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11話

 それから半年が過ぎた頃。


 ようやく図書館の仕事にも、ツバサくんとまぁちゃんとの共同生活にも慣れ、世の中は夏休みを迎えていた。

 夏休みの図書館は、学生の利用者が増える。

 無料でクーラーの効いた部屋を長時間利用できる図書館は、お金のない学生達の溜まり場と化す。

 この古い図書館も例外ではなく、落ち着きのない学生達で普段より少しざわついていた。

 加えて利用者が増えるということは、作業も必然的に増えるということで。

 栗山さんに指示を受けながら、私は慌ただしく毎日の業務をこなす日々を過ごしていた。


 そんな帰りの女性ロッカーで、栗山さんと世間話をしている途中。


「そういえば森野さん、来週のお盆休みはどこかに行くの? うちはね…」


「あっ!!」


 話し出した栗山さんの話をさえぎって、私は声を上げてしまった。


「どうしたの、森野さん。そんなに驚いた声出して」


「え、あ。すみません、私、この忙しさで色々忘れてて…」


「え?! じゃあなにも予定入れてないの? 一人暮らしでしょ、ご実家に帰るとか」


「あ、うーん、それも…」


 実家に帰省するのはいいんだけど、ツバサくんとまぁちゃんを連れて行く訳にもいかないし、今回は帰らない方がいいだろうなぁ。

 仮に彼氏を連れて帰っても驚かれるだろうに、それを通り越していきなり子連れで帰ったら、両親が卒倒してしまう。


「じゃあ、これあげるわよ。好きな人とでも行ってくるといいわよ」


 人にもらったけど二人分のチケットだったから家族の人数分なくて持て余してたの、と栗山さんはチケットを手渡してきた。

 なにも考えずに反射的に受け取ってふと考え込む。


「好きな…人」


 チケットはどうやら、温泉の宿泊券らしい。

 え、温泉?


「なっ! 栗山さんっ!」


「最近森野さん、綺麗になったもの。きっと恋してるんでしょ。好きな人と言って来なさいよ」


 分かってるわよ、と栗山さんは私の肩をポンと叩く。

 最近髪もアレンジしたりするようになって、化石になっていた化粧品もひと通り買い直し、少しずつ努力している。

 好きな人が出来たとかではないんだけど、ツバサくんといると、なんだかきちんとしていないといけないような気がして落ち着かなくて。

 でも、それが苦痛な訳ではなくて、自然とやろうと思えた。それが不思議。


「じゃあ私、子どものお迎えがあるから、じゃあね、おつかれさまー」


 そう言って先に支度を済ませた栗山さんは、慌ただしくロッカーを後にした。

 慣れてきて分かったのだが、栗山さんはかなりお世話好きの人のいいお姉さんタイプだった。

 なにかにつけては、家で作りすぎたから、と食べ物をくれたり、お土産をくれたり。

 私の恋路も心配しているようで、ことあるごとに、今日来館したあの子はどう? 業者のお兄さん素敵だったわよ、とおすすめしてくる。


「もう、栗山さんは…」


 突き返してもきっと受け取ってはくれないだろうから、行くしかない…よね。

 ただ、行くにしても相手が。

 私には、恋人はいない。結論、誘う相手は一人しかない。


「ツバサくん、興味あるかなぁ…」


 軽いため息を吐いた後、作業用のエプロンを脱いで身支度を始めた。

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