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GENE6-14.A shame then I can read your mind


 賑やかな夜の空が腹立たしい。繰返し唾を飲み込んでも、黴の生えた華やかさでは気が紛れない。憎たらしくなって、彼女は全てを思うがままに踏みつぶしたくなった。何事もなかったかのように蠢き続けるこの世界を、形が残らないほど粉々にしたい衝動が湧き上がる。


 この世界の表面からは、一連の出来事が十分なのか、数時間なのか、それとも五分経過したのかわからない。栓が抜けたように気力が抜けて、疲労が増していく。背筋から指先に、そしてつま先まで倦怠感が満ち満ちて、酷使された願いの反動で立ち続けることはできなかった。


 空っぽになった彼女は――ランは膝立ちになった。

 まるで夢を見させられていたかのようだった。

 夢の前と後で決定的に異なっているのは、転がっている筺に亀裂が入っていることだった。


 パチパチパチパチと拍手の雑音が耳から入る。褒め称えるわけでなく、心のこもっていない、惰性で送られた拍手だった。振り返らずとも、ランはそれが誰なのかわかっていた。


「……ここまで餌に食いつきがいいと見てて面白いですね。蘭さん、二年ぶり……ですか?」


 立つことはできなかった。しかし、何種類の殺意を込めて顔だけで振り返る。

 壁に寄りかかりながら、力の抜けた拍手をする彼がいた。

 純白のシャツをだらしなく着こなして、風が吹けば消えてしまうような線の細い紳士面。感情も影も薄く、瞳に生気は帯びていない。蝉の抜け殻のような男だった。


「何故ここに来た?」

「お別れを言いに来たんです。このまま去るのも申し訳なくて」


 彼は四番目の神様の代理人(プレイヤー)である。壱番目のランに、二番目のエア、そして発見されていない三番目の次のプレイヤー。自身の願いで自身をこの世界の歴史から消した男。ラン達と築いてきた世界を火にくべて、新しい世界をつくってきた男。過去の禍根も思い出も台無しにした男である。


 声、顔、立ち姿は見たことがあるようで、全くない。自分自身の痕跡を世界から掻き消した彼は、

朗らかにランに笑いかけられる。


「勉強になりました――その狡猾な戦い方、僕も参考にしたいです」

「殺してやる」

「ああ。元気そうで良かった」


 選べる選択肢は少なかった。気力は乾ききっていた。

 しかし、カーテンが唐突な風に翻るように唐突に事実は反転する。神様の代理人(プレイヤー)としてのランはまだ負けていない。


 膝立ちの姿を隠滅して、突如彼の背後から強襲する。誤魔化しに能力を使う余裕はない。親指を除いた四本指の爪の先端に死力を詰め込んで、彼の心臓を目がけて左手を伸ばす。


「やっぱり油断ならない人ですね」


 無感情の溜息を吐かれてしまった。

 簡単に足払いをされ、意図も容易く身体を浮かされる。事前に何度も予習したような身体の動きである。固い床に叩きつけられて、ランはもう身体を起こすことさえできなかった。


「最初からこうすれば良かった」

「がぁっ――」


 頭を力強く踏みつけられて、頭蓋骨と固い床が衝突する。脳が揺さぶれて思考が止まる。彼の力で人間に戻されてしまったのだろう、吹き出した疲労に遂にランは指を動かすことさえできなかった。


「……殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるっ!!!」

「驚いた。良く喋れますね。僕も、そうしてくれると、嬉しいです」


 呑み込むような虚無感に包まれて、猛々しい感情も力も消え去ってしまう。四肢の震えもなくなった。ただ標的を見つめることはやめなかった。気味の悪い視線が降り注がれる。


「そんなに怒らないでください。僕のお陰で再会できたんだから」


 彼は冷めた視線を振って、隅の小箱を見つめていた。浮かべた微笑は、作り笑いなのか、苦笑いなのか、嘲笑なのかもわからない。


「この人も馬鹿な人ですよ。僕が定着させたのに――ん? わからないんですか? 貴方がAirさんにされたことじゃないですか」


 ズボンの尻ポケットに無造作に突っ込んでいた、回転式拳銃(ピースメーカー)を右手にもって、まるで指を指すように発砲した。彼女の大切な筺は跳ね上がり、数回転して半壊する。ランの眼光が増す。しかし、彼女は見ることしかできなかった。


