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漆黒騎士の異世界召喚  作者: 岸本組
1/4

召喚

「ついに……ついに召喚に成功したぞ!!」


 地面に大きく血で描かれた魔法陣。その目の前で、汚れたローブを身にまとった年老いた魔術師が叫んだ。

 魔法陣からは砂煙のようなもやが立ち込め、そこで一体何が起こっているのか分からない。

 もやが消え、魔法陣の真ん中に現れたのは漆黒の全身鎧を纏った漆黒の騎士だった。フルプレートアームの重量は重そうで、それを苦ともしてないこの男には強者の風格がある。素肌は全て鎧によって覆われており、闇のオーラが立ち込める。


「どこだ?ここ……」


 漆黒の騎士は呟く。少々マヌケな声に聞こえたが、急に召喚されて驚いているだけなのだろうと魔術師は判断した。


「ようこそおいでくださいました、勇者様」


 魔術師は深々と頭を下げる。まるで神でも崇めるかのように。深々と被られたフードで表情は見えないが、地面に水滴がある。おそらく今泣いているのだろう。地面には大量の魔導書らしきものが散乱しており、彼がどれだけ漆黒の騎士を召喚するのに時間を費やしたから伝わってくる。

 中には禁書らしきものも散らばっており、この魔術師は禁忌を犯してこの漆黒の騎士を呼び出したのかもしれない。


「勇者?俺が?」


 見た目とは似合わないマヌケな声を再び漆黒騎士は出すが、すぐさま情報補完の魔法陣が体を覆い漆黒の騎士は硬直する。その魔法は召喚された英雄にこの世界の情報を伝えるものだった。ただし「全てが正しい」とは限らない。中には意図的に間違った情報も入っており、国が英雄に力添えされやすいよう改変されている。


「なるほど、この召喚陣は異世界の英雄を召喚するものか。たしかに俺もあの中では英雄だったな」


 漆黒騎士はまるで何かを悟ったように呟いた。

 邪竜のような兜ををはめており、表情は見えない。もし、その顔を覗こうものなら魔術師は生きていないだろう。


「勇者様、国王様がお待ちです」


「私は漆黒騎士だ、勇者など似合わんが。ひとまずこの国の王とは顔を合わせよう。話をしなければ分かることも分かるまい」


 漆黒騎士は悍ましいほどに黒い鎧をキシキシと音を鳴らしながら歩き、暗い魔術師の研究所から外に出た。魔術師は漆黒騎士の後ろをまるで従者のように付き従う。


 本来いるべきでない漆黒騎士がこの世界に来たことにより、確実にこの世界の未来は歪み始めた。


◇◇◇◇◇◇


 俺は地球でオンラインゲームをやっていた。ゲームの名前は「ブレイブオンライン」、世界中のプレイヤーとパーティーを組んだり、ギルドを作ったりしてファンタジー世界を冒険するというコンセプトのゲームだ。特徴と言えば、「自由すぎるところ」だろうか。ブレイブオンラインには基本的にルールに縛られない、圏内PKとRMTだけが禁止されている。


 基本的な遊び方はクエストやダンジョンに潜ったりしてアイテムを集めたり、装備を作ったりすることなのだが、月に一回行われる緊急クエストなどにはたくさんのプレイヤーが参加していた。

 俺はブレイブオンラインの廃課金プレイヤーで、ギルド「漆黒の騎士団」のギルド長をやっていた。

 廃課金プレイヤーであるため緊急クエストでも最前線で戦っており、そのためついたあだ名が漆黒の英雄。全く恥ずかしいものだ。

 まさかゲームで「英雄」と呼ばれたせいで、異世界に召喚されるとはまったく考えていなかったのだが。


 異世界に召喚されたのは漆黒の英雄であり、それを操っていた「俺自身」ではなかった。なので顔も身長も体格も現実のものではなく、ゲームのアバターに近いものになっており、装備も家でゲームをしていた時に来ていた服ではなく漆黒の全身鎧だった。


 召喚されてすぐ記憶補完が行われ、呼ばれたこの世界のことについて理解したのだが、あくまでも世界のことについてだけなので、今の自分の強さが全くわからなかった。


 ゲームではコマンド一つで魔法を放ち、クリック一つで剣を振るう。この「リアル」なゲームの世界で魔法を使うにはなんらかのコツは必要なはずだし、体の動かし方もまだわからない。

