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GENE6-5.Reme


 酷く乾燥した塩湖の痕を彼女達は歩いていた。

 道らしきものはない。真っ白な大地は焦げ茶色の禿げ山に囲まれている。それだけの景色である。


 ひび割れて、地面の亀裂は瘡蓋(かさぶた)のように盛り上がる。草は一本も生えていない。大気はくすんで、空から曇天が迫ってくる。ここは死の地と呼ばれていた。蜥蜴一匹生きる事はできない過酷な環境である。


「いつもここを通ってね。エアに会いに行ってたの。私の遊び相手はあの子くらいだから」


 彼女は丸眼鏡に長く垂らした黒髪と灰色の外套。背丈は百七十はないだろう。知的な文学少女の風貌で、髪の一本一本がくっきりとした曲線を描く。先頭に立って進んでいた。

 その後には、二歩後に金髪の少女、そして黒い大型犬を引き連れていた。彼女達は呆れ果てて、正面を歩く女から目を反らしている。


「そりゃ大変ね。遊びに付き合わされる方の身になって欲しい。もういや! なんで冬なのにこんな暑いの。あー、もう頭が痛い。さっきまで凍傷で死にかけたのよ。今は塩っ気で死にそう。干からびる。水分が吸い取られる。私の体の構造知ってるでしょ。拷問? ねえ、これ拷問なの?」

「懐かしい。本当に懐かしい。湖がなくなったのはね――」

「人と話す気ないでしょう! それとその話し方! 死にたくなるからやめてよ。お願いだから」

「私とエアが喧嘩したせいなんだけどね。あはははは」


 浮き足だって両手を広げる。呆然と広がる湖の跡地は隕石でも落ちたのだろうか。半径数百メートルの窪地が水玉模様のように散らばっていた。


「話を聞いて!」

「それでね、二人とも。私ね。欲しいものがあるの。お願い!」

「だから私の話を聞いて! もう一回言わなきゃわからない? やっと雪山とおさらばと思って帰ってきたら突然拉致! ここ暑いのよ! しょっぱいのよ! 干からびるの! 私達帰りたいの! しかも、そのしゃべり方、寒気するからやめろって言ってんの!」


 足下を歩くレイは小さく声をあげた。犬の鳴き声であり、人の言葉を話す気はないようだが、首を何度も縦に振っている。彼も同じ心境のようだ。


「これじゃあ頭がおかしく――」


 そして、丸眼鏡の女はレンズの裏の目を煌めかせた。


 彼女の手刀が伸びて、少女は紙一重で避ける。鋭利な風を切る音が鳴って、金髪が一束、ばさりと切り取られる。

 レイは背中から三本の触手を生やして反撃する。先端は槍の穂先の様で、問答無用で串刺しにした。


 しかし、貫いた肉体は塩となって崩れ去る。


「遅い遅い」


 遅れて、バックステップを踏んだメアが臨戦態勢をとって振り向く。レイも背後に気を向けるが間に合わない。

 両手が伸びて、メアとレイの頭部に優しく頭が添えられた。赤子を愛でる手付きである。メアはやっぱり死にたくなった。


「……いい加減慣れて。諦めなさい、殺すよ」

「ああ!?」

「あはは、元気でよろしい。やっぱりこうじゃなきゃ。張り合いがない」


 メアはあからさまに舌打ちをした。

 やれるものならやってみろっと、言いそうになって口が紡がれる。上書きするようにランの軽快な笑い声。

 金縛りである。体の指揮系統をランに奪われた。頭が動いても手が動かない。こうなってしまうと文字通り手も足も出ない。


「このっ……イカレ野郎っ」

「この状態でよく喋れるね。レイも遅い。一撃くらい貴方なら当てられるでしょう」


 ランが手を離すと、二人はのそりと起き上がる。

 メアは散らばった髪を手で拾う。すると、掌に吸収されて、不均一にカットされた、彼女の金髪が修復されていく。スライムの体質だからこそできる芸当である。


「じゃあ、気を取り直して元気に行こう。二人には悪いと思ってる。その分、稽古をつけてあげるからさ」


 性格も変わるらしい。彼女から人を慮る言葉が出る旅に、連れてこられた二人は苦痛で顔をしかめてしまう。

 しかし、優しくなっても、その迷惑な振る舞いはまるで変わっていなかった。

 

「そう言わないでよ。体も変われば気持も変わる。気持も変われば話し方も。昔の姿になったんだから、しゃべり方だって若くなるの」

「もう頭がおかしくなりそう。わかったわよ! わかった! そのお願いを終わらせたら帰っていいんでしょ!?」

「もちろん」


 二人は現状をどうにかすることを諦めた。

 従ってさっさと終わらせて、逃げるようにホームに戻る。終わったらやけ酒でもやけ食いでもして、不貞寝してやる――アイコンタクトで認識を共有した。普段仲は悪いが、共通の敵の存在を持てば状況は変わるのだ。


「……ねえ、ホームの方はどうしたのよ」

「代わりに人形をね。ふふふ、大丈夫。力作だから誰も気付かない。メアより強いし」

「あー」


 管理人である彼女が逃げ出した。発覚すれば向こうでは大騒ぎだろう。帰ったらリサにばらしてやろうとメアは決心した。死ぬほど怒られてしまえばいい。


「私、これでも弱くなってるんだから。殺すなら今だよ」

「そ、覚えとくわ」

「リサの友人の貴方達を無理やり連れ出したのは、申し訳なく思ってるの」

「……ぞっとするわね」

「なによ、その顔。私だって謝るときはあるの」


 箱庭にいる本来の彼女の背丈より一回り小さい。眼鏡が似合っているのが、メアは腹立たしい。この姿では誰も気がつかないだろう。

 任務で帰ってすぐに引っ張り出された二人は、まだ半ば信じてはいない。しかし、納得せざるを得ない、暴力性を持っていた。


 喧嘩で問答無用で首を切り落とそうとするのも彼女らしい。


「そして、この姿にも、話し方にも理由はあるの」

「なによ?」

「友人のため。もう死んじゃったんだけどね」


 人差し指を口に当て、後を仰ぎ見て、背の低いメアと犬の外見のレイに話しかける、その姿は普段からは誰も想像できない。寄せ付けない美しさではない、愛猫のような可愛らしさを含んでいる。リサが見たら恐怖で泣き出してしまうだろう。


 華奢な若い女性の外見ではあるが、中身が問題なのだ。

 そのギャップだけで窒息してしまう。事実、メアはもう口をつぐんで、片手で頭を押さえていた。頭痛が悪化してきたのだ。


「あの子は、こっちの姿の方が思い出しやすいでしょう。メア、レイ。二人ともよろしくね」


 彼女はドスのきいたウインクをした。とどめの一発である。殺意がこもった瞬きは二人の今後の振る舞いを変えるのには十分すぎた。

 ずれた眼鏡を指先で元の位置に戻し、二人が萎縮したのを見て嬉しそうに首を傾げた。この状況を楽しんでいるようである。


「ああ、死にそうなくらい懐かしい」


 塩味の風だった。ランは思い出に溺れそうだった。

 遊びに来たというよりは、どちらかと言えばお墓参りに来た方が彼女の気持的には近かった。


リサ「主人公お休みっ!?」

スー「どうしてそんな嬉しそうに」

リサ「誰が好き好んで、こんなハードな世界を歩きたいのよ」

スー「そんなっ! お姉様のお話なのですから!」

リサ「やらなくていいって。代わりにスーとのベットシーン入れて良いからさ」

スー「辞めましょう! 主人公辞めましょう!」

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