「僕にとっては最初の実験です。知ってますか? いくらだって複製なんてできるです、人が人を創れるんだ。この世界は」

「……代償が何もないわけ……ない……」

「知ってます」


 一瞬だけ彼の表情が表出した。どうでもいいように、吐き出して、諦めの気持ちが顔に出る。ランはその表情を見逃さなかった。


「話をしすぎました――別れの挨拶は短い方がいい」


 白シャツの男は、右手に持っているリボルバーを自分に向ける。そして、こめかみを狙って一つため息をつく。撃鉄(ハンマー)を引いて、撃鉄(トリガー)に指をかけ、ランを静かに見下ろした。


「僕の願いを見ててください」


 銃声と飛び散る脳漿と残響。

 ランはなにも知らないままに死期を悟った。雪のような白色光に飲み込まれ、世界は彩度を失って、シャボン玉のように透明化していく。最後に割れた。全て真っ白になって、自分の息づかいが聞えなくなった。



******



 白色空間。地平線は見えず、生きた心地が全くしない。雪原と海を混ぜ合わせたような、白で完全に塗りつぶされた、切り離された世界と世界の間隙である。


 細胞単位で消滅して、再構築する感触を噛みしめたのは三度目だ。忘れもしない、この世界に始めて訪れたとき、この世界を滅ぼそうとしたときが過去の二回。そして今回が三回目。慣れない。吐き気がして、頭痛に襲われ息ができなくなる。大量の力の境界を越えて、生まれたての子鹿のように脚が震え、俯せに横倒れになる。死んだらここに来るのだろうか――もうこのままずっと横になっていたい。誰にも会いたくなかった。彼女は目を閉じて、そのまま身体の力を抜いた。


 そして、予想外の彼女の声に起こされてしまう。


「ぱんぱかぱーん! おめでとうランちゃん」

「……」

「おーい、どうしたの? やっとだ。ゆっくり話せるじゃないか。私は読み違えていなかった! 凄い凄い! 自分で誉めてあげたくな――げふっ」


 眠ろうとしたランは、一瞬で目を覚まし、音速を越える鉄拳を、寝ている自分を覗きこんでいた顔面に叩きつけた。

 脳で命令した訳じゃない。脊椎反射である。これまで史上最悪の気分の過去最高記録を何度も更新された結果だった。こんな状況で嬉しそうな笑顔を見たら、だれかれ構わず殴りつけたくなるものである。


 むくりと起き上がって、ランは思わず頭を抑える。気怠さに、五月蠅い声が上書きされて、これまで積み重なった殺意を正面の彼女に突きつけた。


「なんで殴るのっ!? ランちゃん!」

「……」

「怖い! 怖いから無言でこっちに近寄らないで! ほら人間コミュニケーション大事! ほーらほら! コミュニケーション! はい! はい!」


 全く状況が解らなかったので、踏み込みアッパーで追撃する。強烈な一撃にエアの両足は地面を離れ、鈍い衝撃に顔を歪めた。

 ここは神の代理人(プレイヤー)なら必ず二度訪れる場所。ランは余りいい思い出はない。本当に全くいい思い出はないところだった。ゲームオーバ―になったら、永久的にここに閉じ込められるものだと思っていたのだ。


