こんにゃろうな海
2
「――あなたのお仕事は、この西ネイコ島における郵便局員です」
ああ、やっぱりダメだった。
嘆くでもなく悲しむでもなく、メルルーサがまず抱いたのは“納得”だった。
こうなる未来は、卒業試験の結果が出た時から分かっていた。だからメルルーサ自身、今日のこの瞬間に備え、重々覚悟をしてきたつもりだった。
その、つもりだったのに。
「うわ、なんでだろ……」
メルルーサは目から熱いものが零れそうになり、慌てて天井を見上げた。
少しでも油断をすれば、心のダムが決壊して一気に感情の波が漏れ出てしまいそうだった。
「なんでこんなにも辛いんだろ……」
分かってはいても、覚悟してはいても、長年夢見続け努力してきたことが泡のように跡形もなく弾けてしまったような気がして、彼女は胸が痛くて仕方なかった。
「メルさん……」
懐中時計を握ったままの彼女の手を覆うようにして握り、先生が優しく声を掛ける。
「えっと……夢を無くさないでください。夢のために努力したことも、夢に向かって歩んだ日々も、決して無駄なんかではありません。夢を持ち続ける限り、きっといつかあなたの役に立つ日が来ます。先生が、そうでしたから」
「無駄じゃ、ない……?」
「はい、そんなことは絶対にありません」
言い切ると、先生はにこりと明るく微笑みかけた。
しかし、メルルーサは不貞腐れたように呟く。
「……じゃあ先生、わたしの夢が叶うと本気で思いますか?」
「あっ、えっと……」
先生はあからさまにギクリと肩を震わせ、たらたらと冷や汗を流し始めた。
そんなことを訊いても先生を困らせるだけだ。分かっていても、今の彼女には先生の言葉しかすがるものがなかった。
「き、きっと叶いますよっ! たぶん……じゃなくて、絶対に大丈夫ですっ!」
「ほんとに、そうかな……」
絶望の海の底へと沈んでしまったメルルーサの耳にその言葉は届かなかった。
――そこは嘘でも堂々と「きっと叶います!」と言ってほしかったな。
メルルーサはそんなことを思いながら教員室を後にした。
◆◇◆◇◆
メルルーサは重い足取りで教室への階段を上っていく。
落ち込んでいた彼女だったが、階段を上りきるまでの間に悲しみ以外の感情が湧きだしてきた。
そもそもこの地域の職業体制はおかしい。自分は誰よりも大陸に恋焦がれ、誰よりも大陸の勉強をした自信がある。それでも、卒業試験ではそれらを測る仕組みがまるでない。
それらも見られた上での結果であれば何も言うことはない。しかし、そうでない以上、地位や名誉だけを考えた者たちに外交人や貿易商の椅子が奪われたかもしれないと思うとどうしようもない憤りにかられ始めた。
大股でどしどしと階段を上り、教室の戸を勢いよく開け放つ。
クラスメイトたちが一斉に自分に注目しようが構わず、彼女は教室の窓から思いっきり感情をぶちまけるようにして叫んだのだった。