GENE5-11.桜一色乱戦模様
正方形の広場は、教会と巨城の対面に静かな緑地が面している。左右には美しく整備された伝統的な建物が並ぶ。
教会広場の入口の一つ、公園のゲートまでベルとハルの二人ははじき飛ばされた。
双子は咄嗟に反転し、着地して、
「お返しだわ」とベルが呟いて、
「そう、お返し」とハルが微笑んだ。
ハルとベルが腕を広げると、両手に漆黒の斧が浮かび上がる。オーケストラの指揮をするように黒斧を振るう。すると、枝で覆われた大男へ何種類もの武器が襲い掛かる。
肉をひき切ろうとする大振りのノコギリ、拘束具であるロープに、虐めるための木馬と拷問椅子が地表から突きだした。空からは頭に覆い被さろうと頭蓋粉砕器が真っ先に現れて、弧を描きながら棘突き鉄球と振り子の刃が来襲する。
しかし、多くの狂気を向けられた男は教会前に仁王立ちしたままである。
陣取ったまま刀を一閃。大量の攻撃を全て、完膚なきまで切り落としてしまった。
「ははっ」
枝の男の一撃で双子の戦闘スイッチが完全に入った。噴き出した笑い声を止められない。彼女達が動き出し、戦闘の火ぶたが切り落とされた。
「あはははっ!!」
「遊ぼ! 遊ぼうよ!!」
黒光りする斧を手にするベルとハルは、一直線に男との距離を詰める。
多種多様な拷問道具の第一波が切り落とされても、暴力の勢いは衰えない。今度は嚙み付くようにギロチンの刃でベルが不意打ちする。
男の一挙一動はやはり緩慢である。刀の速度だけが異常なのだ。
目にもとまらぬ速さで刀を振り上げると、男の立つ位置を守るようにぱっくりと、落下する攻撃が二分割されてしまった。
「やるぅ」
「ふふふっっ」
その隙にベルが男の懐に入る。ハルは背後に回り込み、挟撃を仕掛ける。
しかし、枝の男の高速の切り込みが双子の両腕を斧ごと切り落としてしまう。空間を切断する彼の攻撃は、一切の侵入を許さない結界のようである。
ぼとりと落下する四本の腕と四つの斧。
「あははははっ!!」
「ははははっっ!!」
紅い液体が撒き散らされる。
ケタケタと笑い声を吐く双子の走る速さが、自身の流血でさらに加速する。その細い両脚から出力されるとは信じられないほどのスピードで広場を駆け巡る。
腕に地面が転がって止まる前には、次の手を打っていた。
息をつく間もない。
男の背後に出現したのは、高さ二メートルの人形型の棺桶である。
中は空洞で人間一人入れる構造である。左右に開く扉からは内側に長い釘が飛び出している。男を呑み込むように閉じるが、
「……」
枝付きの男は虫でも払うかのように一振り。棺は真っ二つに裂けてしまう。
カットされた鋼鉄の塊は転がって、その影から鋭利な無数の先端が突きだしていく。
それは串刺し用の杭である。人を刺して掲げる用に造られた金属棒は最もシンプルな拷問道具。
強烈な串刺しの嵐に男はようやく重そうな身体を動かした。空中に跳躍して、安全地帯を探す。
しかし、教会広場一面を鉄の杭が、彼が着地するよりも速く埋め尽くす。ハル、ベルの立つ場所以外、脚の踏み場がなくなってしまった。
「あら、どこ行っちゃうの?」
「こっちおいでよ」
落下中の男は、掃き掃除のように着地場所へ刀を一振り、ハルとベルへ刀を一振りする。
双子はのけぞって横一文字の軌道を避ける。背後の公園の桜の樹が何十本も切断され、横倒しになっていく。
「ははははっっ」
「あははははっっ」
双子は身体を起こし、首を傾ける。
その笑い声はそれまでの歓喜してこみ上げたものではない。嘲笑である。
男の足下でガチャリと固い錠が閉まる音がした。
「捕まえた」
ベルが喜び、手を叩いた。
足枷の次に現れたのは手錠である。それ自体が意志を持つように動き出し、男の背後に回り、両手を拘束する。
抗おうと男は刀を持つ腕を動かそうとすると、ハルの強烈な蹴りが腹部に突き刺さった。
刀が地面に転がって、男はついに膝を突いてしまった。
