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GENE6-15.Present Time


 四番目(フォース)の爆心地に真下にメア達はいた。

 死闘を急遽中断し、身震いした彼女達が見たのは、触れるものを粒子状に分解し、天井から丸呑みするように迫り来る、虚無の衝撃波である。真っ白な形のある白色光だった。濃密な白は容赦がなく、彼女達は取り込まれるしかなかった。


 地図が書き換えられる爆発の後でも、時の流れは変わらない。

 夜明けである。朝日と共に街の、いや街が喰われた痕が現れた。

 蛍光で彩られた賭博場群も、金銀色の世界有数の名ホテルも、極彩色の看板や、夜を楽しむ観光客と、それを囲む防壁でさえ、聖女の休息地(フリア)の何もかもが消滅してしまった。


 環境を構築していた世界の断片(コード)が、全てサイコロサイズの立方体(キューブ)に置換され、漆黒の砂漠が広がっていた。息をする者、しない物全てサイコロとなり、風に吹かれて、コロコロと転がる。


 朝焼けと黒の地平線。

 世界の屑で埋め尽くされた地上に一陣の風が吹くと、高音が連なって、冷気を帯びた気流が衝突し、一つの桃色の蕾の隣を抜けた。

 花の異物は、砂漠の上で酷く目立つ。花は巨大で、子供一人を包み込めるサイズである。鮮やかな桃色の、鬱金香(チューリップ)を彷彿とさせる釣り鐘型。茎の部分が全て地面に突き刺さったように、花の部分だけが直立し、砂漠に取り残されていた。


 外側の花弁にぴしリと亀裂が入り、一枚、また一枚と地面に落ちる。

 待ちきれないかのように、小さな黒靴が内側から飛び出した。硝子でできたかのような花は美しい。しかし、片足の一撃で数枚の花弁が粉々に粉砕される。


 そして、現われたのは、お腹をさするメアである。半壊した硬質の花弁は、昆虫の死殻のように地面に散らばり、飛び降りた彼女に踏みしめられる。少女の片手には、宝物庫で拾ったのであろう、香炉型の聖遺物が載っていた。エアが戦闘中に使用した聖遺物と同じタイプである。


「あーあ、使い物にならなくなった。ま、他もあるからいいかしら」


 花の残骸がなくなるとともに、手の平の上の香炉も消え去った。この世界の物の価値を知る人間であれば、噴飯ものの台詞である。

 そして、メアは能力で収納していた彼等を吐き出す。両の手の平からひねり出すように、二人の女性と二人の大男を乱暴に放り投げた。


 黒い金属音が鳴って、積み重なる彼等には、幸い意識はなかった。メアは舌打ちをして、大男のうちの一人、傭兵の服装の男の首根っこを掴んで、右手でいとも簡単に宙に投げる。子供の風貌には似合わない怪力である。


 そして、目覚まし代わりに空中で蹴りつけると、投げられた彼は見事なくの字に身体を折り曲げ吹き飛ばされる。


「――がっ!?」

「馬鹿……レイ、貴方負けたでしょ? ざまあないわね」


 三対一で一歩及ばずというところだろう。メアも加われば結果は覆されたかもしれない。しかし、彼は相も変わらず無言で、弁明すらしなかった。苦々しい顔をして彼はむくりと起き上がる。


「これで貸しは返したわよね。ほら、起き上がりなさい。乗り物になるくらいの元気はあるでしょう。アンタの方が早いんだから――」


 転がっている三人を一瞥すると、目を覚ました一人の少女と目が合った。寝起きの少女はメアと同じ金色の髪である。倒れたまま寝ぼけた声で、彼女はメアに素朴な疑問をぶつけてしまう。


