09話
ツバサくんの唐突な質問に、私はきょとん、と目を丸くする。
私の幸せなんて、わざわざ自分と向き合って考えるなど、したこともなかった。
私は、自分自身の空虚感を埋めるために、物語の世界に特別を求めていた。
本の世界で、キラキラ輝いている主人公達は、私にとって希望だった。
それを見ているだけで、幸せ。本の中で知る世界は、とても広くて、どこまでも続いていることを知った。
でもそれと同時に、思い知るのだ。
自分はこんな風にはなれない、と。
この広い世界には求められていないし、私が今自分がいる現実から視野を広げることもない。
こんな私は幸せじゃないの?
普通の生活が遅れているだけで、充分だ。
「私は、幸せだよ。ずっとずっと、幸せだよ」
ツバサくんの目を見ずに、私は自分に言い聞かせるように、そう答えた。
本に囲まれているだけでいい。それだけで、本と関わる仕事に就いて、その夢を叶えた。
それで充分だった、それで満足だった。私の幸せはきっとそれなのだ。
それなのに。
「…じゃあなぜ今、リンゴは泣く」
「えっ?」
思わず頬に手をやると、手が濡れるのが分かった。
あれ、泣いている、私。
「え、なんで」
「…こっちが聞きたい」
呆れた顔でツバサくんは、私の顔を伝う涙を自分の服の袖で拭ってくれた。
「泣くな、とは言わんが、今は仕事中だろ」
泣くなら後にしろ、という意味だろう。
ツバサくんは、不思議な子どもだ。
というか、本当に子どもなのだろうか。
ふと、そんな疑問が頭をよぎった。
「ツバサくんって、大人みたい」
グズッと、鼻をすすりながら笑う私に、ツバサくんは苦い顔をした。
「…大人だ」
「絵本の精霊さんだから?」
その質問に、ツバサくんは一度驚いた顔をしたが、すぐに表情を元に戻し私の髪を撫でる。
「まぁ、そんなところだ」
当たったってことなの、かな。
でも、精霊で大人なのだとしたら、一体いくつなのだろう。
少なくとも、私より年上なのだろうなと思った。不思議と、子ども扱いをしていい人ではないように見える。
偉い人だったりするのかな。
ただ、左腕に抱いているまぁちゃんがあまりにも似合いすぎていて、少し混乱してしまうのもまた、事実なのだけれど。
私が泣き止んだのを確認すると、ツバサくんは辺りを見回し、絵本コーナーのところにある、靴を脱いでゆったり座れる子供スペースを指差した。
「リンゴの仕事の間は、あそこで待つ。なにかあれば声をかけろ」
仕事中に泣かせてしまったことで、邪魔をしてはいけない、と気を遣ってくれたのだろうか。
そのまま私の返事を待たずに歩いて行ってしまった。
ツバサくんは優しいのか勝手なのか。
よく分からない。よく分からないけれど、私を幸せにすると言った言葉に、なんとなく嘘はないのではないかと、私はぼんやり思い始めていた。
もう少しゆっくり、彼と話がしてみたい。
ふふっ、と少し笑ったあと、私は目の前の仕事に集中することにした。