 召喚された時点でこの世界には異能の力があることは確実で、記憶補完で魔法についての知識もある。しかし知っているのと実際に使うのとでは大きな差があるので、魔法を使う感覚を覚えることはひとまず目標に必要だ。


 ゲーム時代のことを思い出して、メニュー画面が無いか歩きながら探す。今は馬鹿でかい城の廊下を歩いているところだ。

 色々工夫していたら、メニュー画面を表示させることに成功した。


 これは表示させるのにコツがいるな、意識を集中させなければならない。ゲームをしている時にメニュー画面を表示させるとそこに集中してしまうように、リアルでもメニュー画面を表示中は周りのことがおろそかになる。これは慣れるしか無い。


 メニュー画面を開いて、ステータスを確認した。


 ーーよかった、ゲーム時代と全く変わっていない。きちんと引き継がれているようだ。そして、引き継がれたのはステータスだけではなく、アイテムやスキルもだった。この世界でゲームの金が使えるか分からないが、アイテムさえあればどうにかなるだろう。


 きっとこの特異な状況を飲み込めているのも、スキル「冷酷」「冷静」のおかげだろう。


「着きました、勇者様」


 魔術師が止まりそう言うと、俺はメニュー画面を閉じて意識を現実に戻した。

 目の前には大きな扉がある。おそらく王の部屋だろう。飾られた豪華な宝石たちがそう物語っている。


「魔術師よ、勇者と呼ぶのはやめてくれないか。せめて漆黒騎士とか、黒騎士とかにしてくれ」

「かしこまりました」


 喋り方は、ゲームの時に演じていたキャラを意識している。あくまで召喚されたのは漆黒騎士であるからだ。そもそも、この喋り方の方がこの世界の人間に舐められない。見た目は風格のある漆黒騎士なわけだしな。


 魔術師は頭を下げると、そのまま一歩下がる。

 そして、目の前の大きな扉が開かれた。


 ここからの流れは読める。王がこの世界を救って欲しいとか俺に頼むのだろう。この世界の現状は記憶補完によって得た。しかし、どうも胡散臭い。まるで「召喚された英雄はこの国を助けなければならない」と思わせるためだけに作られたかのようによくできたものだった。


 『ある日魔王が現れ、魔物が統率され町を襲い、世界の危機である』。実にありきたりな話だ。

 まあ、それが事実だろうと嘘だろうと俺は勇者なんぞやるつもりは全くない。そんな正義感など持ち合わせていない。この世界の問題はこの世界の人間が自ら解決すべきであり、巻き込んだものに責任を押し付けるやり方は気に入らん。もしも滅びそうになったら手伝いはするが、全ての運命を召喚されたものに委ねるのは間違っている。


 大きな扉が開かれると、大きな広間が目の前に広がっていた。入り口のまっすぐ先の豪華な玉座に50歳ぐらいの年よりの男性が座っていた。


「ようこそ我が国、アルトメタリアへ」


 真ん中の玉座に座っている国王、そのとなりには側近らしきもの、国王に行くまでに騎士やメイド、貴族などが道を作っていた。


「貴方がこの国の王か。わざわざ異世界から私を召喚して、何をさせたい」


 問いの答えなどとうに予想がついているが、一応聞く。それと同時に「ゲーム時代の魔法がこの世界でも使えるのか」と「魔法の使い方」を検証する。


 小さく「場所探査(フィールドサーチ)」と「能力探査(スキルサーチ)」と呟く。

 どうやらゲーム時代の魔法使えるようで、この場所の座標と騎士などのレベルやステータス、スキルがそれぞれ目の前に表示された。発動させるには、魔法の名前を言葉に出して、ゲームの時の効果をイメージする必要があるようだ。しかしそれは特に難しくはなく、魔法発動が音声入力になった感じだ。


 それにしてもよかった。魔法を発動させるのにスポーツをするみたいな、練習しないと覚えられない特別なコツとかなくて。練習しなきゃできないなら困ったところだった。しかし、案外簡単だな魔法を発動させるのは。もともと上位魔法以下詠唱破棄のスキルがあるため魔法名を言うだけで魔法を発動することができる。


 まわりの騎士などのレベルは20前後で、高くても30。貴族やメイドのレベルは1〜5。この中でもレベルの高い騎士は俺の覇気にあてられて、怯んでいる。圧倒的弱者しかいない中、一人だけ異様にレベルが高い「メイド」がいた。