「――何で助けてくれたの?」


 メアは何も答えずに、振り向きもしない。颯爽と歩く彼女の目の前に、巨大化した黒犬が現われた。彼女は一足でその背中に飛び乗った。


「ほら、レイ。お師匠様を迎えに行きましょうか」


 黒い獣は、再度、一陣の風が吹くとともに消え去った。

 意識を失っているランを拾い、この広大な砂漠を彼等が脱出するのは、一時間後のことである。




 柔らかな黒毛のベットの上、暖かい日差しでランは目が覚める。僅かな上下の振動は、人を乗せているのを配慮しているからなのだろう。会話するには問題ない、上質な乗り心地だ。レイの背中に乗っている二人には、意志で自由に動かせる黒毛が、シートベルトとして括り着いていた。


 今はなき聖女の休息地(フリア)へ徒歩で向かった往路を、高速で駆け戻る復路である。

 青空には悠々自適に雲が流れて、地平線の黒い砂漠は遠くに見えて、彼等が走る大地は真っ白な塩の平地。ランとエアがかつて出会った湖畔だった死の大地である。過去の大いなる神の代理人(プレイヤー)同士の戦いでは、大量の海水を用いたのでここは塩の大地になっていた。


「ほら、お家に帰るわよ。お師匠さん」

「――お主達に助けられるとは、妾も腕が落ちたな」

「助かったことを喜びなさいよ。お師匠さんは、もう昔の自分じゃなくていいの?」

「ああ、もう昔に戻る必要はない――」


 ランは言葉遣いも元に戻っていて、メアは少し戸惑った。

 風の速さで駆け抜けて、黒の砂漠はもう見えなくなった。しかし、その範囲は広く街一つ、途中の死の大地まで侵していた。想定していた回収地点(リカバリーポイント)を変更して、メア達はローレンシアとゴルド帝国の国境を目指している。

 長髪はたなびいて、ランはかけていた眼鏡を外す。昔から使っていた代物であるが、もう使うつもりも予定もなかった。おもむろに隣にいたメアに投げつける。


「なによっ」

「……使わなくなった。やる。要らなかったらアルルにでも渡せばいい」

「伊達眼鏡だったのこれ? ふーん、いいわよ。もらってあげようじゃない」


 「ああ……」とランは押し黙り、何もない土地を眺めている。あれだけ煩わしい彼女が何も喋らないと、メアは逆に気になってしまう。


「なに? 悔しいの?」

「心配してくれるのか!? 面白い。大きい方も可愛らしいじゃないか」

「励ましてるわけじゃない! ぶっ殺されたいの?」

「フン――今なら殺せるのう。悔しい――か? 確かに悔しいな」


 荷台の上に寝っ転がって、空を見上げる。掴み取れないほど遠くへ行ってしまった。ランは寝転んだまま天に向かって手を伸ばし、虚空を掴もうとして諦める。だらりと右腕を下ろす。彼女に切り付けられた右肩はいつの間にか治療されていた。ここまで気配りするような女だったとランは思い出す。しかし、傷が治されたことに、もの悲しさを感じてしまう。


「これ、アンタの隣に落ちてわよ。このために来たんでしょ?」


 ありがとうと、ランはメアから彼女の大切な木箱を受け取った。中に詰められた生命は崩壊に呑み込まれた。あれだけ喋っていた彼女が喋ることはない。最後に別れの挨拶を切り出され側のランは、負けた気がしてならなかった。

遂に六章終わりました-!やった!頑張りました!お話終わらした瞬間はいつも達成感に満ちあふれます。


次章ぽちぽち書いています。プロット書くのやっぱり楽しい。しかし、プロットはいつぶりに書いているのか。久しぶりです。最終章、綺麗にたたみたいですね。じっくり時間をかけて書きます。お待ちください。。


新しいイラスト書いてるんですが、間に合わないので、後日後付けで入れる予定です。


******


リサ「オヒサシブリデス」

スー「片言ですね。どうしたんですか、お姉様」

リサ「ハナシカタワスレタ!!」

スー「思い出してー!!」

リサ「――っていうのは冗談だけど、ねぇスーどうしよう」

スー「急にいつもの会話のトーンに戻さないでください。どうしました?」

リサ「どうせ過酷になるお話に出たくないよね」

スー「ファイトです」


******

最終章「CURE」


挿絵(By みてみん)



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