私の新幹線での楽しみ方
今年の4月以降、私は東京通いが続いている。
一人暮らしの叔父が病院に入院したからだ。
静岡から東京まで、毎回新幹線を使っている。
新幹線の中での私の楽しみは、車窓から外の景色を眺めること。
4月には雪を頭にのせていた富士山が、だんだん雪がなくなっていくのを眺めたりした。
他には花。
『桜の木はわかるのだけど、あの黄色い花はなんだろう』
などと、一人楽しんでいたのだ。
だけど、今年は天気があまりよくなくて、私の楽しみも半減されていた。
富士山が、雲に隠れて見えないことが多いのだ。
◇
今日なんて最悪。
静岡駅の辺りでポツポツと雨が降ってきた。それだけじゃなくて遠くで雷も鳴っていた。
新幹線に乗って席に座ると、いつもの読書タイム。本を取り出し読みだした。
新幹線が動き出し最初のトンネルを抜けて、見るとはなしに外を見て驚いた。外は灰色で雨がかなり強く降っている模様。だって、景色が雨にかすんでいたのだから。
もっと驚いたのは外の音が聞こえないことと、窓の外を雨が真横に移動していくことだった。灰色の空に雷の光が見えたのに、どれだけ待っても雷のゴロゴロは聞こえてこなかったのだ。
そのあとも新幹線が東京に向けて進むにつれて、雨は降ったり降っていなかったりした。
多摩川を渡った所で雨が降っていたけど、東京駅周辺は雨が降っていなかった。病院がある御茶ノ水駅周辺も雨が降った後がなくて、ホッとしながら病院に向かったのだった。
◇
また、ある日のこと。いつものひかりに乗り、席についてホッとした。今日は時間がないから駅弁を買って新幹線の中で食べた。食べ終わる頃に斜め後ろから女性の会話が聞こえてきた。
「そういえばそろそろ富士の山が見える頃じゃないかしら」
「言われて見ればそうね。えーと、あの山かしら。半分雲に隠れているけど」
私はそっと後ろを振り返った。50代後半くらいの女性が二人、窓の外を見ながら会話をしていた。
(あ~、違うのに。その山は富士山ではないのに~。と、いうより今日は曇っているから富士山は見えなかったのよ。それから、もう三島だから富士山を見たかったら新富士の辺りで見ないと~。そこがベストスポットなのに~)
私は心の中でそう思った。教えようかどうしようかと思っていたら、女性たちは通りがかった車掌に話しかけて富士山はどこかと聞いていた。
「今日は曇っておりまして、あいにく富士山は雲に隠れてしまっています」
「まあ~、富士山はいつも見えるのではないの」
「いえ、天候次第では見えない時がありますね」
その会話から知らないとそう思うのだなと思った。というより、この人達は何故、富士山はいつでも見えると思い込んだのだろうと気になった。
その人達は次の停車駅の熱海で降りて行った。
◇
またある日。この日も曇っていたけど、雲の上から半分はしっかり富士山の山頂が見えていた。前の席の外国の方がおもむろにスマホを取り出して、窓越しに撮影をしていた。
それから窓に頭を寄せて自撮りをしていたけど、上手くカメラに収まったのかと少し気になったりもした。
◇
今年の夏は静岡も曇りがちで、富士山は雲に隠れて見れない日の方が多かった。
7月31日に癌の手術をした叔父は、まだ退院の見通しが立たない。
私はまだしばらくは東京通いが続くだろう。
そして、新幹線に乗るたびに富士山は見えるのだろうかと、車窓へと視線を向けるのだと思う。




