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そのにじゅういち

――21――




 ――聖樹内部・卵殻・根源の間



 体中から神力の濃厚な気配を立ち上らせ、開かれた瞳で私を睨むダスト。

 まずは侮らせてこちらが有利なように進めよう、という脳内プランが一切取れなくなったことを証明するかのように、ダストは憎悪と憤怒に塗れた表情を浮かべていた。


「未知、おまえ、実は他人を怒らせるの、得意だろ」

「いやいやいや、苦手だからね!?」


 いやそりゃほら、痴女呼ばわりしてくる敵は別として!


「痴話喧嘩は終わりか? ならばとく、ね」

「っ来たれ【瑠璃の花冠】!」


 アリュシカさん人形を奪ったり、サーベの意識を介抱したりと行った甲斐があって、呼び出すことは出来そうだと直感した。おかげで、再構築された神槍を止めることができたのだけれど――うん、やっぱり変身は厳しい。

 変身さえ出来れば、という気持ちはある。でも、ステッキを盾にしつつ変身せずに勝てたら正直それに越したことはないよね!


「【速攻術式セット連射弾(オートブレット)展開イグニッション】」


 魔導陣を展開。青い燐光を放ちながら、ステッキで神槍をいなす。マトモに受けれたのは、不意打ちで翳したからだ。押し切る気でやられたら、ステッキはともかく私の筋力が負ける。

 連射弾を、ダストは片手で弾きながら私に槍を向ける。けれど、片手を封じられるのであれば、なんとか、ステッキで回避は出来る。


「あなたの目的は何?! 何故、世界を混乱させるの?」


 問いかけ。時間稼ぎ、と言っても良い。


「世界を混乱? ふん……あの神が作った世界など、混乱してしまえば良い」

「え?」

「あの神は、オリジンは、自らの世界を唾棄した畜生だ。ならば、その畜生が作った世界を新たな世界に作り直すことが、神の代理人足る我が使命!」


 オリジン――かつて私が、おじいちゃんやミカエラさんたちの力を借りて討ち倒した、私たちの世界の創造主。ダストはその、神の代理人だと叫びながらも、その瞳には神への憎しみが爛々と燃えていた。


「己の作った世界を天使と悪魔に侵略させ、成功すると飽きたと戯言を言い、再び覆されると戯れに世界を破棄しようとして、上級神により全ての権限を取り上げられた哀れな子供。アレは、追放される間際に己と天使と悪魔の因子を練り上げて、取り上げられた世界を破壊する存在を遣わせた」


 淡々と語るダスト。その口ぶりから感情が見えてこない。それが、なおさら薄ら寒く感じる。さっきまで見えていた、憎しみが、今この瞬間にはもうどこにもないのだから。


「しかし、世界を破壊してなんになる? それよりも、もっと必要なことがある。世界を粛正するのだ」

「粛正……?」

「そうだ。醜い人間も、天使も、悪魔も淘汰する。選ばれた者だけが聖樹に棲み暮らし、選ばれた人柱が聖樹に栄養を与え、選ばれなかった者たちは、聖樹の威光にひれ伏し、死んでいく」


 選民思考。それを、淡々と語るダストの姿に違和感を覚えた。だが、それすらも勘違いだったと思い知らされる。


「わかるか? 英雄よ。私は神の代理人として生まれたが、神はもういないのだ。ならば、この愚かな世界を救い、本当の神となる資格があるのは、私しかいない。私しか、いないのだ!!」


 衝撃。

 轟音。

 荒れ狂う神力が、ダストの身体を覆う。


「ッ未知、避けろ!」

「ぁ――【回避ステップ】!」


 短縮詠唱。咄嗟にとった回避行動が功を奏して、私の顔の横を神槍がくぐり抜ける。


「あぅっ」


 同時に、脇腹に食い込むダストの足。蹴り飛ばされたと気がついたのは、橋から落ちて内膜に叩きつけられたときだった。


「神聖なる聖樹から離れろ」

「っつぅ……愛も、勇気も、希望も、全部が全部踏みにじって、その先にあるのが選民? ばかに、しないで。あなたなんかに捨てられるような人間は、一人も居ない。みんな頑張って、戦って、自分で選んで生きているのよ!!」


 恋人を失った幸眞さん。

 長く呪いに苦しめられた時子姉。

 妹を失った凛さん。家族を失ったひとたち。

 みんな、みんな、悲しくても生きてきた。戦って、乗り越えて、償って、生きてきた!



