えぴろーぐ
――エピローグ――
あれから。
空を飛んできた九條先生が混乱しながら宥め賺し、師匠はなんとか再起動を果たして仕事をされていた。
それで、全部の後始末が終わると魂が抜けたようにぼんやりして、わたしの安否を確認すると、儚げに微笑んで首を吊ろうとするなど、師匠にして珍しい混沌とした様子でおられたのだけれど、翌々日にもなるとスッカリ元気になって下さった。
――もっとも、リリーちゃんはばたばたしている間にどこかへいなくなってしまったのだけれども。
「迷惑を掛けてごめんね、鈴理さん」
「いいえっ。こちらこそ、その、足手まといで」
「それこそ、いいのよ。私は先生だから、生徒を守らせて?」
でも、でもわたしは、守られるだけなんて嫌だ。
そう伝えたかったけれど、それはわたしの我が儘だから、胸に秘める。
結局、努力をするしかない。頑張って、強くなって、師匠に頼られるくらいになって。
守りたいっていうのは、そうなってやっと“迷惑”にならない言葉なのかも知れないって、最近考えるようになった。
「みっともないところ、見せちゃったなぁ」
「あ、あの、完璧じゃない師匠、ちょっと可愛かったですよ?」
「わすれて」
真っ赤になって視線を逸らす師匠は、可愛らしい。
放課後。人気のない職員室。夕日に照らされた師匠の顔。
守り守られ。それをひとまず脇に置いておいて、素直に嬉しいことが一つある。
「頑張ります!」
「……うん」
師匠の、今まで見られなかった色々な面。
それを知ることができたということが、嬉しい。
そう思ってしまうわたしは、けっこう悪い子なのかも知れない。
「さ、そろそろ帰りましょう、ね?」
「はいっ」
師匠に促されて、職員室を出る。
と、不意に。
「こんにちは」
声に、振り向かされた。
「っ」
「リリー、ちゃん?」
廊下の先に、不意に出現したリリーちゃん。
彼女は穏やかに微笑んでいて、どこか違和感が付きまとう。
「早速、報復かしら?」
「いいえ。まずは謝罪を。先日はひどいことをして、ごめんなさい」
「へ?」
あ、あれ?
なんでこんなに静かなんだろう。
空気が、落ち着いている?
「で、では、今日は謝罪をしに?」
「いいえ。それだけではないわ。ねぇ、ラピ」
「っ、未知と、呼んで下されば構いません」
「そう、なら、未知」
生唾を呑み込んで、場を見守る。
どうなるかまったくわからない中、不意に動いたのは、リリーちゃんだった。
「っ」
リリーちゃんは、瞬く間に師匠の前に移動する。
そして――詠唱をしようとした師匠の唇を、己のそれで塞いだ。
「えぇっ?!」
「っんむ!?」
「はむっ、ふふふ」
なんで? えぇっ?
いったい、なにがどうなって?
「あなたの情熱的な口づけと、電撃が忘れられないの。だから、責任は取って貰うわよ」
「責、任?」
「ええ、そう。ひとまず魔界を制圧してくるわ。それが結納金。だから、待っていて?」
「なっ、えっ、あれ?」
「私の可愛い、未知?」
そう言って、リリーちゃんは踵を返して去って行く。
後に残されたのは、どうすることもできずに硬直する、わたしと未知先生。
そして。
「きゅぅ」
「わわわわっ、し、師匠っ!?」
ふらりと倒れ込んだ師匠を支えて、右往左往。
端末でなんとか鏡先生に連絡が付いたけれど、起こしたところで同じ事な気もするし。
もう、なんでこんなことに?
わたしはそう、師匠の頭を膝に乗せて、ろくな介抱もできなくて。
「うぅ、起きてください、ししょぅ」
廊下にはただ、わたしの情けない声ばかりが響いていくのだった。
――To Be Continued――
2016/10/02
誤字修正しました。