そのあっけなさに、双子は思わず嘆息してしまう。
「終わっちゃったわ」
「もっと楽しめるかと思ったのに残念だわ。本気の貴方と遊びたかったけど残念ね」
「操られてるんだもの。ねえ、これじゃあ面白くないわ」
「ねぇ、ハル、どうする?」
「そうねベル。さっさと贄にしちゃいましょう」
ハルとベルの腕は修復して、真っ白な肌の両腕が露わになる。それを隠すように衣服が復元する。
彼女達は美しい白い指先で口元の血を拭い、真っ赤に染まった人差し指でリズムを取った。これから収穫の歌を歌うつもりなのだろう。
教会広場の入口の一つ、人が居なくなった市街地に続くゲートの真下。
そこは虚空に包まれている。ぽっかりと何かが存在する空間があるのだ。誰もいないはずなのに、散る桜の花びらが横切らなかった。
「ベル!」
「どうしたの?」
その位置からスローイングナイフがベルへ投擲される。双子の歌を差し込むように投げられたナイフは、ハルに二本指でキャッチされてしまった。
双子の視線が離れた隙を、男は見過ごしはしなかった。
枝男が口でがぶりと刀を掴み、ブレイクダンスの要領で脚をひねり、身体をねじる。首の周りの遠心力で刀で周囲の空間を横に切断。ハルとベルがそのまま斬り飛ばされてしまった。
「……」
無言で男は立ち上がり、刀を真上に回転させながら投げる。クルクルと落ちてくる刃で手錠を切断する。枝の男は手首をさすり、突き刺さった刀を引き抜いた。正面見ると、そこには首を傾げるベルとハルが立ち尽くす。
彼女達は頬を膨らまし、市街地に続く教会広場の入口を仰ぎ見た。
「そこで何してるのかな?」
しかし、そこにはもう誰もいなかった。
「こっちですよ」
突然双子の目の前に現れたスーとフィンは、ベルとハルを蹴り飛ばす。フィンは二艇の拳銃を枝男に向かって乱射するが、弾丸一つ一つの軌道を防がれてしまった。
第二ラウンドの開始である。
双子は即座に反撃をするが、突き出た杭を曲芸師のようにスー達は避けていく。間髪入れずに双子へ空間切断が向けられ、回避行動を余儀なくされた。
「ねぇ。貴方達誰?」
「教えるわけないでしょう。さて、フィン。いいですか」
「いいよ。僕はリサの命令に従うだけだ」
敵対象と会話を楽しむつもりなんてない。走り出した二人の勢いは止まらない。
停止した戦場が再び動き出した。ベルが右手を突き出すと、そこには真っ黒な斧が出現する。スーに向かって投擲するが、最小限の動きで躱されてしまう。
「あら。知ってる、君。どこかで見たことあるわ。レプリカでしょう?」
ハルはもう一人の対象へ襲い掛かった。
しかし、フィンは横目で彼女を観察しながら、無視して枝男に銃撃を続ける。牽制し続けているおかげで、激しい斬撃は飛ばされてこないのだ。ただ攻撃を仕掛けるハルに抵抗しようとする素振りはない。
「貴方の相手は私です」
スーがすぐさまフィンとハルの間に入る。
頭部を蹴り飛ばされて、ハルは少年との距離が離されてしまう。
攻撃を一端止めて、双子と向き合うように対峙したスーは彼女達に愛想笑いで問いかけた。
「私も一つ聞きたいです。貴方達はどうしてそんなに戦えるんですか?」
桜の森の能力阻害は、スーやフィン、そしてリサまでもが頭を悩ませる存在だった。影からスーは彼女達の戦闘を眺めていてたが、あからさまに能力を全開で使用する二人は、妨害を受けているとは思えなかった。
枝突きの男が阻害されずに刀を振るうのはわかる。森と一体化したからだ。しかし、彼女達も無数の攻撃を展開できているのは、スーはどうしても理解できなかった。
「ふふふっ、だから私達が来たのよ」
「そうですか。私達だけペナルティがあるのは頂けません。フィン!」
「スー、今やるよ」
フィンはスーを振り向きもせずに、フレアガンを取り出して頭上を狙う。打ち上がったのは信号弾のようである。
