えぴろーぐ
――エピローグ――
結局。
ログハウスまで綺麗に緑に染め上げた私は、愕然とする仙じいの姿にちょっと溜飲を下げつつ帰郷することになった。
で、なにやら仲良くなった芹君が、空港のロビーで別れを告げるために鈴理さんを引き留めている。
「なんだか色々あったけど、なんとかなって良かったね、芹君」
「ああ、そうだな。あのさ、笠宮。色々ありがとう。おまえのおかげで俺、“嫌いな俺”にならずに済んだから、さ」
「そっか、うん。どーいたしまして、芹君」
「……ああ」
照れたように頬を掻く芹君と、後ろ手に組んでにこにこと笑う鈴理さん。
あらやだなにこれ甘酸っぱい。そうにやにやしていると、仙じいに肘で脇腹をつつかれた。はいはい、表情には出さないように気をつけますよ。
「今度は、関東にも遊びに来て? わたしの親友、紹介するからさ」
「忍者スナイパーと、万能ソードガンナー、だよな?」
「そう、そうなんだけど、なんか言い回しがおかしくない?」
「こんなもんだろ」
うーん、獅堂的だと思うけどなぁ。
いや、獅堂だったら“闇に潜む漆黒の刃”と“ディストーション・ガンソード”とか言いそうかな。うん。
「俺、もっと強くなる」
「うん」
「でさ、今度は俺が、笠宮を守る」
「……うん」
「だから、辛くなったら俺を呼べ」
「…………」
「呼びたいって思わせるほど、強くなってやるから、さ」
「……えへへ、楽しみにしてるね?」
「おう」
「ふふ」
告げた芹君の顔は、真っ赤だった。
恥ずかしいのか、照れているのか。それでも鈴理さんに伝えたかった言葉、なのだろう。
うん、なんというか、邪推とかではなくて……心が温かくなる、いいな、と思える瞬間だ。
「仙じい」
「なんじゃ?」
「ありがとう」
「こっちの台詞じゃ」
「ふふ、そっか」
「うむ、そうじゃ」
仙じいに笑いかけて、鈴理さんに呼びかける。
そろそろフライトの時間だ。ポチも、珍しく私の頭の上で眠そうにしているし、そろそろ搭乗しなければ、ね。
「あ、そっか、今行きますね、師匠っ」
慌てて駆け寄ってくる鈴理さんに苦笑して、それから、並ぶ二人に振り返った。
今回、私がしたことなんてほんの僅かだ。接することができた時間なんて、本当にたいしたことがない。それでも、なんだか近づけたような気がするのは、鈴理さんのおかげなんだろうなぁ。
「それでは。芹君、仙じい、またね?」
「は、はい」
「おうよ」
照れたように頬を掻く芹君。
朗らかに笑う仙じい。
二度とないのかも知れないとさえ思ったひととの、家族の時間。それをもたらしてくれた鈴理さんの頭を撫でると、鈴理さんはくすぐったそうに身を目を細めた。
「さ、帰りましょう」
「はいっ、師匠」
願わくば、また、この絆が鈴理さんの助けとなりますように。
そんな願いを空に託くすように、私たちは飛行機に乗り込んだ。
――/――
淀んだ空。
濁った雲。
荒れた大地。
枯れ果てた海。
魑魅魍魎が跋扈する魔界の城で、少女は楽しそうに微笑んだ。
「我が敬虔なる魔王様は、あっさり人間に殺されてしまったということなのね」
鈴を転がすような声だ。
幼い声は可憐で、けれどそれ以上に艶やかで痛ましい。
「まるで物語のよう。特別なひとたちに混ざって剣を振り、悪の親玉を退治するのね。うふふ、愉しそう。羨ましいわ」
少女は唄うようにそう笑うと、王城の上に浮かぶ小さな空間を見据えた。
「でも、この身が引き裂かれるような時間も、もう終わり。やっとあなたたちに会える準備が整ったわ。英雄さん? ふふ、あは、あはははははっ」
少女は踊る。
少女は唄う。
朽ちた城で唄う歌は、鎮魂歌にはなれないほどに愉しげだ。
「さぁ、私を楽しませてちょうだい? 今度は魔王さまなんかよりも、ずぅっと楽しめるように頑張るわ」
そして少女の体が、闇に溶けて消える。
あとにはもう、その痕跡すらも含めて、幻であったかのように消え去っていた――。
――To Be Continued――