 てか王城の守りはこんなものでいいのか。手薄すぎるだろ。まあ、騎士団長とかは忙しいからいないのかもな。

 とりあえずそのメイドのスキルを見る。


 表示されていたのは、「魔眼」「眷属召喚」「中位魔法以下詠唱破棄」「小物理攻撃無効」「毒無効」「魔法耐性-中」「麻痺無効」「睡眠無効」「状態異常耐性」「精神支配耐性」「嫉妬」だった。あきらかに「眷属召喚」とかは人間のもつスキルではない。おそらく魔族かヴァンパイアだろう。それに姿を幻術魔法で変えている。今は黒髪の目立たないメイドだが、本来の姿は金髪のツインテールをした綺麗な顔立ちの美少女だ。このレベルの美少女はテレビでもそうそう見ない。いや、そうそうではないな。そう思うほど美しい。


 王がさっきの質問を返そうとしたので、すぐさま意識を切り替えた。


「我々人類は、魔族が魔物を束ね出来上がった国と戦争をしている。しかし魔族と人間との戦力の差は大きく、敗戦が続いた。そのため、我が国では異世界から勇者を召喚する古の方法を用いたのだ。前回はどうやらまだ素質はあるがまだレベルの低い異世界の少年少女を召喚してしまった様だが、今回は格が違いそうだ。我々の頼みは一つ、勇者となって魔族の国の王、魔王を打ち滅ぼしてほしい」


 前回に召喚された異世界召喚の少年少女ね。可哀想に。きっと小説みたいに若い高校生とかが召喚されてそのままいいように言いくるめられ勇者として頑張って今はレベル上げでもしているのだろう。

 その点俺はラッキーだな、ほぼチート並の性能で召喚されたのだから。


 ーー勇者ってのは俺の「漆黒騎士」としての本質とは違う。断ろう。

 もともと廃課金でゲームをやっているような男なので、元の世界に帰りたいみたいな若い願いなどない、むしろあのクソみたいな、ゲームの中でしか力を得られないような世界に戻ろうとは思わない。

 この世界を漆黒騎士として、楽しんで生きていきたい。


「悪いが、私は勇者になるつもりは無い。たしかにかつては英雄と呼ばれたほどではあるが、私には君たちを助ける義務が無い。もしも魔王が私の敵となるならば滅ぼそう。それで構わないかね?」

「い、いやしかし…」

「お待ちください、勇者様!」


 王は予想していなかった答えに動揺を見せる。王の隣にいた王の娘らしき少女も俺を説得しようとするが、すぐさま俺が話題を変える。


「ところでそこのメイドのフリをした魔族。話を聞かせてくれないか?君たちの王はどんなやつなのかね?」


 その言葉を聞いた瞬間、そのメイドは隠していたナイフを取り出し、構える。それを見た騎士達も慌てて剣を抜刀する。近くにいたメイド達は叫び声をあげながらそのメイドから離れていった。


「よく気がつきましたわね。ほんと恐ろしい、魔法でも貴方の実力が全く測れない」

「おおかた、メイドとして忍び込んで、召喚された勇者の実力を魔王に報告でもしていたのだろう。まあそれはいい、私は魔王に興味がある。話を聞かせてもらいたいのだが、ここではあれだな。場所を変えよう。ーー転移門(ゲート)


 俺は最上位転移魔法ー転移門(ゲート)を発動させた。転移門(ゲート)は、指定した座標にいつでも、誰でも転移させることができる魔法だ。座標は先ほど場所探査(フィールドサーチ)で広い場所を見つけているので問題無い。

 

 突如黒い空間の歪みが生まれ、その歪みがメイドを飲み込んだ。次に自分がその渦の中に自ら入り込む。

 黒い渦の中に入るとすこし体が重く感じたが、すぐさまその感覚も消え、広い草原へと出た。


「ここは………王国近くの草原⁉︎」


 メイドが突如転移したことに驚きを隠せずにいた。


 この草原は王国のすぐ近くにあり、低レベルの魔物が存在するエリアだ。本来は低レベル者などが狩りに来るようなのどかな場所なのだが、漆黒騎士の存在によりそんな雰囲気は一切消えていた。

 ただ悍ましい存在が一つあるだけで、こうも変わるものかとメイドはーー魔族の少女は考えていた。


「そろそろ本来の姿を見せてもいいのではないか?ーーいや、構わない。私が消そう。ーー魔法無効(マジックキャンセル)


