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そのいち



――1――




 窓の外から見える風景は、澄んだ青空と雲の海。

 照りつける太陽に翳りは無く、この高さには鳥も居ない。


「師匠と二人きりで修行なんて……えへへ、嬉しいです」


 そう朗らかに笑う鈴理さんは、相変わらず可愛らしい。

 文句なしの癒やし系であり、この“厄介”な状況でもふわふわとしていてくれるその様には、やるせなさを軽減させてくれる何かがあった。特別になでなでして進ぜよう。


「はわぁ、ほわぁ」

「いいこ、いいこ」

「え、えへへ」


 あー、癒やされる。

 膝の上のポチもついでに撫でる。ふわふわ、ふわふわ。

 これでも私は、意外と可愛い物が好きなのだ。


『わん』

「痛かった?」

『くぅん』

「そう」


 気持ちいいか、よし、よし。


「でも、どういうことなんでしょうね?」

「ぁ――そ、そうね」


 鈴理さんの言葉で、現実に引き戻される。

 わざわざ私と鈴理さんとポチが、肩を並べて飛行機になんか搭乗して、わざわざ遠征競技戦後の振り替え連休を潰す理由。飛行機、苦手なのに時間の短縮という名目で乗せられた訳。

 そう、拓斗さんのあれやこれやを考えて、なんか感触とか思い出して布団の上でばたばたする日々からとりあえず現実逃避するために、可愛い弟子と旅行……なんて理由ではもちろんない。そっちが良かったけど。


 で、肝心の理由。

 それはなんと、仙じいから届いた一通の手紙にあった。


 堅苦しい前置きやらなんやらを飛ばして、用件だけ抜き取ってみれば、弟子を紹介したいという一文が抜粋できる。

 そしてこれは、当然ながらただの紹介文ではない。詰まるところ、極度の“超人主義”となってしまった弟子に、純魔導術師の弟子を紹介して、その力を示して欲しいというものであった。


 最初は、鈴理さんを巻き込む訳にはいかないので断ろうと思っていたのだが、そこはそれ。英雄の弟子が差別的であることを危険視した政府が、特別な処置として無理を通してしまったのだ。

 代わりに鈴理さんには補助金が降りるので、実家にお金を送りたいということで笑って了承して貰えたが……ううむ、心が痛い。差別主義の異能者ほど危ないのだけれど、それは、まぁ、私が守り切れるように気をつけよう。


ひさぎ仙衛門さん、って、先日引退発表のあった英雄の方、ですよね?」

「ええ、そう。そのお弟子さんは仙じ……仙衛門さんの弟筋のお孫さんみたいね」

「ほわぁ……。でもどうして差別主義なんでしょうね? 師匠がいるのに」

「英雄六人以外は、ラピの行方を知らないからね」



 七人英雄。



 “紅蓮公プロミネンス・イーター”――九條獅堂。

 “蒼時雨ネロ・コズモ・ウラノス”――鏡七。

 “仙法師せんほうし”――ひさぎ仙衛門。

 “異邦人トリッパー”――東雲しののめ拓斗。

 “式神遣い”――黄地おうじ時子。

 “幻理の騎士”――クロック・シュヴァリエ・アズマ。



 “魔法少女”――ミラクル☆ラピ。



 魔王との戦いに命を賭して戦った、七人の英雄たち。

 その一人、クロックは所在がハッキリしていないだけで生存は確認されている。

 その一人、ミラクル☆ラピは生存も所在も定かではなく、一般的には力なき人々に“魔導術”を“託して”魔法少女の星に還った、ということになっているようだ。

 というか、魔法少女の星ってなんだ。そんなものないよ。ない、よね?


「そっかぁ。師匠が魔法少女で魔導術師だって知っていれば、差別しようなんて思うはずが無いですもんね!」

「鈴理さん、外であまり大きな声で言ってはだめよ?」

「ぁ、ご、ごめんなさい」


 恐縮する鈴理さんに、ただ苦笑を返す。

 いやほんとに、誰が聞いているかわからないからね? 私、魔法少女だってばれたら引きこもるからね? マリアナ海溝の異界、深海大迷宮とかに。


「その、ひさぎさんのお弟子さんも、英雄と同じ異能が扱えるんですか?」


 あー、魔導科は異能についてはそこまで掘り下げていないか。


「そうね。“特性型スキルタイプ”は、血によって発現するからね」

「血、ですか?」

「そう。血統が異能の発現を促して、その異能の制御方法なんかを代々研鑽していく。所謂、古名家と呼ばれる退魔師の家はこの異能で妖怪を排し、異能で道具を作って異能の無い人間も妖怪と戦えるように訓練し、人間を守ってきた。だから、退魔師たちは一括りで統一した技術を持っているのではなく、血統ごとに異なった技術を保持しているの」

「ほへぇ……。それで、楸さんのお弟子さんは、楸さんの弟さんのお孫さんだから、同じ異能が扱えるんですね?」

「そう」


 英雄の中だと、七と時子姉がこれに当てはまる。

 もっとも七は、まぁ、生まれが“特殊”なので、カッチリ当てはまるかと言われるとそうでもないのだが。

 ちなみに、“共存型キャリアタイプ”の特徴は、“宿主が存命している限り同じ異能は発現しない”ことである。つまり、魔法少女(の道連れ)は増えない。つらい。


「なんとか、仲良くなれるといいですね」

「そうだね……」


 ほにゃっと笑う鈴理さんに癒やされながらも、不安は拭えない。

 超人至上主義とさえいわれる彼らは、歴史の中に於いて様々な差別を生み出してきた。魔導術師に対する蔑称、“絞りカス”や“異能劣等者”という言葉も、彼らが生み出したモノだ。


 平和的に終えてくれるのなら、それに越したことは無いのだけれど……。


(ポチは今までどおり、鈴理さんの護衛。よろしくね?)

(あの娘なら大丈夫であろうが、心得た。……ところで、ジャーキーもうないのか?)

(? はいはい、鈴理さんに渡しておくね)

(うむ。流石はボスだ)


 なんだか、嫌な予感しかしないんだよなぁ。





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狼が堕落して犬化してるw
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