そのなな
――7――
クールな外見。
ホットな心意気。
結局、香嶋さんという真面目な女生徒は、そんなところに落ち着くのだろう。
闘志を燃え下がらせる香嶋さんを背に、そう、機械兵士に向き合う。
「【速攻術式・術式段階接続・3・1:鋼剣・2:硬化・3:術式持続・4:術式遠隔追加・展開】」
手に剣を持ち、構える。
西洋剣の扱いは、知っている。かつての英雄の一人に散々たたき込まれたし、拓斗さんも扱えたから時々教えを請うていた。
『7145041332048083804332022513240422』
機械音声。
佐久間が乗っていたときよりも遙かに早い攻撃を、避けて、いなす。
「【1:加熱】」
剣身が赤く輝くと、肌で感じるほどに熱を発した。
鋼鉄ではあるが、“術式持続”がかけてあるから、剣身が変質したりはしない。
先ほど融解させられかけたのを警戒してか、機械兵士は距離を取ろうとする、が、それならそれで――香嶋さんが、戦いやすい、はずだ。
そう、香嶋さんの詠唱に合わせて動こうと、耳を澄ませて――
「【術式開始】
【術式開始】」
――己の耳を、疑った。
「【形態・弾丸・様式・炎熱属性・展開】
【形態・弾丸・様式・氷冷属性・展開】」
同時に聞こえてくる別の音。
発射される二属性の弾丸は、機械兵士を凍り付かせながら燃やすことで、金属を割る。
というか、これってまさか……腹話術の、高等技能?!
す、すごい、これはちょっと私でも真似できない。瀬戸先生が絶賛するのも理解できる、とんでも技術だ。
おまけに、二つの魔導術式を同時展開、というだけでも高等技能。もしかしたら、その方面に特化した性質を、生まれた環境やなんかで極限まで伸ばしたのだろうか。それなら、“速攻詠唱”を操れるということにも納得だ。
「と、負けていられないわね。【2:遠隔切断】」
剣を振る度に、熱を宿した斬撃が飛来する。
それは炎と氷の弾丸で動きを鈍らせた機械兵士の腕を、簡単に切断していった。
「ふっ」
――ひとつ。
「はぁッ」
――ふたつ。
「せいっ!」
――みっつ。
「や、ぁっ!」
――よっつ。
「ったぁ!!」
――いつつ。
「ら、ァッ!!」
――むっつ!
連続の斬撃に、機械兵士が大きく後ずさる。
さすがに、ちょっと、負担が大きいかな……。
時折弾丸で援護してくれた香嶋さんも、肩で息をしている。でも、機械兵士の腕も残り二本。短期決戦で、仕留める!
『2203228083801375-450452122513.1123716280858013123204808580134112024594-33』
複雑な機械音声。
同時に、機械兵士の心臓部分に、紫色の輝きが宿る。
……これって、まさか!
「香嶋さん、下がって!!」
「え? きゃっ!?」
香嶋さんを抱き留めて、大きく下がる。
同時に、機械兵士の体から漆黒のオーラが溢れ出した。
『22043204,4404-750345910331-32808580135203』
そして。
機械兵士の体が、変質する。
ぼろぼろになった関節部分を覆うように、筋繊維が生まれ。
色を失ったアイカメラを補うように、眼球が精製され。
その背に、巨大な悪魔の翼を、生やした。
「ッ“悪魔憑依”?! そんな、機械が、何故?」
無機物に、悪魔は憑依することができない。
それは絶対の不文律であり、覆されることはなかった。だというのに、目の前のアレはどうみても悪魔憑依だ。
エグリマティアス……政府に預けて調査をお願いしていたけれど、自分たちでも独自に調べた方が良いのかも知れない。
『61123204808580211232』
機械音。
そして、咆吼。
悪魔の声は精神を軋ませる。だが無機物への憑依だからか、そこまでの効果はないようだ。でも、その力に偽りがないことだけは、危機に瀕した経験か叫んでいた。
周囲には、人影はない。
マイクも監視システムも、今の咆吼で完全に壊れた。
目撃者は――せっかく仲良くなれた女生徒が、ひとり。
うう、ああ、もう、もう、本当に。
絶対に、ゆるさない。
「せ、先生、いったい、どうしたら」
「大丈夫」
「せん、せい?」
「私が守るから。――来たれ【瑠璃の花冠】」
こんにちは、魔法少女。
さようなら、頼りになる先生。
また会ったね、痴女への道筋。
「【ミラクル・トランス・ファクトォォォッ】!!」
「きゃぁっ?! な、なにが!?」
いつものように、瑠璃色の光に包まれる。
輝く光は空の色。夜明け前の、ラピスラズリ。
さぁ、今日も、魔法少女を始めよう。
悲しみと、痛みを背負って!