 上位対抗魔法ー魔法無効(マジックキャンセル)を発動させメイドにかかっていた魔法が効力を失い、目立たないメイドだった姿から、黒の派手なドレスを着た金髪ツインテール美少女が姿を見せる。肌は真っ白でロシア人のようだが、顔たちはまるで人形のようだ。


「驚いたわ、剣士だと思っていたけどここまで強力な魔法を使えるなんて。魔法剣士って所かしら。それにさっきの転移魔法、あんなの見たことないわ」


 この世界の魔法と俺のやっていたゲームにあった魔法は同じでない可能性があった。だが彼女の一言によって、この世界の魔法とゲームにあった魔法が同じでない可能性が高いことがわかった。今確かめたいのが、俺の実力とこの魔族の実力。彼女のレベルは78だ。王国の城にいた者共とは格が違うほどレベルが高かった。俺のレベルは200なのだが、それはゲーム内でのレベル上限が200だったからであって、この世界での上限が200であるとは限らない。もしかしたら今以上のレベル上げが可能かもしれない。そのためこの世界でかなり上位の実力であろう魔王の強さが知りたい。


「それで、君の名は?」

「まあいいわ、私が先に名乗ってあげましょう。私は魔王様を支える七魔人の一人、嫉妬をつかさどる魔人。エルシュア・ブラッドリーよ」


 嫉妬ね、七魔人といい七つの大罪が関係してるのか。さっきスキルを盗み見したとき、嫉妬ってあったからな。まあゲームには嫉妬なんてスキルは無かったから、気をつけた方がいいか。


「ほう、魔人と魔族は違うのか?」

「たしかに魔族と魔人は一緒と言えば一緒よ、けど魔人は魔族の中でも魔力がとても高く人の形にとても似ているの。魔族は魔力が高いほど人の形に近いものになるってことよ」

「なるほど、理解した」


 要するに、魔人は魔族の中でもトップクラスの実力があると言うことか。それと、彼女はけっこう魔族の国の中でも実力があり権力もある方っぽいな。

 

「それで、貴方の名は?」

「そうだな……適当に漆黒騎士とかダークナイトとか呼んでくれ。私は英雄として召喚されたことにより名は失ったのだ」

「そう……では漆黒騎士。私は正体が見破られた以上、もう王国のスパイとしてはいられないわ。本来なら国に帰るところだけど、貴方のような危険な存在を放っておくこともできない。これ以上強くなって脅威になる前に消させてもらうわ」


 エルシュアは体内の魔力の活性を高めていく。長い金髪のツインテールが逆立ち、眼が赤く光る。

 体内で魔力を練り、魔法を放つための魔法陣を展開させる。


「力の差が分からないのはしょうがないか。戦闘経験は貴重だからな。手合わせしよう」


 背中に装備していた二本の剣の内、一本を抜く。

 禍々しいほどの黒色で、黒ずんだ赤の線が入った剣は、圧倒的な存在感を放っていた。


 魔剣エクスカリバー、それがこの剣の名だ。この剣のためにいったいいくらつぎ込んだことやら。

 それにしても軽いな。いや、本当なら重いはずなのだが、軽い。鎧は軽量化の魔法がかけられているから分かるが、剣にはかかっていない。単純に自分の筋力が強いのだ。再度、これが自分の元の体でないことを認識する。


「魔法の中でも、最も強力な上位魔法ってのを見せてあげるわ。ーー炎帝よ、その炎の加護を我に与え目の前の敵を討ち滅ぼせーー火炎地獄(インフェルノ)!」


 エルシュアによって放たれた魔法は、俺の下から現れた。展開された赤い魔法陣から、地獄のような炎が立ち込める。

 約1000℃の灼熱の炎が漆黒騎士の鎧を燃やす。上位魔法と自称するだけの事情改変。範囲も広く、漆黒騎士を中心に半径五十メートルの範囲で炎が広がっている。


「ほう、これが上位魔法か?詠唱は時間の無駄だが、なかなかやるじゃないか。ーーだが甘い」


 俺は魔剣エクスカリバーを地面に突き刺した。その直後、魔法陣が崩壊し発動していた魔法がキャンセルされた。

 魔剣エクスカリバーには魔法を断ち切るスキルがある。そのためどれだけ強力な防御魔法だろうと、この剣があれば斬ることができる。

 魔法陣にも影響を及ぼすことができ、直接魔法陣を切ることで魔法を無効化できる。

 魔剣エクスカリバーはそんじょそこらの伝説級(レジェンド)アイテムとは違う。伝説級(レジェンド)アイテムはどれも強力な力を秘めているが、これは課金ガチャの0.00001パーセントでしかでない幻の武器だ。

