えぴろーぐ
――エピローグ――
さて。
あの後の話をしよう。
システムの故障について土下座して、腹を切ろうとする甲さん。そんな甲さんに般若のような顔で詰め寄り、学校に通い続けることやらなんやら十三箇条を叩きつけて同意を貰った、ずいぶんと強かになった夢さん。
なにやら夢さんと鈴理さんで約束事を取り付けていたようだが、そこはそれ。私が聴いてはいけないようなお話しらしいので気にしない。気にしないったら気にしない。
結局一晩泊めて貰い、三人+一匹で、帰りの新幹線に乗り込むことになった。
「その、本当に、黙っていてくれるの?」
「も、もちろんです!」
そして、その新幹線の中。
座席を回して四席分。私の正面に鈴理さんで、その隣には夢さん。
ペットではなく使い魔扱いのポチは、私の隣でお行儀良く座っている。
「私のために恥を忍んであんな姿になってくれたのに、言いふらしたりなんかしませんっ」
「そう……ありがとう、夢さん」
そう微笑みかけると、ぽっと頬を染める夢さん。
これ、大丈夫な反応だよね? ね? 誰か教えて。
この雰囲気で有栖川さんに会って、本当に大丈夫なの? 君たち、遠征試合でチームだったよね?
「そういえば、鈴理さん。遠征競技戦の訓練、大丈夫?」
「はいっ。私たちの参加する“フラッグ・キャスト”に向けた練習、けっこう良い感じなんですよ?」
「そうなんです! そう、リュシーとだって、ぁ」
「夢ちゃん?」
「リュシーに今回のこと、なにも言ってない」
「へ?」
――色々あって、ある意味では夢心地だったのだろう。
現実逃避したようなことが盛りだくさんで、いっぱいいっぱいだったということがよく理解できるから、外側から見ている私にとってみたら、“仕方の無いこと”だと思う。
有栖川さんもそのあたりのことは理解してくれるような子だと思うのだが……当人たちからしてみたら、一大事なのだろう。
「端末に着信、入ってる!?」
「わ、わたしもだ、どうしよう夢ちゃん!」
「二人とも、電話をするなら通路の方で、ね?」
「はい!」
「はいっ」
慌てて席を立つ二人を見送って、ふ、と息を吐く。
うんうん、やっぱり若い子は元気にしているのが一番、だね。
「さて、と。ポチ、どう思う?」
お行儀良く座っていたポチにジャーキーを差し出すと、ポチはぺろりと一口で食べて、満足そうに口元を舐めた。
『危険な事態が多すぎる。遠征競技戦といったか? あれも気をつけた方が良いだろう。ボスの仲間に、流れを読む者が居ただろう? あれも感じ取っているはずだ』
七の、流れを読む力、か。
七のことだ。心配をかけないように隠しているか、聞かれるまで答えないようにしている、というところかな。
まったく。どうしてあんなに過保護になったのだろうか。
「そう、だね。運命の流れ、ということ?」
『如何にも。神が定めた運命が、ボスの周囲に苦難をもたらしている。で、あれば、あらゆる事態に対応できる心構えをせねば、荒波に飲まれるぞ』
「私はまぁ、最悪、どうとでもするよ。だから、ポチ」
ポチの目をじっと覗き込むと、ポチはゆっくり、頷いてくれた。
『うむ。あの小娘は妙に受難を惹きつける。ボスの頼みとあらば、我も気に掛けよう』
「うん、お願い」
私が苦難の道を歩くのは、構わない。
ずっとそうして生きてきたし、ずっと戦って乗り越えてきた。だから、ある意味では慣れている。
だが、最近になってようやく立ち向かえるようになった鈴理さんは、別だ。私の目から見ても“奇妙”と言えるほどに災厄を惹きつける彼女には、もしかしたらまだ、秘められたナニカがあるのかもしれない。それを乗り越えることができるのは鈴理さんだけだが、手伝うことはできる。
友情に、学業に、ひょっとしたら、恋愛に。
戸惑って、間違えて、向き合って、真剣に前を向く彼女たち。
そんな輝かしい青春の一ページに、暗く重い闇の記憶を刻み込ませたりはしない。
「ポチ、私たちが護るよ」
『群れすら護れず、滅ぼした狼だ。――魔狼王の名にかけて、二度は間違えん』
「うん」
だから。
今は、ひとまず。
『うわぁぁぁぁ、ぐすっ、ごめんねぇぇぇっ』
『うぅっ、りゅしーちゃん、ごめんね、ごめんなさい』
『うぇっ、うぅ、ぐすっ、ぁぁぁぁ』
周囲の乗客が、何事かという目で通用口を見ている。
おそらく、意外と涙もろい夢さんが泣いてしまって、釣られて鈴理さんが泣いてしまったのだろう。
電話口でおろおろと戸惑う有栖川さんの姿が容易に想像できて、苦笑を零す。
「ちょっと宥めてくるから、荷物番、よろしくね」
『わんっ』
魔法少女として、彼女たちを護る前に。
先生として、生徒たちの心を守りましょう。
決してこの未来を穢させはしないと、胸に秘めて。
――To Be Continued――




