そのいち
この章から新しいお話です。
第一章の変更点。
笠宮鈴音→笠宮鈴理
ミラクル☆サファイヤ→ミラクル☆ラピ
――1――
回転寿司系列の完全個室居酒屋“りつ”。
“特専”の卒業生が店長を務めるこのお店は、私たち七人の英雄にとって格好のたまり場だった。
といっても、中々全員が集まれる訳ではない。呼びかけて仕事の都合がなく予定を空けられるのはたいていは夜は職務外の私か、暇人の獅堂だけだった。この男、こんなに遊び歩いて金を持っているため、薄給とまでは言わないが彼の足下にも及ばない給与という現実を思うと、胸が痛い。
「それでは、七の就任を祝って――乾杯!」
だが、それも今日までだ。
吾妻英の一件で特専から心理系能力者がいなくなった。どうにかして欲しいと理事長に泣きつかれ、コネ入社している以上断り切れず、ダメ元で当時の“弟分”に声をかけてみたのだ。
「ありがとう。未知に誘って貰えて、僕は嬉しい」
そう、喜びを滲ませた声。
大人の男性にしては少し高く、けれどすっと耳に透る良い声だ。
「ませたなぁ、ちょっと前まではガキんちょだったのに」
「精神的に子供な獅堂には言われたくないよ」
「はっはっはっ、言うようになったじゃねぇか」
神秘的な青色の髪を涼やかに整え、灰とも銀とも言い及ばない瞳を優しげに細める青年。
いわゆる王子様系、とでも言うのだろうか。女の子みたいな名前だとからかわれた昔とは想像も付かない、美青年に成長した。
彼こそがかつての“七英雄”のひとり。鏡七だ。
「未知? 未知は祝ってくれないの?」
「そんなはずがないでしょう? 私が頼んだのだもの。それよりも、本当に良かったの?」
不安げに揺れる瞳に、思わずハッと我に返る。
イケメンなのに可愛らしい仕草も見せるとか、なんかこう、ずるい。
「未知に頼まれたことが、悪いことであるはずがないよ。むしろ、未知に頼りにされて、僕は嬉しいよ」
先ほどまでとは一転。
顔をほころばせて喜ぶ姿は、成長したての色気があって、ぐらつきそうになる理性を姉貴分の根性で押さえつけた。
ああ、もう、うん、やっぱりなんかずるい。
「そう。ありがとう、七」
彼は実のところちょっと特殊な出生をもっていて、そのせいかこういったストレートな物言いが多い。好意を告げる言い方もなにかとまっすぐで素直だったりと、聞く人が聞けば勘違いをしてしまいそうな発言も多い。
だがまぁ、幼い頃からの彼を知っている身としては、むずがゆい友愛だと広い心で受け止めてあげている訳なのだが。いやーだって、多少色気にくらっとくることがあったとしてもだよ、身も心も王子様、なんてことはないでしょう? 弟分だよ?
「おまえは相変わらずだな。腹黒」
「獅堂も相変わらずだね。狂信者」
「言うじゃねぇか。“おねえちゃん”に甘えなくていいのか?」
「相変わらずそうやって妄想ばかりか。そろそろ現実に生きたら?」
「はっはっはっ」
「はははははは」
と、考え事をしていたから思考がそれて、二人の会話を聞いていなかった。
まずいまずい。
「え? なに? どうしたの?」
「なんでもねぇよ」
「なんでもないよ」
あれか。男同士にしかわからない友情というやつだろうか。
特専はいまいち熱血だとか友情だとか努力に勝利だとか、少年漫画的青春に燃える生徒が少なくて寂しい。
「とにかく。就任おめでとう。頼りにしてるよ、七」
「うん。任せて、未知。未知のために頑張るよ――虫除け」
「虫?」
「もうすぐ夏だからね」
「虫くらい、怖くはないわよ?」
「そっか」
「ええ」
そう、本当に怖いのは“変身”だからね!
そう自虐的なネタで盛り上がる私と、社交辞令で微笑んでくれる弟分と、爆笑する中二病。
そんなこんなで、我が特専関東エリアに、英雄が赴任しました。
2018/04/21
誤字修正しました。