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プロローグ

「と、とうとう足を突っ込んでしまった」


 私、森野もりの 林檎りんごは、30歳の誕生日を独り暮らしの部屋で迎えていた。

 彼氏なし、仕事なし、見た目ダサい。


 腰の辺りまで伸ばした黒い髪は、どう手入れをしていいか分からず、とりあえず百円で買った髪ゴムで後ろにひとつでまとめただけ。


 化粧は、誰かに習うタイミングを逃したまま、なにが正解なのかもどんなものが自分に合っているのかも分からず、適当にプチプラコスメで見よう見まねで頑張っていた時期もあったが、最近はめっきりご無沙汰ですっぴんのまま。

 なにもせずに外出するのが当たり前になってしまった今、何年も前に購入した化粧品はすでに化石と化している。


 洋服を購入するにしても、人見知りが激しくて店で買うことが出来ないため、ネットで買ったものを適当に組み合わせて着る。

 たまにサイズ間違いとかあっても、もったいないからそのまま着用してしまう。

 もちろん、流行りの物が分かる訳もなく、何年も同じ物を着ているなんてざらにある。


 彼氏がいたのは…もう何年前の話だっけ?

 学生の時以来、いない気がする。



 ――寂しい。

 寂しいけれど、頼れる人もいなければ、恋愛は一人でできるものじゃない。

 今日から彼氏作ろう! で、彼氏ができるのなら、どんなに楽だっただろう、といつも思っている。


「で、でも! とりあえず、明日からの仕事は見つかった訳だし!」


 大丈夫だ、自分! 

 と、自分に言い聞かせた。

 とりあえずひとつクリアだ。仕事さえやっていれば、ひとまず生計は成り立つ。

 生計が成り立てば、なにか起きてもとりあえず対応はできる。


 二週間前まで働いていた本屋は、時代の波に押されて潰れてしまった。

 閉店する、と聞かされた時の絶望感は今思い出してもぞっとする。


 本が好きで、学生時代から図書館で本を読み漁っては、将来は本に関わる仕事に就くのだ、と張り切っていた。

 本屋に就職が決まった時、たとえアルバイトだとしても、とても嬉しかったのを覚えている。


 本屋が実は肉体労働なことを知って、最初の頃は地獄だと思ったこともあったけれど、慣れればやはり好きなものに囲まれている生活は嬉しくて。

 これでいいのだ、これで自分は幸せなのだと思っていた。

 頼りない店長とやる気のないバイト仲間と、上手くやっていると思っていたのに。


「運がないというのか、なんというのか」


 テーブルの上に置いた誕生日ケーキを前に、ため息を吐く。

 自分の誕生日用に、自分で買ってきたものだ。

 誕生日ケーキと言っても、コンビニで買ったショートケーキだけれど。

 一人分のケーキを見ていると、とても虚しく感じる。

 一緒に食べる相手がいないのだから、仕方のないことと分かっていても、やるせない気持ちになった。


 次の仕事は図書館の司書だ。

 またアルバイトではあるけれど、雇ってくれるなら、私を必要としてくれるのならなんだっていい。好きな本に囲まれて、生活することが出来る。

 これほど幸せなことはない。

 私は自分で自分にそう言い聞かせる。


 明日また、なにか良い出会いがありますように。


 よしっと気合いを入れ直して、私は目の前のケーキをフォークで掬った。

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