「お姉様に造ってもらった特注品です。これで皆さん一緒ですね」
スーが悪戯ッ子のように微笑んだ。
リサが製造した特別な弾丸は、花火のように空で爆発した。真っ赤なまばゆい閃光が、桜の森をさらに混沌とさせていく。
******
外の騒ぎから逃げるように、リサは教会の中に侵入していた。スーは彼らの攪乱をする、リサはリサのやることをする。心強い彼女達の存在はリサをなおさら奮起させた。
巨大な桜の大樹は、心臓のように脈動を繰り返していた。憂鬱質な光が流れるだけだった。
「静か……」
リサは師匠の能力を発動したままである。誰にも気付かれないというのは寂しいものであった。
正直簡単に行きすぎて怖いくらいだった。でも油断してはいけない。使用できる能力は限定され、さらにこれからは彼の中身をいじくりまわすのに一定の力を使う。今発動しているこの能力を解除しなければならないのだ。
リサが仕留めるか、侵入がばれて反撃されるか。
この制限下で選択肢は限られている。リサが選んだのはコアへの介入、花びら一枚残さず枯らしてしまような毒を打ち込むのだ。
親個体を侵せば、芋づる式に子個体を停止させられる。
動きを止めれば、後は煮るなり焼くなり好きにできる。
桜の御神木と向かい合ったリサはふっと息をつく。この桜の森の主は、見るからにこの世界にとっての異物だった。
大樹となった宝石の樹、本来は生命溢れる象徴であるはずの大木は呼吸を一切していない。陶器のようなひんやりとしたさわり心地。凍って停止した物体は、まるで生命を吸い取るような石材である。
リサはこの存在感を知っていた。
三回目にもなれば、顔を、いや、例の彼だとわかるのだ。
「……当たりね」
リサは早く終わらせて煙草を吸いたかった。
喫煙衝動を抑えて、ランの力をオフにする。そして、大樹に右腕の肘当たりまで突っ込んだ。
木の枝が大きく震えて、もがき苦しむように枝がくねる。
エラーエラーエラーと叫びだすように、桜の花が土砂降りの雨のように降ってくる。
外では数え切れないほどの気配が蠢き始めた。室内の桜の花びらの雨は降り止まない。
「やあ、久しぶりね。いいからさっさと黙りなさい」
これだけ成長もすれば、一撃で討伐するのは困難だ。まずはその機能を停止させる。内側からの侵食を進め、リサはその存在を侵していく。
右手が溶け出すほど熱くなる。
内部の主導権取り合いに彼は抵抗しているが、万全の準備をしたリサが圧倒的に優位であった。
「君と話している時間はないの。もう三回目だから」
うなり声のように大樹に亀裂が生じた。
まだ抵抗をやめないのか、桜の雨は降り止まなかった。
*******
リサが仕掛けた直後である。
遠くから桜の森が鳴動するように地響きが近づいて来た。
スーはその光景を見て、頭を抱えたくなってしまう。
この都市を彷徨っていた全ての首無し屍体が一ヶ所に集合する。一体人口がどれほどあったのか考えたくもない。
大量の木偶人形が教会に押し寄せて、流石のスーも絶叫したくなる。しかし、その気持を抑えて対処するしかない。
「ほんとに……」
近寄ってきた先頭の首なしの男を、短刀で一突きにする。
一点を貫かれた人形は粉々に消え去ったが、一匹だけ倒してもこの戦場では意味が無かった。次から次へと襲い掛かってくる首無し人形にスーは埋もれそうになってしまう。
伸ばされ腕をかいくぐる。
制限された状態で、本気で戦闘できないのがスーはもどかしかった。さっさと蹴散らしてやりたい。この大荒れの広場では、逃げながら双子と枝の男を牽制するので精一杯になってしまう。
「ああ、もう!!」
スーが襲い掛かる大量の手を躱す。殺気を感じて身を伏せると、広場全体を刈り取るような斬撃が発生した。
教会の入口に突っ立った枝男の切断攻撃は、近寄ってきた大群か、スー達か、双子達かに向けたのかはわからない。
最も範囲が広い枝男の攻撃が、スーやフィン、双子や木偶人形関係なく襲い掛かった。
