第28話
火事場の馬鹿力って知ってるか?
友達が最近知ったうんちくを自慢げに俺に言いに来たのは本当に滑稽だった。だって、誰もが知っていそうなことを自慢げに話してくるんだから当たり前だろう?
その時は友達にそのまま話させていた。まっ、そうなるよね。けど、その時一つだけ気になることを言っていた気がする。まあ、聞いていた話は右から左へ流していたから本当かどうか覚えていないのだが。
友達は火事場の馬鹿力に関しての情報をただぺらぺらと嬉しそうに話していて、
「次は……………まあみんな知っていることだからそんなわざわざ言うことじゃないけど。けど、やっぱり全部言いたいじゃん?」
皆知っていることなんだから言わなくてもいいじゃないかって思うけど、あんなこと言っているんだ。ここまできて言わせないとふてくされそうだしなあ………
こんな暇人に付き合っているんじゃなくてもっと他のことをやっていればよかったなあ、なんて思うけどこんな奴に絡んでやってる俺も相当暇人だよなあなんて、はたから見たら五十歩百歩って言われそうだけど。
…………まあ、俺もそれは感じているし尚更自分では言わない。
「テレビとかで火事場の馬鹿力を取り上げる時って、メインゲストだったり、タレントさんだったりが昔の危なかった話をするときだったり、そんなときだろう?」
俺は適当に、うんうんと適当に相槌を打って、次につなげる。
「それってみんな死ぬ直前に力が通常ではありえないほどまで跳ね上がる。なんて思われてるけど実はあれみんな死んでるんだよ。」
「は?なんだそれ?」
ついつい声を出してしまったが、
「一回な。死んでしまいそうな状況になると人間ってのは一度死んじまうらしい。体の柔軟性をあげてなるべく安静になるようになっているんだ。その状態は死後硬直にはならなくて、体には力がはいってない状態なんだって。そんでもって、動いてないその時に体の疲労は一気に吹き飛ばせるらしいし、そのあと体感するであろう疲労に向けて溜めるんだ。そして、起き上がり力を入れるとあたかも力が一気に跳ね上がったように思えるんだ。」
俺は真剣に友達の顔を見つめて、話を聞いていた。それは何故かって、そんな話は聞いたことがなかったからだ。
こんな益体もない話を真剣に聞いてもって感じだけど、自分だけ知らなかったらとか、知ったかぶりだったらどうしようとか考えてしまうわけで。
「けど、個人差はあるようで、死んで生き返るのが1秒とか短い時間のやつもいれば、その1連の動きが1分くらいかかる奴もいるらしい。」
ふぅーん、なんて適当に返すが、本当は適当に考えていなかったりする。
嘘なんじゃないかなんて多少は思った。思ったけど、この友達は結構嘘をつかないタイプのやつだから信用はできる。確信はないけど。
それに、こいつにしては珍しいくらい、話の持っていき方が綺麗だなあって思ってつい聞いてしまったって言うのもある。
「ご清聴ありがとうございました。」なんて、にやけ顔で俺に軽く一礼しているのを見ると、とても自慢げにしてて憎たらしいったらありゃしない。頭をあげる前に1回叩こうかと思ったけど、流石に理不尽すぎるのでやめた。
この話を聞き終わってすぐに感じたのだがこれって、
「これって知ってて意味ってあるのか?」
ぼそっと呟くように言ったけど友達はこちらをさっと向き、怒りはせずにやけ顔でこっちに顔を近づけ
「なら、1回体験してみるか。」
と言って、俺のすぐ後ろに回り込み羽交い締めし始めた。取っ組み合いなら負けねぇぞと言わんばかりに俺も対抗した。
この時にはさっき聞いたうんちくなんて忘れていた。