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GENE1-8.ゲーム開始のお知らせ

挿絵(By みてみん)



 うっすらとした意識の中で、ぐるぐると考えが巡っていく。

 嫌だった。後悔はいつも遅い。早とちりな彼女は、昔から何も考えずに行動して、沢山の後悔をしてきた。


 でも今回は違った。取り返しの付くような問題じゃない。簡単に命を奪ってしまった。映画じゃない。おとぎ話でもない。やったのは自分だった。

 リサを襲ってきた兵士は死んだ。いや、違う。リサが殺したのだ。


 人間の力じゃなかった。

 頭の中のスイッチを押したら、まるで新しいアプリをインストールしたみたいに新しい機能が追加された。

 導入された器官はこめかみの裏にあって、そこから血管を配線として、つま先から一本の髪の毛の先端まで、不思議な力が送られている。吐き気がするほど強力だった。


 怖いのはその力の限界がわからないことだった。世界を歪ませる権限を与えられた。それだけはわかる。無形の神のような力を使いこなせる気がしない。放り出したくても遅かった。


 そして、スイッチを押した時、頭の中にゲームのルールが流れ込んできた。添付されていた文字情報はたった一言分である。


 『ゲームスタート。管理者の分身を七回殺せ』


 あの『ぬいぐるみ』はちゃんと説明する気がないようだ。どうやら残酷な世界に訪れた事実は変わらなかった。


「……」


 目を覚ますと美しい木天井が見える。ふっくらとした布団に寝かされていて、どこか懐かしい香りがする。


 この世界に来て私は頭痛持ちになったようだと、リサは痛みのする頭を抱えた。

 お酒を飲んでいないのに、酔ったような気持ち悪さと頭痛を覚える。何度目かのこの苦しさには、どうしても慣れない。原因はおそらくこの異物、おかしな力なのだろう。


 頭を揺らさないようにゆっくりと自分が寝ている場所を確認した。


 畳が敷かれている日本の伝統的な和室だった。襖で囲まれて、小さな床の間があって、白い照明が天井に輝いている。ランプの光ではなかった。子供の頃、家族旅行で泊まった温泉旅館を思い出してしまう。


「やっぱり夢だった……?」


 元の世界に戻ってきたのかもしれない。

 あれは本当に夢だったのかもしれない。

 どうしても信じたくなってしまう。アレを自分だと思いたくなかった。


 まるで校庭で黒蟻を潰すみたいに命を消した。まるで自分が化物じゃないか。止まらない震えを抑え込むように布団の上で膝を抱えてしまう。


 廊下を勢いよく走る足音がリサのいる部屋に近づいてきた。

 その音がなる方向を眼で追ってしまう。今は誰とも話したくない。未知の現実をそのままにしておきたかった。何も知りたくもないし、このまま布団の中にいたかった。


「ダメ! 開けな――」


 正面の襖が勢いよく開き、和装の少女が畳を飛び越えて、リサの寝ている布団へダイブする。かなり乱暴にリサは現実へ引き戻された。 


「リサお姉様ーー!!!」

「っ!!!??」


 抱きついたのは、ウサギ耳をつけた美少女だった。スーだ。何故か姿が変化したスーだった。艶やかな黒髪で、柔らかなショートボブ。同じ髪型である。あの毛むくじゃらの腕は人間のものになっていた。


 真っ白な衣を着ている。袖はゆったりと長く、小さな足を突き出すように淡い紺色の袴を着ていた。袖と首元に飾り紐が付いていた。和服とウサギ耳が意外と似合っている。


 そんな彼女がリサの胸に飛び込んだ。

 布団が数十センチ動くほどの衝撃を腹部で受けとめる。

 誰も近づいて欲しくなかったのに、この世界はほっといてくれない。抱えてきたモヤモヤが衝撃でどこかへ吹き飛んだ。


「お姉様-!! お姉様-!!」

「やめて……揺すらないで……。吐く……」


 その代わりに、苦しみがわき出した。

 渾身のハグでこめかみの鈍痛が強くなる。口から何か出てきそうになるのをなんとか押しとどめて、左手で少女の頭を、右手で自らの口を押さえる。


「やっと起きたか、待ちくたびれたぞ」


 開いた襖から一人の女性が入ってきた。東洋人の顔立ちをした巫女装束の彼女は、スーよりも数段豪華な飾り紐をつけていた。髪は淡い栗色で背中まで伸びている。


 ゆったりと髪を揺らしながら、寝ているリサの元へ歩み寄る。

 その神秘的な美しさで、リサの吐き気はちょっと治まってしまった。


「ククリの森の祠へようこそ。高遠リサ。神様の代理人(プレイヤー)と呼んだ方が良いかのう? 妾はラン=トラオラム。ランでいい。もう覚醒したみたいじゃのう。神の力を与えられた気分はどうじゃ?」

「……ぇ?」


 全く予期していなかった言葉に反応しようとして変な声が出てしまう。それを見てランは嬉しそうに笑い出した。


「教え甲斐がありそうじゃのう。まず、風呂にでも入ってこい」


 妖艶な笑顔で彼女は小さく指を振ると、白い光が瞬いて頭に衝撃が走る。


「ふげっ」


 ぽんと白いタオルと木桶が現れて、リサの頭頂部に直撃した。スーと合わせて二人分の衝撃で、リサは本当に意識を失いそうになってしまった。

挿絵(By みてみん)


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