味方を切り刻むのは自動で反撃するようになっているのか、リサ特性のジャミングが効果を発揮しているのかは不明だが、スー達にとっては幸いだった。
同じように身をかがめたフィンと目があった。彼はそこまで弱くない。これくらい生き延びるくらいの生命力はある。スーは心配していなかった。
間伐されたように、切り開かれたスペースを埋めるように来襲するのは、雪崩のような木偶人形の大群である。
濁流が隙間を埋めるように押し寄せる。
大量の首なしどもが集合していく様子は、スーに嫌悪感を与えるのには十分すぎた。彼女は笑顔が引きつってしまう。
その広場に比較的まともな感覚を持ち合わせているのは彼女くらいであった。感情という感情をあまり持たないフィンや化け物三体とは違っていた。
あそこまで喜べたらと、スーは横目で双子を眺めてしまう。彼女達も首無し屍体の対処に追われていた。スーと異なっているのは、その心持ちくらいである。
「あははははっはは!!」
「ふふふふふっっふ!!」
歓喜の声をあげるハルとベルは、歌を歌いながら木偶人形達をなぎ倒していた。
「ああ! もういやっ! です!」
羨ましいとは断じて思わない。スーは冷静に状況に対処する。
枝の男は教会に入ろうとする者は敵味方関係なく、切り落としていた。外側からの阻害と内側からの阻害で、木偶人形達の機敏さも低下してきた。
しかし、場所が悪すぎる。
そう判断したスーは教会の壁で三角飛びをして、宙に浮く。
腕から出したワイヤーを教会に結びつけ、高低差を利用して振り子のように大きく弧を描く。
「フィン!」
スーの声に反応して飛び上がったフィンを受けとめる。
自分よりも小さい体躯である彼を抱え、スーはワイヤーを教会に結びつけたまま、空中ブランコのように振れて、教会の周囲を見回す。
一面の屍体でスーは頭が痛い。
「ありがと」
「どういたしましてです」
大荒れの海のような教会広場。積み重なる残骸と人形達の欠片。
木偶人形の群れを地面から生やした杭で串刺しにしながら、枝の男を殴り飛ばし、ベルが教会へ入ろうとするのが目に付いた。
「ゆっくりはしてられないですね」
フィンを比較的安全なスペースへ落とし、スーは急いでベルを強襲する。空中から直線の軌道で跳び蹴りを直撃させた。
よろめいたベルはスーに憎らしげな視線を送る。
「勝手に入っては駄目ですよ」
「もう! どっちの味方!」
「どっちも敵です」
教会の扉前、ベルを引き留めたスーもろとも巻き込むように斬撃が襲う。スーは回避して、再度飛び上がる。
「楽しいわ! 楽しいわ!」
全く楽しくない笑顔のフィンは、降り注ぐ鉄の刃と、定期的に飛ばされる斬撃と、無数の手を器用に避ける。
特性の銃弾は双子か枝を生やした男にしか発砲しない。しかし、この状況下では当てることは難しかった。
そして、時たま投げかけるハルの問いかけにフィンは答えないままである。
「それで、模造品の君は、ここで何しているの?」
銃弾を撃ち込もうとするフィンに振り子の刃が襲い掛かるが、数センチの差でひらりと躱す。
ハルの見せかけの優しさを含んだ声に、フィンは無口なままである。答えるつもりはないらしい。
「うちの子に手を出さないでください。呆れるくらい元気ですね。羨ましいです」
「あはははっ、強いじゃない!!」
「笑ってばかりで舌噛みますよ」
フィンに刃を向けたハルは、広場の波の隙間を駆け巡るスーに蹴りを入れられてしまう。ボディに蹴りが突き刺さり、くの字に身体が折れ曲がる、
教会の扉の前では、再度男の元まで一足で辿り着いたベルが斧を振るう。しかし、今度は腕ごと刈り取られてしまった。
「ベルっ!?」
スーに蹴り飛ばされたハルが、受け身をとった直後、駆け出しフォローへ向かう。
予想外の行動で、スーの二撃目は当たらなかった。
