第12話
こちらを向いた目はそのままこちらに近づいてきて、逃げ場のない俺は部屋の片隅にただじっと縮こまっていた。我ながら男なのに情けない。
……いや、縮こまってないから。相手が来るのを予測して、身構えてるだけだし。
する相手もいない弁明を心の中でした後は、静かになって余計に怖くなってしまった。
コツコツと近づいてくる足音はどんどんおっきくなっていって、自分に向かっていくのがわかる。
怖くなり目を瞑りこの檻を通り過ぎるのを待った。
足音が自分の耳に一番鳴り響くところで足音は止まった。
そのまま通り過ぎて欲しい気持ちは高まっていって目を開けようとした瞬間、
「おい、そこのお前。」
突然話しかけられ、反射的に目を強く瞑ってしまう。俺に話しかけられていないと信じて目を瞑ったまんまで………
「お前だ、お前。目を瞑っているお前だ。」
残念ながら俺に問いかけていたようだ。
声は女子中学生を彷彿させるもので、でも口調は全く中学生ではなかった。
「お前だと言うとるに、阿呆が。」
「はい。何でしょうか。」
少し怒り気味な言い方のせいもあり、つい敬語になってしまう。
「何じゃ。分かっておったら返事をせんか。」
「す、すいません。」
………………いや、俺は悪くないからね。
駄目だ。どうしても、敬語になってしまう。どうしてなんだろうか。
まだ俺が目を瞑っていたので、
「なんで目を瞑っている。早くこっちを見ろ。」
何をされるかわからないのに見る訳が無い。突然、檻の中に入って目潰しされるかもしれないのに。まあ、目を塞いでるから大丈夫だけど。
けど、目を瞑っているとまた何か言われかねないのでおそるおそる目を開けて…………
そこには座っている俺を見下すように声の主がいた。声から推測できたようにもちろん女子だった。黒髪で顔の感じは可愛い系って感じだ。
だが、問題はその格好であった。
その格好は紐ビキニに申し訳程度の装飾を施しただけの、着ていたら露出狂呼ばわり待ったナシの格好で。一言で言うと、淫魔。
その格好だけでも十分に犯罪並みなのに、見た目は中学生くらい、いや小学生くらいでマリアと同じくらいかこっちの方が少し大きいか。
どちらにしても、一緒に歩いているだけで法律で俺が捕まってしまいそうだ。
「おまっ、何だ、その姿は?」
「見ればわかるだろうに。淫魔だよ、サ・キュ・バ・ス。」
「いや、そうじゃなくて、その………」
言おうとしたことがうまく言葉にできなくて、わちゃわちゃしていると、
「まあいい。それよりも、お前はここから脱出せねばならないの。」
「え、あ、その。え?脱出?」
そうだと言わんばかりにドヤ顔をやってのけた変態露出狂は周りを見回した後、
「そこにいてよ…………ふん!」
その場で見ていた俺は夢でも見ているのかと思った。この世界自体夢みたいだけど。
彼女は鍵がかかっている檻の鉄格子を2本掴んで、見事に人が通れるぐらいに広げた。
「あ……な……なん……」
「こんなもの朝飯前だ。」
驚きを隠せない俺は目を大きく見開いたままで広げられた鉄格子を見ていると、なんでこんな力があるんですか?という俺の疑問に彼女は俺の心を読み取ったのか、
「サキュバスにだって多少は力がある。卑猥で、淫靡なだけではない。その偏見はいつまで経っても拭えきれないがな。」
「そ、そうか。それはすまん。」
というか、普通そういうイメージしかないだろ。
こんなこと言ったら俺の体がこの鉄格子みたいになりかねないので言わない。
「さあ、急ぐぞ。ついてこい。」
言われるがままに俺はこの牢屋から出て、彼女について行った。