「ぐぇっ!?」

「――ねぇ……?」

「なにっ!? どうしたんだい、私の親友! ちょっとっ! こっちにはいろいろ事情があったの! こうしなきゃゆっくりまともに話すことができっ――痛い! 痛いって!」

「……もっとだ!! もっと殴らせろ!」

「ちょっと! 力が強いっ! なぐっ、殴るなー!」

「説明しろっ!――お前は誰だ。本当にエアなのか?」


 それを聞いたエアは腹を抱えて大笑いする。片手で何度も床を殴って、ゴロゴロと転がって、今度は手足をジタバタと床に打ちつける。ここまで笑われると、ランも呆然とするしかなかった。


「まさか疑心暗鬼になってる!? あのランちゃんが!!? ごめんね! ごめんごめん! ちょっといじめすぎたね!」と彼女は立ち尽くすランに抱きついた。励まそうとする気持ちは伝わったが全く持って効果がなかった。そのまま励ますように耳元でエアはランに語り掛ける。


「怖がらなくていいよー。ここまでうざいと私だってわかるでしょ? あーなんだか自分で言ってて哀しくなってきたよ。えーと、そうだなー。でも証明しようがないよね。私達ならなんでもできるんだから」


 それもそうだと、ランは妙に納得してしまう。抱きついている身体を両手で離し、目の合った彼女に微笑を投げかけられる。「それで!! それでだ!! 私も聞きたいことがあるの!」と思い出したように、驚きの声をぶつけられて、甲高い声にランは顔をしかめた。


 ランの頭痛を収まったが、何かうずうずしている彼女がにじり寄ろ、さらに腹立たしくなってしまった。ランは少し背中を反らすと、「ああもう無視しないで! なにが言いたいのかわかるでしょ?」と、離れようとしたランの首元の襟を、エアは固く掴んだ。何度も何度も揺さぶられる。


「なんだ!? やめろっ!! 鬱陶しい! 離れろ!!」

「ねぇ! 手品の種を確認していいかな? お願い! ヒントだけでもいいから!!」


 彼女の知りたがりの側面が現われた。こうなったらもう止められないのだ。ランにとっては結果が全てで、過程などは割とどうでもいいのである。しかし、十の謎を聞いて、必ず十の謎を解き明かしたくなる彼女には捨てておけない問題だった。


「やめて! 目を反らないで! あってるか、あってないか言ってくれるだけでいいから! ……私の目を誤魔化したのは、最初に私を起動したときから? あのときから自分の虚像を写し出して、私とずっと一緒にいたの?」

「あー……そうだ、能力(コードブック)でなにかやるとは思ってた。それに目を誤魔化したんじゃない」


 ランは自身のこめかみを指で小突くと、エアは目をカッと見開いて驚いた声を上げる。


「なに!? 認識から誤魔化してたの!? そんなことできたの? 虚像の場所を見失ったのもそのせい?」

「ついでに……あの(イメージ)もところどころ雑だったから直した。それと空間形成し始めてから、ずっとあのでっかい兵器もつくってた。本当は十機は欲しかったが――」

「そこまでか! そこまで私を叩きのめしたかったのか! 何やってんの!――気持ち悪っ!!」


 エアから軽蔑の目を向けられるが、ランは不服だった。「私を監視してた奴に言われたくない」とぶっきらぼうに文句を言った。しかし、エアは全力で首を横に振る。


「いやいやいや。その私を監視してたんでしょ! うわっ、引くわー!」


 しかし、自分の答えが当たっていることにエアは満足したらしい。よしよし――と腕を組んで深く頷く。疑問を真っ先に確かめようとするのは、ランが知っている彼女らしかった。


「まぁ、よし! 今度は私が正解を伝える番だ。ええと、今の私が本当に私なのかって話? 相当いじめすぎちゃったね! ここまで混乱してくれると私も嬉しいよ、フフフ」

「まるで本物みたいな反応じゃないか」

「まだ信じてないの? ともかくともかく、その命題はとても哲学的だ。正解ともいえるし、外れているとも言える。欺そうって言う悪意はないの。私は母個体(マザー)の一部であり、母個体(マザー)は私でもある。さっきの箱も同じ複製品。切り分けられない魂を切り分けた結果なの。切り分けたのは私じゃなくて彼なんだけどね。でもただで切り分ける私じゃない」