「乙女の希望を穢す悪」
――ぷりんっと振る腰、翻るスカート。
「ずばっと倒して、きらっと解決」
――ぷるんっと張る胸、軋む胸ボタン。
「今をときめくきゅーてぃーgirl」
――ぷぎゅると鳴る靴、揺れるツインテ。
「魔法少女ミラクル☆ラピ」
――パチンッとウィンク、目が死んで。
「今日も可憐に、す・い・さ・ん♡」
――ステッキを振りかざして、にこっと笑顔。
空気が、凍り付く。
ええ。だって、機械でしょう? 感想とか、別にないでしょう?
かかってきなさいよ。ねぇ、ほら!
『2104124513251375230224033123,24033123,24033123,24033123』
「え、ええっと、機械さん☆? どうしたの?」
『24033123――21039280858013』
「え? なぁに♪?」
いや、本当になに?
ぴかぴか光るアイカメラ。
不気味に動く眼球。
『4112328085801302,423204808580454104034412』
やがてピカッと目が光り、ファイティングポーズをとった。
え? 機械がそんなに混乱することなの? え?
なんだか果てしなく、馬鹿にされた気がするのですが?
「ふ、ふふふ、もう、お茶目さん☆」
良いでしょう。
相手をして差し上げましょう。
なにせ、今日の私はひと味違う。リリーとの戦いで、大いに自爆して学んだのだ。
魔法は最後の最後だけ。
あとは全力無比の魔法少女闘技で、油断も手加減も慢心も安心も一切の遠慮もなく。
全身全霊でたたきのめす。
このステッキに、魂を売ってでも。
「らんらん、ららーん」
握り拳を口元に当てながら、極限まで少女力の高いステップ。
その一歩は音を越え。
『?!』
「るる、らーん♪」
二歩で光を越え。
『!?!?』
「るらーん☆」
三歩で、ただの衝撃波で機械兵士の両腕を砕いた。
※なお、魔法少女のステップのため、敵以外に被害はありません。佐久間? うん、死んではいないよ?
「きらっ♪ やだ、もう、悪戯な風さん♪」
敵だけに影響のあるソニックブームでスカートがめくれると、恥じらいポーズでぶりっこ台詞。やだもうしにたいだれかたすけて……と、危ない危ない☆
「あれあれ? もう、終わり? それならラピ☆も、最後の魔法、いっちゃうよ♡」
ちなみに、この、ラピ☆で実際に出てきた☆を投げつけて、機械兵士の片足を粉砕しております。
残念ながら、魔法少女からは逃げられないし、逃がさない!
「【祈願・影スラ残サヌ音ト光ノ斬撃・成就】!」
ステッキから瑠璃色の刃が伸びる。
その刃を水平に構えながら行うのは、極めて少女力の高いステップ。
その一撃一撃は闇をかき消す絶死の斬撃。
故に。
『gfgdbfjgvmbj!?!?』
「はい、はい、はいはいはいっ♪」
ミキサーで削られていくように、機械兵士の体を周囲八方向から切り刻む。
当然ながら、機械兵士に避ける隙など与えずに――その金属、一片に至るまで、全てを砂へと変えていき、そして。
「魔法少女のはーと♡ブレス♪ ――ふぅーっ」
最後は、ただの吐息で宙へと溶けた。
「今日も、魔法少女の任務たっせーい☆ 魔法少女は、今日も可憐に元気だよん♡」
ぴしっと決めるポーズ。
背後で起きる瑠璃色の爆発。吹き飛ぶ佐久間。
そして。
「しゅ、しゅみは、ひと、それぞれですから」
香嶋さんの優しさに、崩れ落ちた。
趣味じゃないの。
本当に、違うの。
うぅ、お願い、信じてーっ!?
 




