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えぴろーぐ

――エピローグ――




 さて。

 佐久間尚也を護星先生に引き渡した私たちは、無事、交流会を終えることになった。

 エグリマティアスの破片はこれまでどおり、政府に引き渡し。ただし今回は十五体のうち一体を護星先生が回収し、秘密裏に調べてくれるそうだ。護星先生は横の繋がりの深い方だし、お任せしても問題はないだろう。


「観司先生?」


 と、少し物思いに耽っていたように見えてしまったのか、隣から心配そうな声がかかる。

 そう、行きのように正面の席、ではなく“隣”の席から、だ。


 帰りの新幹線。

 無事、事を終えたあと、香嶋さんは私の隣の席を選んだ。


「ごめんなさい、なんでもないの」

「そうですか。いえ、なら、良いです」

「ごめんなさい、心配させてしまったわね。でも、ありがとう」


 落ち着いた横顔。

 クールな眼差し。

 朱の差したような頬。

 ……解りづらい、けど、照れているのかな。


「観司先生には、お弟子さんがおられると聞きました」

「ええ。彼女も、なんというか、特殊な経歴の持ち主だから、いつの間にかね」

「そうですか。姉弟子がどんな人物なのか、帰ってからじっくり確かめます」

「そうね、でも鈴理さんは良い子だから、香嶋さんのことも理解……えっ、“姉弟子”?」


 んんん?

 あれ、なんだろう、聞き間違いだろうか。

 あねでし、姉弟子、姉、弟子!? えっ、なんで?!


「あ、あの、香嶋さん、姉“弟子”とは、ええと?」

「魔導術式についてじっくり個人授業して下さいますのでしょう? それは最早弟子では?」

「ええっと、そう、なのかな?」

「ええ、そうです」


 断言されてしまって、これ以上突っ込むことができない。


「ただ、もう一方の方は、笠宮鈴理は観司先生を師と仰いでいるのですよね?」

「え、ええ。対外的には、個人の生徒に師と呼ばせるのは問題があるから、これまでのように先生、と呼んで貰っているけれど……」


 もっとも最近は、なんだか隠さなくなってきたような気もするが。

 なんだろう、こう、鈴理さんに外堀を埋められているような気がしてならない。


「そう、ですか」


 そう、香嶋さんは深呼吸をする。

 見据える目は正面に。朱を差す頬には気を留めず。少しだけ、決意に震える瞼。


「では私は、お姉さまとお呼びしますね」

「えっ」

「では私は、お姉さまとお呼びします」

「えっ」


 えっ。

 えっ、なんで。


「あの、お姉さま……あの衣装のことも、頑張って理解しますので、これからもよろしくお願いしますね」

「えっ、いえ、あの衣装については理解する必要なんかこれっぽっちもないけれど、お姉さま、というのは?」


 香嶋さんに問いかけると、彼女は震える手で私のスーツの裾を掴み、心配そうに、不安そうに目を伏せた。


「だめ、ですか?」


 彼女的には、勇気を出した一言だったのだろう、けど、ううむ。


「そう、ですよね、私のような貧乏ガリ勉女なんて、妹にしたくはないですよ、ね」

「ええっと、資質云々ではなくて、妹にしたくないひとだと思っている訳でもないのだけ、れど、も?」

「本当ですかっ」


 少しだけ、目を見開いて。

 小さく咲くような、控えめな笑み。


「これから、よろしくお願いします、お姉さま」


 あれ、お姉さま呼びを許可した流れだったかな、今!?

 訂正、しようにも、心の底から嬉しそうに微笑む彼女に、これ以上言い募ることができない。


 事件は無事解決。

 仲違いしていた生徒とも、仲良くなることができた。


「お姉さま、今度、お弁当を作ってきますね」


 けれど、あれ? どうしてこうなった?


 ああ、もう、本当に。

 鈴理さんと瀬戸先生に、どうやって説明しよう……。







 窓から眺める空は、透き通るような蒼穹だ。

 眺めていれば悩みなんか吹き飛ばしてくれるかとも思ったのだが、スーツに感じる香嶋さんの重みが、そうは問屋が卸さない。


 いったい何がどうして、こうなったのだろう。

 考えても考えても、答えは出てくれそうになかった――。



















――/――




「ん? 電話、かな? 香嶋さん、ちょっとごめんね。席を離れます」




「はい、観司です」

『――』

「七? どうしたの?」

『――』

「え、ええ。今は静岡を通過したわ」

『――』

「え? ちょっと、七?」

『――』

「どういう、こと?」

『――』

「そんな、ポチは?」

『――』

「いない? な、ぜ」

『――』






「鈴理さんが、失踪、した?」









――To Be Continued――


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