 エアの中身を複製(コピーアンドペースト)したということなのだろう。自慢そうに振る舞う様はランの知っている彼女と瓜二つ。こうして会話するだけで心の底から懐かしさを感じてしまう。


「まあ、箱の方の私は、素材が粗悪でちょっとひねくれてたけどね! でもでも、ちゃんと役割は果たした。貴方をここまで連れてくるって言うね!」


 ひねくれたどころではなかったと、ランは声を大にして言いたかった。


「まぁ、こっちの私が本来の、素直で愛らしい私。劣化していない、純粋な私っ――に近い私? まぁ、あっちは感情的になって変なこと言ってたんだけど、半分は本当に思ってたことなんだよ、きっと……」


 ランは腰掛けてとアイコンタクトを送ると、隣に二つの白色立方体が出現する。ランとエアの二人は座り、そのまま話を続けた。新しい情報を整理する以前の問題で、彼女はやはり彼女らしく、ランの様子を全く考慮せずに話し続けた。きっとこの世界の誰もが驚く、マイペースな聖女様である。


「彼のせいで、言いたい情報も伝えられない。やっぱり私達が育てたかいがあるよ。全く隙がない。こうでもしないと話せない」

「あー! わかるが全くわからん! いいか? 私の質問にだけ答えろ! はいか、いいえでだ!」

「はい!!」


 エアは嬉しそうにランの質問を待機する。口を開けて何から聞こうかと悩んでいると、さっさと質問しろと目で訴えられた。


「お前は私を誘き寄せた」


「はい!」とエアは大きく肯定する。嬉しそうな笑顔は正解だと言うことだろう。


「そして、私を罠にはめた」

「はい!」

「それであの小僧に私を殺させた――ここまであってるか?」

「はいっ!――まぁ、殺させたんだけど死んだわけじゃない。ちゃんと非常口を仕掛けてあるから違うんだ。本当に死んだらここにも来ずに消えるの――痛い! いいじゃない! いいじゃないか! いつも私が騙されてたんだから! 一度くらいは!」


 対面しているエアに腕を伸ばして頬をつねる。確かにこれまで幾度となく欺してきた。しかし、欺されるのは話が別だった。エアは涙目になって、朱くなった頬をさすった。


「でも、でもね!」

「でも? なんだ? 言いたいことあるならいってみろ」

「そんな殺意マックスで私を見つめないでよ。でもですよ。ランちゃんも、彼も、私の手の平で踊ってるのは、最高っ――」


 手加減のない拳が容赦なくエアに降りかかる。痛みに喜ぶ快楽主義者らしい。もう殴るつもりはなかったがどうしても手が出てしまった。殴りたくさせる彼女が悪い。


「痛いって。いやー、私も計算外のところはあったんだよ。しかも、こっちからは手を出せない。切り離された場所だからね。それに仕込んだのは400年も前なんだぜっ。ランちゃんがここまで送られてくるか、自信はなかった」と、エアは大きく伸びをした。全く腹の立つ親友である。


「世界で、彼の能力で消し去った事実を伝えようとすると、彼の原理に引っかかる。でも、ここなら教えられる。彼の名前は――」


 数文字の音声を聞き取った。どこにでもある、特に珍しくもない名前で、ランは正直拍子抜けしてしまう。


「全く知らん。聞いたこともない」

「記憶が消されてるね。彼の強力な願いの結果だ。全てを消去(デリート)してしまった。彼は死にたがりなんだ。何度も死ぬけど、死ぬこともできない」


 まぁまぁと、エアは苦い顔をする。とにもかくにも、この世界の現状が知りたかった。ランとして気になるのは残された世界の時間である。


「それで……あと寿命はどれくらいだ?」

「うーん、なにもなければ100年。でも彼はきっと終わらせたい。今ので過負荷で十年縮まった。ねぇ、私から提案があるの。彼の提案に乗って、もう終わりにしない? 悪い話ではないと思うの。リサちゃんを元の世界に戻せば、ちょうど寿命も尽きるはず。願いのゴミ箱みたいなこの世界の火を消すの」

