第24話
俺は構えをとって刃を避ける事に専念した。ようにマクベスは見えているはずだ。
マクベスは俺めがけて飛んできていて、完璧に俺の方向しか見ていない。
飛んでくる刃をぎりぎりで避け、もう一度マクベスがこちらに向かっているのを確認した。そしてマクベスの手には白い刃を握っているように見える。きっとあれで俺を貫くつもりだろう。
だからまずはあれを避けなければならない。右手に刃を持っているから俺から見たら左側から攻撃が仕掛けられるということだ。
予想どうり、左手側には振りかぶっているマクベスが見える。刃はまっすぐおれに向かっているのが分かる。マクベスは俺の心臓めがけてナイフを振ろうとしているのもわかる。これで決めにきているのが分かる。
ただ決めにきているのはお前だけじゃないんだ。
俺は刃の動きを止めるために左手で刃を止めようとした。ただ、マクベスは予想外だったらしく少し振り下ろす速度を緩めた。俺はすかさずその刃をつかみにいった。
ギュルルル、と音を鳴らして刃の回転は止まっていった。俺の手は刃の風によって抉られていった。
「ぐううぅぅぁぁああああ!」
あまりの痛みに俺は呻き声をあげて、離しそうになる手をどうにか我慢して握り続けた。
おかげで刃の回転は終わり攻撃を終わらせることができた。しかし攻撃をするにはまだ早い。
マクベスは刃を止められてもなお攻撃をしようと、刃がなくなった右手をそのまま握りしめて俺の顔めがけてぶつけにきた。
マクベスの顔はそれでも平然を保っていて、あまりピンチのようには感じさせない様子だった。ただ、内心は動揺しているはず。もともとそういう奴なんだろう。なんだっけ、ポーカーフェイスっていうんだっけ。
拳をぎりぎりのところでかわすことが無事にできた。空を切る音が聞こえ、又、俺には相手の攻撃が一時終わった音に聞こえた。
ここまで我慢した甲斐があった。今までで一番チャンスだ。俺はさっきマキが耳元で囁いてくれたことを今改めて思い出した。
俺は一歩下がって、ワイシャツの胸ポケットに手を突っ込みそこから古ぼけた紙切れを素早く取り出した。そこには俺には理解することができない文字の羅列と六芒星が描かれていた。
その紙を縦に伸ばして紙に描かれているものが見えやすい状態にした。マクベスに向けるようにして俺は大きな声で唱えるようにして、
「我望み・異人振舞・束縛せよ」
するとマクベスの周りから、紙に描かれていた魔法陣が複数浮き出てきてその中心から錆びた鎖が出てきた。鎖はマクベスに向かって四肢に巻き付いて完全にマクベスに絡みついて動きを封じた。
その姿は仕方がないぐらいに俺の勝ちを物語っていた。大の字を少し緩めたような形で拘束されていた。緊張で息を止めていたらしく大きく深呼吸をした。それもそのはず、チャンスはたった一回のみだったのだから。あれを外したら自分の命がないと思うと誰だって緊張してしまうだろう。
息を荒げながらもマクベスのほうに目をやると………………!?
つい息が詰まってしまった。あろうことかマクベスは全く同様の色を見せずにこちらを向いたままだった。しかもこちらを向くだけではなくにやりとわらっていて余裕の色が窺えた。
「ふっふっふっ、あなたっていう人は本当に面白い。ここまで私を楽しませてくれるなんて予想外でした。」
「な、何がおかしいんだ!!」
「はっはっはっ、その反応もまた面白い。あなたに出会えてよかった。」
「お前、気味悪いぞ。」
「そんなこと言わないでくれよ、傷つくなー。もっと優しく接してくれよ、亮太君。」
「んなっ…………!?」
な、なんで俺の名前が分かるんだ?驚きのあまり次に言うつもりだった言葉が言えずに、詰まってしまったいや、けど、俺以外の奴でも戸惑うはずだ。
例えば異国に旅行に行ったとき、全然知らない人に話しかけられたぐらいびっくりする。しかもそれに加えて俺の名前も知ってるっていうんだ、そりゃ誰でもびっくりするんだろう。
箇所の幅も異国じゃなくて世界が違うんだ、俺を知っている人がいるほうがおかしい。
ただ、マクベスの言い振りや顔色を伺う限りでは適当に言ったわけでは無さそうだ。
「君みたいなのはすぐに耳に入り込んでくるんだ。もっと他にも情報はあるんですよ。例えば、あなたはこの世界の人間ではないですよね。」
「黙れ。」
なんでだろう、ただ自分の事を言われているだけなのに無性に苛ついてくる。それはまるで友達に馬鹿にされているような感じだ。
こんなこと今思う場面じゃないと思うけど。けどやっぱりなぜかそう思ってしまう。
それに焦りも感じられる。自分が追い詰めているのに追い詰めてない。どちらかというと俺がマクベスに追い詰められている。
「なぜこんなにも知っているんだ?まあ、気持ちが分からなくもないですが。」
「黙れと言っている。」
からかいではないからかいにまた反応してしまう。何とも言えない感覚で戸惑ってしまいそうになるのを抑えようと手を強く握りしめた。
「お前、気持ち悪いんだよ。俺のことを知ってたり。」
「見知らぬ他人の情報を持っていて何が悪いんだ?」
突然の問いに押し負けてしまいそうになるが、何とか答えをひねり出す。
「そんなの……わかるだろ。普通の人だったら言わずともわかるはずだ。」
「お生憎、私は普通ではないのでね。それに君だって他人の情報を持っていたりしているんじゃないかな?」
「そんなわけない。俺は普通のはずだ。」
「ほう、君が普通ねー。」
マクベスは疑うように一言喋った後にまた言葉を続けた。
「君はテレビというのを知っているか?」
俺は何も言えなくなってしまった。このマクベスの一言で凍り付いてしまった。
「テレビにはいろいろな人間が登場してくるよね。芸能人だったり俳優や女優なんかも出てくるよね。色々な人が出てくるといろいろな好みに分かれるよね。君にも好みがあるはずだよね。」
後ろから羽交い絞めされたような感覚に襲われて、動こうとしても動けなくなってしまった。口の油がすべて無くなってしまった俺はただ、マクベスの話を聞くことしかできなくなった。
「テレビなんか見ると齢なんかが表示されたりするけど、君は好みの人間の齢を知っているんじゃないのか。それって矛盾じゃないか。」
本当のことを言われて何も言えずに突っ立っているだけだった。ただ俺にはマクベスが何を伝えようとしているか分からなかった。
「別に知らなくてもいいんじゃないか?だって自分とは無関係だし直接会うことなんてほとんどないじゃないか。その人が演じているのを見ているだけでもいいじゃないか。なんでそんなに知りたがるんだ?」
一瞬沈黙が流れ、マクベスは口を開いた。
「それは興味があるからなんだよ。答えはとっても簡単だろ?だから、私は君のことを知ったんですよ。」
動けない体に追い打ちをかけるように悪寒がしてきた。
しかしそれは、一つだけではなく二つだった。
一つ目はマクベスの気味の悪さを。
二つ目は…………
あれ、う、動けない