プロローグ
ざわざわと騒がしい教室。
教師はおらず、健康的に焼けた肌を制服に包んだ生徒たちが和気あいあいとお喋りに興じている。
しかし唐突に教室の戸が開けられ、一同の視線が集中した。
――そこには”白い肌”の少女。
生徒たちと同い年くらいで同じ制服を着ているが、その雰囲気はどんよりとしている。
少女がよたよたと力なく教室の中へと進みだし、生徒たちからはひそひそと話す声が聞こえてくる。
「やっぱりダメだったんだね」
「そりゃそうでしょ」
「可哀想にな」
「ねえ、メル……大丈夫?」
一人だけ、少女を気にかけて声をかけてくれる生徒がいた。
「え、ちょっとメル?」
けれどもメルと呼ばれた少女は反応する素振りも見せずに教室を奥へと進む。そして一同の前を渡り、窓を開け放った。
そのまま彼女は窓の枠に手をかけて身を乗り出す。
「だ、だめメル! 落ち着いてっ!」
声をかけてきた少女が慌てて掴みかかった。
この教室は二階に位置する。飛び降りて死ぬことはないだろうが、怪我を負うことは避けられない。
これにはさすがに教室の生徒たちも青ざめた。
誰もが手遅れかと思ったその時、少女は大きく息を吸い込み、それをすべて声へ変えて吐き出す。
「こんにゃろぉおおおおおおおおおお!!」
世の理不尽に対する怒りや嘆き、自らへの苛立ちや後悔。
様々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い、彼女の口から高くて盛大な声となって飛び出した。
そしてその声は、窓の外に延々と続く海と空の中へと消えていったのであった。