表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/523

そのいち



――1――




 ――京都府。


 京都は、それまで表に出ていなかった退魔師集団の根城であり、悪魔たちが表立って来襲した際、今で言う“特性型スキルタイプ”の異能者、当時で言う“退魔師”が悪魔と激戦を繰り広げた地でもある。

 京都市内は退魔師たちの尽力もあり、人的被害は最小限に納められた物の、やはり建物には大きな被害を受けた。そのため、今後を見込んで再建時に“退魔防壁”を設置。京都府府庁と関西特専の合体など、多方面から強化した結果、日本どころか世界有数の“対超常カウンター”としての役割を持つに至る。


「それに、わたしたちが?」

「ええ」


 放課後の職員室。首を傾げる鈴理さんに、頷いて答える。

 前代未聞の“特異魔導士”。異能力と魔導術を併せ持つその力の希少性は、計り知れない物だ。そこで、能力の検証や研究を行う必要があるのだが、関東で行うのは難しい。

 というのも、関東には獅堂と七と、最重要機密だが私、“魔法少女”がいる。これ以上力を一箇所に集結させると、反発がどのように生まれるか想像に難くない。ということで関東以外の場所かつ、有能で信頼でき、政府からの信用も篤い人物を選ぶ必要があった。


「それで、ようはパトロンですね。お願いできないかまず手紙で聞いてみたところ、快く承諾してくれまし――」

「師匠、敬語、とってくれないんですね」


 しょんぼり、と肩を落とす鈴理さん。

 あれほど心を分かち合ったのに、敬語のままなんて寂しいと告げる鈴理さんに、善処を告げた物の、慣れとは恐ろしい。

 こほん、とひとつ咳払いをして、向き直る。


「――承諾をしてくれたわ。ただ、一度は顔見せをする必要があるから、それを以て正式な契約にしよう、ということになったの」

「それで、冬休みが終わる前に、師匠と二人きりで京都に行けるんですか? やったー!」

「もう。遊びに行くのではないのよ?」

「わかってます! 師匠と二人、ということが嬉しいんです。えへへ」

「そ、そう」


 鈴理さんの心に宿っていた、彼女のトラウマの権化。実の祖父でもあった“笠宮かさみや装儀そうぎ”を祓ってから、鈴理さんは屈託なく笑い、自分の心を素直に吐露するようになった。

 それはいいのだが、こうもストレートだと、その、うん……照れる。


「でも京都かぁ。妖怪退治の方の総本山、なんですよね?」

「ええ、そうよ。……誰に聞いたの?」

「金山君が、“未知先生を敬愛し信奉する友の会”……じゃなくて、そう、集会で!」

「え? はぇ? んんん?」

「集会です」

「え、でも今」

「集会です」

「あの」

「集会、です」

「そ、そう」

「はい」


 …………聞かなかったことにしよう。

 と、とにかく。そう、退魔師たちの総本山、で正解だ。

 とくにこれから向かうところは、“退魔たいま七大家ななたいけ”と関わりが深いところ、と、そう鈴理さんに動揺を抑えつつ告げる。


「退魔七大家は、七色に準えて七つの名家があるの。元は赤、黄、青、黒、白の五色だったらしいけれど、これは今は割愛するわ」

「はいっ、師匠!」


 誤魔化そうとしているようにも見えるけれど、うん、まぁ、いいや。


 退魔七大家。即ち、

 序列一位、灼法しゃっぽう気焰練きえんれん赤嶺あかみね

 序列二位、召法・式神揮しきがみき黄地おうじ

 序列三位、迅法・雷霆らいてい剣の青葉。

 序列四位、望法・光掌拳こうしょうけん緑方みどりかた

 序列五位、双法・開闢かいびゃく刀の藍姫あいひめ

 序列六位、縁法・呪戒じゅかい陣の橙寺院とうじいん

 序列七位、律法・結界楼けっかいろう紫理ゆかり

 以上、七つの古名家のことを指す。


 そう説明すると、ふんふんと興味深そうに頷く鈴理さん。

 まぁ、直ぐに必要になる知識ではないけれど、これからのことを考えると、覚えておいた方が良い。


 なにせ。


「あれ? それじゃあ、師匠の知り合いで、わたしの支援をしてくれそうな方って、もしかして――」


 鈴理さんの目が輝く。

 まぁ、“その人”の世間一般での評価を思い浮かべれば、無理もないことだろう。そう、鈴理さんに苦笑して、頷いた。


「ええ、そう。英雄の一人にして、序列二位、黄地のご意見番。で、私の“当時”の姉代わり。黄地おうじ時子ときこさん、よ」


 おおっと手を合わせて喜ぶ鈴理さんを見て、思う。

 私自身も、実のところ、彼女に直接会うのは久々だ。私の姉貴分とも呼べる女性。時子姉のことだ、元気でないと言うこともそうそうないのだろうけれど……姿を見られるのは、嬉しい。


 はしゃいでお礼を言う鈴理さんに、私もそっと笑顔を返す。

 それから、心の中でそっと、お礼を返した。











「師匠のご家族にご挨拶できる機会が、こんなに早く来るなんて……」

「え? なにかいった? 鈴理、さん?」

「いいえ?」

「んんん?」


 にこにこと、いつものように微笑む鈴理さん。

 ま、まあいいか! いいよね……?





2016/10/18

誤字修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