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Void

作者: ウミガメ餅
掲載日:2017/03/30

駅への路を歩いている。私は電車に乗るために透明になる。透明になって、銀色になる。あとから知らない夏が付いてくる。付いてくるのは夏の勝手なので、夏に任せておけばよい。この前誰かの墓石を叩いたことを思い出すーーー こんこん、こんこん、という冷たい響きが昏々と掛かっているのかと聯想して少し可笑しい。それからひたと手の平を当てると墓石はひんやりしていて、私の熱は奪われてしまいました。私たちの熱は回転するたましいから放散されていると私は考える。熱を分つことはすなわち「回転の分配」 私たちの誰もが肌を触れ合い回転を共有し補完しています。そうすると皆ねじを巻いたおもちゃのように溌剌として、やがてその延長に新たな回転を生み出すこともあります。しかし虚へ献げた回転には一体如何なる働きがあるのでしょうか。それはきっと、私たちの営みが決して可逆的なことではない事を示すなによりの証左でしょう。すなわち私たちの熱を受動的に奪い虚へと遣ってしまう装置である無機物。墓石とはそれ自体が私たちのアンチテーゼなのです。そして私はそんなことを考えると何故か心が安らぐのでした。なにか大いなるものの抱擁を受けているような… ーーー 駅まであとどのくらいだろう。街ではいろんなフレーズが木霊し、共鳴しつつ錯綜しているので私は必死で糸筋を見出さなければならない。知らない夏の表情からなんらかのヒントが得られるとふいに思いつき、伺ってみた。あさはかにも今日はそういうシナリオなのだという先入観から。私は夢想家なのですぐ無意識のうちに思いついたシナリオに捉われてしまいます。しかし知らない夏の表情は何も語らなかった。みごとな空漠だ。void?empty? 不本意にも私は苦虫を噛み潰したような気持ちになりました。全てが轟音を伴いなだらかに渦巻いていた。そしてそれが私のーーー全ての虚に集約されていました。そして私はずっとそのことを知っていました。みんなも確かに知っているはず。なぜ誰も言わないのだろう?虚への阿諛、回転の分配、錯綜するフレーズ、厳かなVoid。少しがむしゃらになった私はそういったいらだちを込めた微笑を知らない夏へと投げかけてみました。すると知らない夏はみるみるうちに翳り、物憂そうにその身体を少し捩りました。捩った知らない夏の身体の節から、瑞々しい植物の茎をへし折ったときの音が痛快に連続しました。それを聞いて私ははっと気付き、透明になって、それから銀色になりました。

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