15話
「好きな気持ちは、好きって言った方がいいのですよー? なぜリンゴたんは、隠すのです? まぁちゃんよくわかんないですー」
たしかに、まぁちゃんの中では好きか嫌いか、シンプルな問題なのだろう。
でも、大人はそうもいかないんだよ。そんな簡単に、好きだなんて伝えられない。一緒にいたいなんて、余計言えない。
じゃあ仮に私がツバサくんのこと好きだとして。
その気持ちを伝えて、気持ち悪いって、思われたらどうする?
本当は、嫌々一緒にいるのだとしたら、どうする?
絵本で繋がっているだけの関係だ。私にはこの関係の意味だって、よくわからない。
それに、嫌々でも、一緒にいてくれるのなら、まだいいのかもしれない。
私の発言がきっかけで、一緒にすらいてくれなくなったら。迷惑だと言われたら、離れて行かれたら、目も当てられない。
そもそも、この気持ちは好きってことなの?
私にはそれすらわからない。
一人で自問自答して、思わずうつむき始めた私の顔を、まぁちゃんは覗き込んできた。
「好きって気持ちは、相手をあったかくさせるのですよ! リンゴたんは、まぁちゃんがリンゴたんのこと好きなの、迷惑ですかぁ?」
その質問に、私は激しく首を横に振る。
そんなわけない、まぁちゃんのこと大好きだよ。
いっつも明るくて、笑顔にさせてくれるまぁちゃんは、見てるだけで癒される。
「そんなことない、そんなことないよ。嬉しいよ」
「じゃあ、なぜ、それをツバサくんにも言わないのです? リンゴたんは、ツバサくん嫌いです?」
「そんなことないよ、ないけどそれは…」
一瞬言い淀んで、その後すぐに言い訳を思いつく。
「まぁちゃんの好きは、友達の好き、でしょ?」
大人になると、こういう無駄な知恵だけはつくから駄目だな。
嫌な大人だ、私。
が、そんな私にまぁちゃんは即答した。
「種類はあるかもしれません! でも、好きって相手に言うことに、種類はひつよーですか?」
「えっ…?」
考えたこともなかった。
好きの種類。
友達の好き。親子の好き。恋愛の好き。
ツバサくんのことだけではない。
私はそのどれからも、逃げてきたのだ。
相手の反応を見るのが怖くて、伝える前に、自分から距離を置いた。
別に、誰と上手く行ってない訳ではない。
子供の頃から、誰とでもそれなりに接している。
揉め事を率先して起こしてきた記憶は、一度もない。
でもそれは、逆を言えば、誰とも本気で向き合ってきたことがないのだと、気づいた。
友達とも、当たり障りなく接してきたことで、卒業したり転職したら、そのまま、それ以降連絡を取ったことはない。
親とも仲が悪い訳ではないが、お盆や正月など、節目節目でしか連絡も取っていない。
反抗期らしい反抗期も、今思えば特になかったようにも感じる。
その代わり、半年前の転職の時も、親に相談することはなかった。
好きだと伝えることは、友達であっても、恋愛であっても、どんな理由でも、実は大事なことなのかもしれない。
「まぁちゃんはすごいなぁ」
そう思うと笑えてきて、無意識に核心をつくまぁちゃんに、思わずそう伝えていた。
「今ごろ気づいたのですかぁ? まぁちゃんは、すごいですよっ!えっへんです!」
大人になったら忘れてしまうのかもしれない。
無駄なしがらみを抱えてしまうのかもしれない。
重い荷物を持つのはもうよそう。
本当に持たなきゃいけないものはなんなのか、それを考えよう。
「まぁちゃんありがとう、元気出た」
「リンゴたんは、笑顔が一番ですよー」
二人とも笑った。
絵本にはまた、ページが一ページ増えていた。




