そのいち
――1――
――京都府。
京都は、それまで表に出ていなかった退魔師集団の根城であり、悪魔たちが表立って来襲した際、今で言う“特性型”の異能者、当時で言う“退魔師”が悪魔と激戦を繰り広げた地でもある。
京都市内は退魔師たちの尽力もあり、人的被害は最小限に納められた物の、やはり建物には大きな被害を受けた。そのため、今後を見込んで再建時に“退魔防壁”を設置。京都府府庁と関西特専の合体など、多方面から強化した結果、日本どころか世界有数の“対超常カウンター”としての役割を持つに至る。
「それに、わたしたちが?」
「ええ」
放課後の職員室。首を傾げる鈴理さんに、頷いて答える。
前代未聞の“特異魔導士”。異能力と魔導術を併せ持つその力の希少性は、計り知れない物だ。そこで、能力の検証や研究を行う必要があるのだが、関東で行うのは難しい。
というのも、関東には獅堂と七と、最重要機密だが私、“魔法少女”がいる。これ以上力を一箇所に集結させると、反発がどのように生まれるか想像に難くない。ということで関東以外の場所かつ、有能で信頼でき、政府からの信用も篤い人物を選ぶ必要があった。
「それで、ようはパトロンですね。お願いできないかまず手紙で聞いてみたところ、快く承諾してくれまし――」
「師匠、敬語、とってくれないんですね」
しょんぼり、と肩を落とす鈴理さん。
あれほど心を分かち合ったのに、敬語のままなんて寂しいと告げる鈴理さんに、善処を告げた物の、慣れとは恐ろしい。
こほん、とひとつ咳払いをして、向き直る。
「――承諾をしてくれたわ。ただ、一度は顔見せをする必要があるから、それを以て正式な契約にしよう、ということになったの」
「それで、冬休みが終わる前に、師匠と二人きりで京都に行けるんですか? やったー!」
「もう。遊びに行くのではないのよ?」
「わかってます! 師匠と二人、ということが嬉しいんです。えへへ」
「そ、そう」
鈴理さんの心に宿っていた、彼女のトラウマの権化。実の祖父でもあった“笠宮装儀”を祓ってから、鈴理さんは屈託なく笑い、自分の心を素直に吐露するようになった。
それはいいのだが、こうもストレートだと、その、うん……照れる。
「でも京都かぁ。妖怪退治の方の総本山、なんですよね?」
「ええ、そうよ。……誰に聞いたの?」
「金山君が、“未知先生を敬愛し信奉する友の会”……じゃなくて、そう、集会で!」
「え? はぇ? んんん?」
「集会です」
「え、でも今」
「集会です」
「あの」
「集会、です」
「そ、そう」
「はい」
…………聞かなかったことにしよう。
と、とにかく。そう、退魔師たちの総本山、で正解だ。
とくにこれから向かうところは、“退魔七大家”と関わりが深いところ、と、そう鈴理さんに動揺を抑えつつ告げる。
「退魔七大家は、七色に準えて七つの名家があるの。元は赤、黄、青、黒、白の五色だったらしいけれど、これは今は割愛するわ」
「はいっ、師匠!」
誤魔化そうとしているようにも見えるけれど、うん、まぁ、いいや。
退魔七大家。即ち、
序列一位、灼法・気焰練の赤嶺。
序列二位、召法・式神揮の黄地。
序列三位、迅法・雷霆剣の青葉。
序列四位、望法・光掌拳の緑方。
序列五位、双法・開闢刀の藍姫。
序列六位、縁法・呪戒陣の橙寺院。
序列七位、律法・結界楼の紫理。
以上、七つの古名家のことを指す。
そう説明すると、ふんふんと興味深そうに頷く鈴理さん。
まぁ、直ぐに必要になる知識ではないけれど、これからのことを考えると、覚えておいた方が良い。
なにせ。
「あれ? それじゃあ、師匠の知り合いで、わたしの支援をしてくれそうな方って、もしかして――」
鈴理さんの目が輝く。
まぁ、“その人”の世間一般での評価を思い浮かべれば、無理もないことだろう。そう、鈴理さんに苦笑して、頷いた。
「ええ、そう。英雄の一人にして、序列二位、黄地のご意見番。で、私の“当時”の姉代わり。黄地時子さん、よ」
おおっと手を合わせて喜ぶ鈴理さんを見て、思う。
私自身も、実のところ、彼女に直接会うのは久々だ。私の姉貴分とも呼べる女性。時子姉のことだ、元気でないと言うこともそうそうないのだろうけれど……姿を見られるのは、嬉しい。
はしゃいでお礼を言う鈴理さんに、私もそっと笑顔を返す。
それから、心の中でそっと、お礼を返した。
「師匠のご家族にご挨拶できる機会が、こんなに早く来るなんて……」
「え? なにかいった? 鈴理、さん?」
「いいえ?」
「んんん?」
にこにこと、いつものように微笑む鈴理さん。
ま、まあいいか! いいよね……?
2016/10/18
誤字修正しました。