 これが出た時俺は泣いた。


 この世界でもゲームのときでもどうやら魔法の強さは大きく四つに分けられる。下位魔法、中位魔法、上位魔法、超位魔法だ。実際、この世界で超位魔法があるかは詳しく分からないが、歴史上使われたことがある「らしい」。もちろん俺は超位魔法をつかうことができるが、基本超位魔法の威力は絶対だが対軍や対都市の時に使うことが多い。少人数との戦闘では詠唱が命取りになるし、わざわざ超位魔法を使わなくても上位魔法で十分だからだ。それに、この世界とゲームの時との上位魔法の質は大きく異なるようだ。


 彼女が発動した火炎地獄(インフェルノ)などは俺のやっていたゲームには無かった魔法だ。上位魔法と言っていたが、正直威力がしょぼかった。さっき使った転移門(ゲート)ですら上位魔法だ。(まあ最上位ではあるが)

 あの程度で上位魔法を名乗られてはこっちも困る。あれではせいぜい中位魔法がいいとこだ。

 もともと、PVP(プレイヤーvsプレイヤー)ではレベル5の差で圧倒的に力の差が生まれる。技術があるものはその差は頑張れば埋めれるのだが、そもそも技術があるものがレベルが低いわけがない。レベル上限である200なのは当たり前だ。

 要するに、100以上レベルの差がある彼女と俺ではまず勝負にすらならない。頑張って埋めれるほどの力の差ではないのだ。


「あり、えないわ。上位魔法よ?何十人もの相手を死ぬまで焼き殺す火炎地獄(インフェルノ)よ?それを剣を突き刺しただけで消すなんて…」

「どうやら、こんどはこっちの番のようだ。ーー物理障壁(アタックシールド)攻撃強化(パワーブースト)魔法無効障壁(マジックキャンセルシールド)高速化(スピードアクセル)、スキル無効障壁(スキルキャンセルシールド)先読(ビジョン)み。バフはこんなところか」


 ゲームをやっていたら常識だが、バフは重ねがけすることに意味がある。よく異世界転移ものの小説のバトルでたまに攻撃力などを上げるバフが描かれるが、本来バフは戦う前に大量にかけておくのが定石だ。

 今の俺は2回までの物理攻撃、魔法攻撃、スキルによる攻撃を無効可能で、5秒先の未来まで見ることができる状態だ。


 危険はできるだけ排除しなければならない。まだよく分からない世界で、調子に乗って強敵に倒されるようなことがあればいい笑い物だ。

 生き返る手段はあるが、確実に生き返る保証は無い。いくらレベル差があろうと侮るのは命取りだ。慎重に詰ませていこう。


「まだ負けたわけではないわ!」


 エルシュアの両手から中位魔法レベルの火の玉が放たれる。しかしそれは軽く魔剣エクスカリバーによってかき消された。


距離短縮(ショートカット)


 一定距離ある座標に瞬間的に移動する魔法を使い、エルシュアとの間合いを詰める。

 エルシュアはそれを反応することはできなかった。


「血の契約の劔」


 音もなく現れた禍々しい赤色の魔法剣が、エルシュアの体を突き刺した。傷口から大量の血が垂れる。


「かっ、、な、、ぜ、、。は、、はや、、すぎる」

「大丈夫、心配するな。死にはしない。死にそうになった時、君は私の従者となる。ただそれだけだ」


 おそらく、こととき俺の口角は上がっていただろう。しかしその表情は恐ろしい兜により見ることはできない。ポタポタと血は流れ落ち、エルシュアは焦りをあらわす。


 血の契約の劔は俺のスキルの一つで、自分のレベル以下の相手のHPをこの劔で0にした時、相手を強制的に支配するというものだ。相手は支配されているとは思わず、「従者なのが当たり前」となる。まあ、本来モンスターを配下にするときに使うスキルなのだが、これほどレベルの差があったら支配できるだろう。


