12話
「ツバサくん、お待たせっ」
小走りで向かってくる私の存在に気づいて、ツバサくんは読んでいた本を閉じ、立ち上がってこちらへ歩いてきた。
ここは図書館の近くにある、公園のベンチ。
私達の待ち合わせ場所。
以前、図書館の前で待ち合わせをしていたこともあったのだけれど、栗山さんに見つかって、心配されてしまってから、図書館からは死角となっているこの公園が待ち合わせ場所になっていた。
仕事が終わって、ロッカーで少し化粧直しをしていたら、時間がかかってしまった。
「今日はなに読んでたの?」
と尋ねると、ツバサくんは無言で持っていた本を貸してくれた。
ページをめくると、英語…じゃない、これは、ドイツ語?
頭が痛くなりそうな文字の羅列、もちろん絵本に描いてあるような挿絵などはない。
半年一緒にいて分かったのだが、ツバサくんは本の虫、図書館の番人、文字の妖精…なんと形容するのが正解なのか。
とにかく、ありとあらゆる本が好きで、言語関係なく、ジャンル関係なく読み漁る人なのだということが分かった。
暇さえあれば、本を読んでいる気がする。こういうのを、活字中毒って言うのかな。
ちなみに昨日は、真逆というかなんというのか、純文学の恋愛小説を読んでいた気がする。
「医学書だ」
「本当に好きなんだね、本」
「好きというか、習慣だな。勉強として読むことで学ぶことも多いが、リンゴが好きな本を読んで趣味趣向を知ることもまた楽しい」
ニヤリ、とツバサくんは笑う。
「私が勧める本なんて、ツバサくんにはつまらないでしょ」
私はなにがどう転んでも、医学書なんて読まないし、翻訳なしで洋書を読むこともできない。
憧れはあるけれど、勉強してまではいいかな、って思っちゃうし。
「そんなことはない。リンゴはどういうことが好きなのか、嬉しいと思うのか、勉強になる」
こういうこととかな、と言いながらツバサくんは右手を差し出してきた。
「ほら、帰るぞ」
「う、うん」
私は左手を差し出し、ツバサくんと手をつなぐ。思わず顔がほころぶ。
いつからか、これが日常となっていた。外を歩く時は、手をつなぐ。
傍から見たら、ただ親子が手を繋いで帰っているようにしか見えないだろう。
でも私は、暖かい気持ちになっていた。




