカバンからチケットを取り出した。


「一緒に、温泉行ってくださいっ!」


 同時にツバサくんに向かってチケットを差し出すと、一瞬驚いた顔をしたツバサくんは、軽くため息を吐いた。

 え、やっぱり駄目だった?


「なんだよ、俺かよ…」


 眉間に皺を寄せ、深いため息を吐きながら、チケットの一枚を私から取り上げる。


「俺が一緒でいいのか?」


 視線をチケットに向け、その内容を軽く読みながら、私とは目を合わせずツバサくんが尋ねる。


「うん、一緒に行きたいっ!」


 自分でも笑顔になるのが分かった。それと同時に安心して、その場にへなへなと座り込む。


「良かったぁ」


「どうしたんだよ。一緒に出掛けるなんて、いつものことだろ」


「そうなんだけどね。あらためて遠くにお出かけしたことってなかったから。断られるかなって思って」


 そう言うと、ツバサくんは不思議そうな顔をした。


「リンゴから誘われて、断る理由なんてないけど」


「え…」


 なにを言ってるか分からない、という表情だ。

 そう、なんだ。

 これが例え役目から発生する言葉だとしても、嫌ではないってこと、だよね。


「良かったですね、リンゴたん! もちろんまぁちゃんも、おともするですよー!」


 絶妙なタイミングで会話に乱入してきたまぁちゃんは、料金かかりませんからねーと部屋中を飛び回る。

 たしかに。いや、もちろん最初から一緒のつもりだったけど。


「今年の夏は楽しくなりそう!」


 部屋中を飛び回るまぁちゃんを見ていると、なんだか私の心までふわふわ軽くなってきたように感じて、心の底から嬉しそうに笑う私に、ツバサくんも笑ってくれた。

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