 俺は血の契約の劔をさらに深く差し込む。グチュグチュと臓器をかき混ぜる。


「ぐふっ、、、まだ、、、、まだよ!……嫉妬」


 エルシュアの右眼が七色に光る。

 効果は不明だが、それが切り札であることは間違いない。光信号と音と魔力の波動により、なんらかの影響を相手に与えるスキルのようだ。しかしながらそのスキルは俺には届かなかった。


「な、、なんで、、⁉︎くそっ、、嫉妬、、、、嫉妬、

嫉妬、嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬!」

「無駄な足掻きだな」


 エルシュアの右目から血が溢れる。スキルの過剰仕様による反動だ。運が良いのか、俺の兜には精神支配を完全に無効にする能力がある。

 嫉妬のスキルの正体は精神支配だと思われるが、それに完全耐性がある俺は、そのスキルはただの光信号でしかなかった。そもそも、レベル差がありすぎて精神支配耐性が無かろうと効かなかったかもしれない。


「ち、、くしょ、、、う」


 エルシュアの抵抗は無くなり、バタリと地面に倒れた。目に生気は無く、刺された箇所からの出血は止まらない。


 完全にHPが0になると血の契約の劔が溶け、エルシュアの体内に溶け出していった。

 全てが体内に溶け出した頃には、彼女の出血は止まっていた。それどころか、HPは全て元に戻っている。まるで先ほどの死など無かったかのように。


 少し経った後、エルシュアは起き上がった。

 手で目をこすり、まるで寝起きだ。


「あ、、、、私死んだの?」

「なんだ、寝ぼけているのか?」


 漆黒騎士の姿を見るなり、エルシュアは慌てて背筋を伸ばし立ち上がった。彼女の顔は、敵を前にした顔ではなく、絶対的な主人に捧げるような顔をしていた。


「こ、これは失礼しました、マスター。魔界の7魔人の1人、嫉妬のエルシュア。これよりマスターの従者となります」


 漆黒騎士の目の前で跪き、完全にエルシュアは漆黒騎士の支配下に置かれた。


 どうやらスキルもなんの問題もなくこの世界で通用するようだ。それにしてもこれは大きな収穫だ。魔界の7魔人の1人を従者にできたのは大きい。これから大きな情報のアドバンテージがとれる。それと、、、、可愛い美少女の従者ができるなんてちょっと、、いやかなり嬉しい。やっぱり一人旅は寂しいもんな。


「エルシュアよ、、まずは魔王のことについて詳しく教えてくれないか?」

「かしこまりました」


 エルシュアの口から、魔王について語られた。


「まず魔王の名はディアボロス。7魔人よりも強さは二倍も三倍も上です。ディアボロスは歴代魔王よりも格が上で、固有の強力なスキルを持っているようです。魔法の知識も高く、異世界から英雄を召喚する禁呪も使うことができるようです。過去にその禁呪により、2人の異世界の英雄が魔界に召喚されています。英雄だけあって、魔王が自分よりも強いと言っていました」

「よく魔王はその自分より強いものを従わせているな」

「いえ、従わせることはできていません。しかし魔界で好き勝手に自由にする代わりに、魔界の緊急時に力を貸す契約を2人ともしています。なので、実際2人の英雄は魔界側と言っていいでしょう」

「召喚された英雄の名前は知っているか?」

「1人は知っています、もう1人の方は知りませんが」

「教えてくれ」

「……ジークフリート」

「あのドイツの英雄か」


 魔界側が英雄を召喚していたことにも驚いたが、まさかジークフリートが召喚されるとは思いもしなかった。あれは伝説上の人物ではないのか?いや、、俺も「実際」には存在しなかった。漆黒騎士は架空の存在であり、実際はただのなんの力もない男だ。つまり英雄としての概念を召喚しているのか。

 召喚されたのはもしかしたらいたかもしれない本物のジークフリートではなく、人々に伝え語られた伝説上のジークフリートとしての肉体に、いたかもしれない本物のジークフリートの精神が入っている存在なのかもな。

 となると強さは計り知れない。レベルはどうなのか知らないが、少なくとも数々の逸話がスキルとしてあるのだろう。


 ーー悪竜を倒した不死身の英雄。


 俺はその伝説の存在と会えるかもしれないという歓喜を感じていた。

 おそらく、俺はジークフリートと戦うことになる。そんな予感がしていた。









 

 

 



 

 

 モチベあれば続き書きます。

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