ベルはさらに目の色が変わってしまっていた。爛々と怒りを滲ませて、男に指を突き立てると、棘突きの回転車輪が四方から高速回転したまま、男に一直線に襲い掛かる。
単調な攻撃に、枝の男は力を溜めて大きく一振り。広場の木偶人形の群れもろとも横一閃。ベルは避けきれずに残っていた腕も肩口まで切り落とされてしまった。
「大丈夫?」
ノーバウンドで十メートル以上はじき飛ばされたベルをハルがキャッチする。
攻撃が単調になって、細かい精度の攻撃が封じられている。双子のうち、特にベルは顔をムスッと膨らませていた。
「……腹立たしいわ」
「ベル。無理しすぎ。落ち着きなさい、もうそんなに苛立たないの。残量も気にしなきゃ駄目」
「うん、ごめんね、ハル」
ジャミング前後と比べると、双子と枝男の攻撃の精度は明らかに落ちていた。しかし、三体の化物は勢いが衰えた様子はない。こんなに楽しいことはないと双子は相変わらず笑いながら闘っている。
そして、戦場にも変化が現れてきた。
木偶人形達の不気味な挙動が、ぎこちなくなり、機能停止目前である。
しかし、降り注ぐ紅い光が断続的になって、その効果があと少しで消えてしまうことを知らせていた。
「スー!」
フィンが思わず声を出してしまった。
双子の攻撃の精度も上がり、スーは集中砲火されてしまったのだ。
隙を見せた訳ではないが、退避可能なスペ―スがない。
押し寄せてきた木偶人形とともに巨大な斬撃に巻き込まれてしまった。強靭な身体は切れることはないが、威力を減衰したわけじゃない。激しい衝撃が彼女を襲う。
「もうっ!」
中途半端な能力では、戦場全てを読み取ることは困難だった。完璧主義者の彼女がとても悔しく思うのは、その一点だ。
起き上がった背後の気配も、普段なら読み取れるはずだったのだ。
「ふふっ」
「もうその笑い声やめてくれませんか? うんざりするんですけど」
「ふふふっ、ウサギを捕まえたわ」
付けられた足枷は頑丈な鎖に繋がれていた。その先にあるのは真っ黒な滑車である。ずしりとスーの身体は重くなり、滑車の元まで引きづられる。
俊敏性が優れるスーではあるが、パワーがあるわけじゃない。捕まってしまえば抵抗しても、その攻撃に逆らうことはできなかった。
スーの口から舌打ちが漏れる。
衣服が破れ、逆さ吊りにぶら下げられて、スーは、にやけた面のベルと目があった。
混乱していた教会広場が静まり返る。
枝の男や木偶人形の動きが完全に停止し、闘っていたハルとフィンが二人の方向へ目を向けた。
沈黙を解せずにベルは僅かな疑念を顔に浮かべるが、目前に獲物がある喜びが勝ってしまったようである。
「ねぇ、私と話す気になったかしら?」
「おめでたい人ですね」
桜の森が鳴動するのは二回目である。一回目とは比べものにならないほど大きな振動は、大地震に近かった。
「え!?」
そして、全てを呑み込む静寂が訪れる。
ハルとベルは驚き、見回すと桜の森の全ての花が鉛直に落下する。
風に舞わず、直下に刺さる軌道は雨のようだった。
さらに静けさをぶち壊すように、爆発が生じる。
寒々とした教会広場を温める爆撃は、教会の正面部分を瓦礫にしてしまう。
立ち尽くして沈黙したままの枝の男は、刀を持ったまま広場の外まで吹き飛んでいった。
煙草を吸いながら現れたのはリサである。スッキリとした憑き物を落とした表情であった。
「……煙草の火を付けるには大きすぎたかな」
「遅いですよ」
「待たせたね、スー。後はその子達だけだよ」
「楽勝です」
もう阻害されることもない。逆さ吊りのスーは袖から無数のナイフを取り出した。
教会広場。リサ達が戦闘を眺めているシーン。
リサ「どうしてあんなにはしゃげるの? 変な薬でも注射したんじゃないの?」
スー「そうですよね。闘っている御姉様を彷彿とさせます」
リサ「え!?? 絶対私あんなんじゃない! フィン君もそう思うよね!?」
フィン「……」
リサ「噓でしょ!?」