第26話
動物は自分が瀕死の時はいつも以上の力を出して抵抗するっていうのを聞いたことがある。もちろんその動物の中には人間もいる。そのことを俺たちは火事場の馬鹿力なんていう風に名付けている。
しかし、その話はどうやら嘘だったようだ。
だって瀕死の時っていうのは、命の危機っていうことでもあるんだから今の状況から言うに今は命の危機って言ってもなんらおかしくはない。
今は人間の限界に触れているわけなんだが、体は全く動き出す様子がない。
しかし、今拘束しているものは物体としては存在してはおらず、魔術という自分の力には影響もされず、干渉もされず、魔力でのみ抵抗することができるはずだ。この世界のことはよくは知らないがきっとそのはず。
だが、自分を見てみろ。魔力はあるか?
そう、だから抵抗も何もないのだ。魔力が少しでもあれば多少の抵抗ができたはずなのに。同じ土俵に立っていないのだ。戦いをする前から決着がついているのだ。
生まれを呪うことしかできない。そんなことをしていてもしょうがないのに。
今、真っ先に考えるべきは自分がどうやったら動くことができるか、そしてどうやったらマクベスに攻撃を食らわせられるか。それを考え出して実行しなければ何も始まらない。
考えろ、考えるんだ。自分が限界と思っていても、考えるのが意味がないと思っていても。
今は、今は自分の命がかかっているんだぞ。マクベスはこっちを向いて、にやにやと不敵に笑っていた。
しかし、時間はそう長くはないようで、
「さあ、あなたは死ぬんですよ、炎に焼かれながら、悶え苦しみながら、私に看取られて。…………色んな人へのお祈りやらなんやらは済みましたか?」
「いや、待ってくれ!まだ待って――――」
マクベスは俺の言葉を遮って
「そうですかそれがあなたの最後の言葉ですか。」
そうすると、体は動くようになっていた。がそれは自分の意志によるものではなく勝手に動き出していた。恐らくマクベスによるものだろう。
俺はなす術なしに、体がマクベスのほうに向かっていき、少ししたところで止まった。
俺はまだあきらめんと抵抗の顔をマクベスにしたが、それを気にすることなくマクベスは
「ではさようなら」
右手にあった太陽のようなものは、マクベスが右手を俺のほうに向けたと同時にこちらに飛んできた。
俺はどうやら死ぬらしい
死ぬ前っていうのは時間が遅く感じたり走馬燈が駆け抜けるなんて言うけど、どうやらどちらも本当らしい。時間は遅く感じるし、いままでのおもいでも蘇ってきた。
しかし蘇った走馬燈は自分が元の世界にいたころの記憶は全く無く、マリアとマキとの記憶しか出てこなかった。
俺は改めて変な奴だと思った。
その思いを最後に俺は目を瞑り、体の力を抜きすべてを諦めたように太陽を迎えた。
こんな状況なのに眠りそうな感覚になって俺は最後の言葉を言い放った。
おやすみなさい