「誰かの人生を踏みにじる権利なんて、何処の誰にもありはしないのに」



 ダストを見上げる。彼の瞳には、どこか、理想に殉ずる狂信を宿しているように見えた。


「この混沌の世界を救うことが出来るのは、正しく私だけだ。ならば、その意に沿うのが、神の下に平等たるおまえたち人間の、当然の義務だ。――【光よ】」


 ダストが手を上げる。上空に現れるのは、無数の神槍。光と白の、槍。


「【速攻術式セット飛行制御(フライトユニット)展開イグニッション】!」


 低空飛行。水を切りながら飛行する私の周囲に降り注ぐ、無数の槍。飴のようなそれらを避けながら、私はダストに手を向ける。


「【速攻術式セット爆裂徹甲弾ブラストスナイプバレット展開イグニッション】!」

「その程度」


 爆破。

 震動。


「利かないか」


 ダストの眼前に張られた結界が、余波すら届かせない。


「こちらの番だ。【闇より来たれ】」

「今度は闇?! きゃあっ」


 水中の暗がりから突き出る、闇の槍。魔槍は私の道を狭めるように展開すると、そのまま棘の庭でも造るかのように、私に追いすがる。同時に、空から降り注ぐのは、白い槍、神槍だ。

 同時に捌くのは、きっっつい!!


「ッ――【速攻術式セット氷結フリーズ展開イグニッション】!」


 なら、まずは水を凍らせて魔槍を止める。

 それから、槍を避けながら次の詠唱!



「【基点術式オープン律動開始セット】」



 分割思考。

 回避に専念。



「【形態指定フォーム多重効果マルチプル・エフェクト】」



 多少掠っても構わない。

 痛みには、なれている。



「【様式設定アーム王衛剣団(ロイヤル・ナイト)】」



 行動を単純化。



「【装置付加パーツ指揮起動パフォーマンス・コンダクター】」



 魔力を循環。



「【機構追加プラス結界破壊コンディション・ブレイク】」



 意識を、発動に傾けて。




「【重装ハーモニクス術式展開イグニッション】!」




 私の周囲に、四つの剣が生まれる。私の身長よりも大きな剣が二つ。片手剣が一つ。短剣が一つ。浮き上がった大剣が槍を防ぎ砕き、細かいものは短剣がサポートし、片手剣は私の意のままにダストを攻撃する。

 剣軍旅団ブレイド・ファランクスの数を減らし、精度と威力を格段にアップデートしたとっておきの魔導術。


「悪足掻きを! 【光よ――なに?!」


 剣が結界を砕き、空いた空間に弾丸術式を打ち込む。そうしてやっと、ダストは動揺を見せた。翼をはためかせて飛び上がるダストに、飛行術式で追いすがる。

 高速軌道。ダストの翼が翻り、白と黒の槍が無数に空を駆ける。光と闇、魔力と神力。相反する力が互いを食い破りながら、螺旋の軌道を描いて相対していった。


「正義のために殉ぜよというのがなぜわからない!」

「あなたのそれはただの我が儘よ! 理不尽に希望を踏みにじって、犠牲にしたその先に、本当の愛なんてない!」

「救世に、わかったような口を!!」

「あなたのそれは救世ではない。支配というのよ!!」


 槍が瞬く。

 時にそれは閃光のように。


「きゃあっ」


 魔導が煌めく。

 時にそれは流星のように。


「ぬぅッ」


 槍と剣がかち合う。

 ついには魔導術が自壊して、槍もまた、同じように掻き消えた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

