第25話
恐怖で動けないという訳ではない。何かしらを極端に表しているとかそういうのでは無いんだ。
本当に動けないんだ。さっきはマクベスの口数にびっくりしてただ動かずに黙っていただけで、別に動けないという訳ではなかった。
完全に動けなくなってしまった俺は唯一口を開くことができ、その口で
「何をしたんだ」
と平静を装ってマクベスに答えを投げかけた。
「もお、もう少し頭を使いましょうよ亮太君。私がこの状況で使えるものですよ。」
んなもの知らねえよ、と言おうか迷ったがまた何かしらのおちょくりを言われるだけだと思っていたので少しの間黙り込んで答えを考えた。
「魔術か?」
「そうですよ!その答えを待っていた。」
どうやら正解だったようだ。全然うれしくなかったけど。別にこんなのに正解してもって感じだしな。それにその答えによって俺は窮地に立たされているんだし。
俺は何とか抵抗して動こうとするが体はピクリともしなかった。多少は動くと思っていたが本当に動かない。
動くのは口だけ。なんかパントマイムやってるみたいで気持ち悪い。
「なんで俺を動けないようにできたんだ。」
俺は切れ気味で聞いた。マクベスは俺の機嫌を見るなり、嬉しそうな顔をして
「そうです!その顔です!あぁ、あなたいい顔しますねー。」
気味の悪いことを言い出した。俺はマクベスに聞こえるようにあからさまに、嘔吐くとまた嬉しそうな顔をした。
すぐにでも口が開きそうになっていたのでマクベスが気持ち悪いことを言う前に俺は先に口を開いた。
「まず俺の質問に答えてくれ。勝手に興奮してんじゃねぇよ、気持ち悪い。」
マクベスはやっと落ち着いて、
「あなたが使った魔術は拘束魔術だというのは知っていますか?そして拘束魔術というのは体の自由を奪うのはもちろん、魔術実行の自由も奪うものなのですよ?しかしあなたを見る限り魔力はないようですし、魔術紙を使ったのですよね。しかもあなたに魔術紙を提供したのはさっきの女ですよね。しかしなぜこんな弱い魔術を紙に写したんでしょうね。まさかあなたを嵌める為に――――――――」
「うっせえ!あいつが……あいつがそんなことやるわけないだろう!だって、だって………」
まるで子供のように言い訳をする俺に、マクベスは少し厳しい顔をして
「なぜそう言い切れるのですか?」
「えっ」
「だからなぜそう言い切れるのですか?だってあなたはこの世界に来たばかりでしょう?」
正論を言われてしまった俺は何も言えずにさっ、と地面に顔を向けた。
「私の情報が間違っていなければあなたは数日前に来たはずです。そんな人間がまだ会って間もない人のことが分かる訳ないじゃないですか。ただでさえ長い付き合いを持っていてもすべてを知ることができないのに。あなただってそれくらいわかるでしょう?いや、分からなければならないのです。それを知っていなければそれはただの押し付けになってしまうから…………」
見事に正論を並べられてしまった。マクベスの言っていることには間違いを感じない。けど、
「け、けど……お、俺は…」
さっきのマクベスの気迫に押されてなのか言葉がまとまらず言おうとしていることも言えなくなってしまった。
何も言えずにあたふたしているとマクベスは手を前に出して、
「いや、もういいです。これ以上聞いてると私が嫌になってしまいますから。もう時間も時間ですしそろそろ終わりにしてしまいますか。」
「えっ、何を言ってるん…………!?」
マクベスは手を今度は上にあげて、何か呟き始めた。すぐに呟き終わったと思ったら、その手に無数の炎が集まっていくのが見えた。
それはあっという間に大きくなっていき、言い表すとしたらまるで太陽のようだった。
それを見て察しがついた。
俺、死ぬのか。