「……アホか。あいつがやるとは思わん」

「そう? でも大事なのは彼女の決断。それはしっかりと伝えといて。彼の考えにのれば帰られることは私が保証する。ゲームで帰られるかは正直わからない。さっさと探し出して仕留めればまだ可能性はある。私が言っても信じて貰えないと思うけど――」

「まあな」

「彼の事情も複雑でね。これは貴方のメモリーに直接かきこむね。きっと彼の意志が強すぎて、向こうに言っても誰にも伝えられない。昔の記憶も補填しておこうか?」

「ああ、頼む」


 エアはランの頭を両手で掴み、額と額をピタリと付けた。誰にも伝えることはないだろう、しかし、ランもわかった上で精算したかった。人の愚行を掘り返すつもりもない。しかし、決着を付ける必要はある。様々な光景が走馬燈のように流れる中で、エアはぽつりと呟いた。


「彼を救ってくれない?」というエアの瞳孔は震えていなかった。ランはいぶかしげに見つめ返す。


「それがどういう意味かわかってる?」

「うん――わか……て――る……」

「おい? おい!? どうした? エア!!?」


 肌と肌が触れあう距離にいたエアの姿が一瞬乱れた。身体を構成している世界の断片(コード)が波打ったのだ。瞳の焦点が拡縮して、エアはだらりと両手を下げる。

 

 ………ブウウ―――ンンン――と電子音のような、蜂の羽音とも終える振動が体の奥底から突き抜けた。余韻が消え去る前に絶対的な白色空間が崩れ始めた。彼女が創り上げた世界の崩壊だった。「もうこの私は役割を果たしたから――」と哀しそうに笑われる。


 何度死ぬことを繰り返すのかと、ランは憤りをぶつけた。エアは申し訳なさそうに首を振った。


「私がもとの世界に帰らずにね、この世界に残ったのはね。ランちゃんと遊ぶのが楽しかったからだよ。やっと、伝えられた。頑張って良かった。貴方に会えて――始めて自分が好きになれたの」


 地平線から大中小の立方体に分解されて、世界が分解されていく。ランは駆け出して、エアの腕をつかもうとするがすり抜けてしまう。彼女には実体化する力すら残っていなかった。残された世界と彼女は落ちて、消えて、溺れていく。 


 時間切れだった。床が崩れて二人は虚空に投げ出される。重力を全く感じないままに落下する。一緒に手を伸ばし合うが、握ることさえ叶わなかった。


「――エア!?」

「凄くない? そう、死ぬ前に全部仕組んでおいたの――私は読むことしかできない。読むことならできる。だから今日ランちゃんに伝えられた。死んでも哀しまないで、私はもう一人じゃないんだ。余り喜ぶべきことじゃないんだけど――」

「馬鹿! お前が死ぬのも事実だろう!?」

「うん!! ……最後にちゃんとお別れを伝えることができた! ちょっと乱暴なお別れの挨拶だろうけど、それは私が始めて貴方に会ったときのお返し――」


 彼女の遺言は終わりに近かった。外見も半透明になって、音声も弱弱しい。ランも一緒に底見えない純白に向かって落ちていった。エアの瞳は無限の空間を見つめて、最後にはランを見つめた。唇が小さく動く。まずは小指が消えていた。瞬きすると両腕がなくなって、もう一度瞬きすると、そこには何も残っていなかった。


 世界はきっと単純で、思ったより複雑なもの。

 私は単純に見えるけれど、彼女には複雑なものに見えていたのだろう。

 ランは自分の存在が分解されていく感触を味わった。本当にこの感触は、大嫌いだった。


******



もうそろそろです。待機組あとちょっとで出せそう。次回、エピローグ。そして、最終章です。

ほんとは章分けようかと思いましたけど、いまのところまとめようかと考えています。。


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