「諦念こそが希望だと、なぜわからない」

「わからないわ。他人を無視して、自分だけで救うなんてばかなことを言うあなたには」


 沈黙。

 ダストの、宇宙の色を宿した瞳が、薄く開いた。


「もう、いい」


 その言葉に、私もまたステッキを握りしめる。ダストの言葉には、どこか滲み出るような諦念があった。でも、ダストがなにをしようと私は、このまま引き下がってなんかやらない。

 想意精霊も起動しない、ちゃんとした変身もままならない。でも、たとえみんなの希望がキアーダに干渉されて集まらなくても、みんなから受け取った希望は、ちゃんと、私の中に宿っているはずだ。


「阿呆め。救うことも裁くことも、許すことも踏みにじることも、神は許される。神のみに許される。それを、貴様の死で証明しよう。――【光あれ】」

「ッ未知、逃げろ! オレの面倒はオレで見る。行け、未知ィィィィッ!!」


 ダストの頭上に輝く巨大な槍。光の白と闇の黒が、捻れ混ざる螺旋の槍。その歪さと凶暴さに、サーベは悲鳴のような叫びで私を逃がそうと、足掻いてくれた。

 でも、だからこそ、私は逃げない。逃げてはならない。この世界を命がけで救ってきた英雄を見捨てて、なにが始祖だ。なにが、愛と希望の魔法少女だ!


「たとえ」

「命乞いか? 辞世の句、というのだったか?」

「この身が、どうなろうと」


 ステッキを振り上げる。こんな無茶なやり方をして、私が無事で済むのかはわからない。今まで、こんなやり方で変身をしたことがなかったから。

 それでも、まともに変身できない今、あの強大な力を持つダストを圧倒し、みんなを助けたいのなら、一つしか無い。


「あなたの野望は、打ち砕いてみせる!」

「ほざいたな。では、輪廻の果てに散れ――なんだ?」


 放とうとした槍が動かず、首を傾げるダスト。同時に、何か察した顔になるサーベ。


「無駄よ。もう私は――変身の意志を固めた(・・・・・・・・・)わ」

「は?」

「【ミラクル・トランス・ファクト】!」


 ステッキが眩い輝きに包まれる。同時に私の身体にも光りが奔るが、服装は変化しない。力も湧いては来ない。ただ、切り替わりそうになったりならなかったりと、ノイズが走るだけだ。

 足りない。幾万幾億の愛と希望を糧に戦う魔法少女の姿には、まったく至れない。愛と希望では、勇気と誠実では、魔法少女には至れない。


「希望を集めているのか? ……ク、ハハハハッ、無駄だよ。辞めておけ。要らぬ希望を持たせるなと、キアーダには厳命している。なるほど、しかしそうか、どうやって魔導術とやらが蔓延したこと思っていたが、その力か」


 足りない?

 なら。


「時間稼ぎの手段とすれば見事であった。だが、それでどうなる? キアーダが死ななければ、おまえが集めているなけなしの希望は、花開くことなく消えゆく。諦めろ。そうして――」

「そうだね」

「――なに?」

「愛と希望では、きっと足らない。でも」



 真逆(・・)なら、話は別でしょう?



「二重変身――【ミラクル・トランス・コンヴァーション】!!」



 ノイズが書き換わる。

 砂嵐は鎖に、鎖は茨に、茨は稲妻に。

 夜明け前の瑠璃色は、黄昏よりも鮮やかな真紅に。




「なんだ?!」




 希望の力は渇望に。

 尊き愛は鮮烈な欲に。

 勇気と誠実は邪気と自由に。








 ――そうして、私の、意識は。



















――Pikon!!


















【※新着メールが届きました!】


















『お待たせ、おねえちゃん! 希望の力が解放されたよ! やっと、私もおねえちゃんの力に――ってなにこれ?! あわわわわ!』













 ステッキに、前世の妹を象った想意精霊が戻る。

 同時に、溢れた希望が、【瑠璃の花冠】を、【夜王の瑠璃冠】に進化させ。






 でも、あの、待って!

 いまさら、止められな――――――――――















「超変身――【ウルトラ・ミラクル・トランス・ファクト】♪」














 ――――――――――あハ♪





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