第16話
ガコッ………………ザザザザッ
部屋の床に貼られてあるタイルは簡単に外れ、そこから這い出た。
「よしっ。予想通り。」
「そ、そうか。」
何となく気まずい空気をとっぱらってくれたのは、マキの方からだった。
俺は体をぐーっと伸ばして、聞いた。
「牢屋から脱出できたのはいいが、これからどうするんだ?」
「そりぁもちろん、マリアを助けるに決まってるよ。だってその為にここに来たんだろ、あんた。」
「まあ、そうなんだけど………」
大方当たっているので言い返すことは出来ない。なので、当たり前のように黙りこくってしまう。
マキは、見た目はあんなにも痴女丸出しって感じだが、優しい一面を持ち合わせている。優しい口調でマキは、
「じゃあ決まりだ。私について来い。」
マキは外したタイルを元に戻して部屋を出ようとした。このタイルはとても音が響くタイルらしく俺があとをついていこうとするとコツコツと音が響いてしまう。
一方のマキは全く音を立てずに、だからといって変な体勢で歩いている訳でもなく、綺麗に歩いている。
部屋を出ようとする姿に見蕩れてその場につったていると、
「どうしたのよ。早く行こうよ。」
「そうだな、すま…………」
ん、と言おうとしたがマキが言葉を遮って部屋にあった卓上鏡が置かれた机の引き出しを探し始めた。
そしてそこから取り出したものは、
「これとか良いんじゃないかしら。」
ガーデンナイフを取り出して、俺に渡してきた。
一般的なフォールディング式のナイフで、所持している時は危険性はあまりない。
刃の部分は、鎌のような湾曲で殺傷能力はあるように見える。
「これを、どうするんだ?」
突然突きつけられたので身構えて、一歩下がって聞いた。
「そんなに怖がらなくてもいいじゃん。これは護身用に持っておいたほうがいいんじゃないの?ご・し・ん・よ・う・に。」
マキは、俺を揶揄するように言ってきた。
もちろん、やられた方は恥ずかしいので構えを解いて、マキからガーデンナイフを頂戴した。
「しっかし、こんなので本当に護身することが出来るのかねぇ。」
「それは大丈夫だ。試しに自分の腕でも刺してみればいいじゃないか。」
俺はやれやれという感じで
「ああ、そうだな。じゃあ今度は俺からのプレゼントだ。」
「何よ、プレゼントなんて。」
俺は部屋の四隅のうちの卓上鏡が置かれた机ではない方にある、クローゼットの方に向かった。
クローゼットを開け、適当に見繕った服を手に取り、マキにそのまま渡した。
「これがプレゼント?結構しけってるわね。」
「お前の格好がやばいからだよ。そんなんで歩かれたら、一緒に歩いてる俺が恥ずかしいわ。」
そう、とマキは言い…………
「っ!」
その場で着替え始めた。俺はすぐにマキのいない方向を向いた。なんで突然着替え始めるか俺にはよく分からなかった。
一言声をかけてくれればいいのにな〜。っていうか一応こいつは淫魔な訳だし、やっぱりこういう風にさそってくるのかなあー。
適当な感想を抱いていると
「やっぱり気になっちゃう?」
せっかく変えた体の向きを台無しにするようにマキもこちらの目線に入り込もうとしていた。
また違う方向を向こうとしても、
「ねえ!ねえ!」
テンション高めに俺の目線に入ってこようとしてくる。
どうしたら、すぐに着替えるか考え吟味せずに言った。
「早く着替えなさい。もしかしたらマリアがもしかしてるかもしれないんだぞ?」
案外良い説明をすることが出来たので、すぐに着替えるのに行動を移してくれると思っていたら…………
「フッフッフッ」
なんでこいつ笑ってるんだ?気味が悪いから、どうした?と聞くと、
「それに関しては大丈夫よ。それは保証できるわ。」
「何?本当か、それは…………!?」
勢いでマキの方を向いてしまった………
マキは肩にかかっている紐の部分が、片方取れていて、胸がもう少しで見えそう、というか角度によってはほぼ見えてる状態にあった。
咄嗟に違う方向に向き直すと、
「あははは。君って面白いね。気に入った。マリアはもちろん君も絶対に死なせないよ。」
顔を赤くした俺を馬鹿にするように、そして喜んだように言っていて、とても殴りたくなったが、ここは我慢我慢。
「つーか、早く着替えろ!」
俺はムキになるように言って、その場であぐらをかいて座った。