表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
512/523

そのじゅうに

――12――




『ほし』

『ひかり』

『かがやき』



『なんだろう』

『ふしぎだな』

『まえからしっているみたい』



『ちからづよいめ』

『ゆうきをうむこえ』

『やさしくあたたかいて』

『そんなの、しらないはずなのに』



『もっとみたい』

『もっとほしい』

『もっとちかくで』



『おおかみ』

『ほこりたかきおおかみのおう』



『しのぶもの』

『つめたくやさしいかげなるやいば』



『ぎんゆうしじん』

『きぼうをつむぐゆうきのうた』



『ほのおのみこ』

『きずなとあいをうたうかくめいしゃ』



『もっととおく』



『めがみさま?』

『やさしくておおきくてきれいな、るりのほし』



『ほしはとおいけれど、ほかのきらきらは、ちかい』

『だったらおはなし、してみたいな』

『なにもないわたしだけど』

『なにもできないけれど』

『ほんの、すこしでいい』



『だから』

『どうか』



『きて』




















――/――




「へんな夢を見た気がする」



 瞼の裏を焼き付ける陽光で目を覚ますと、さっきまで見ていた夢を忘れてしまっていた。


「へ、へんな夢? ゆ、夢、まさかこの非常事態に、よ、夜這いを?」

「ししししししてない!! そりゃ、近いなー、柔らかいなー、温かいなー、どきどきするなーとは思ったけれど、一つも実行に移してないから!!」

「や、柔らかいってなんでわかったの? そ、それってやっぱり」

「隣だからよ!? 狭いテントなんだから仕方ないじゃない私の理性を褒めて欲しいくらいだわ!!?」

「夜這い??? 静音、夢が夜這いとはどういうことだ? 這うのか?」

「……ええーと、ううーんと、ご、ごめん、夢に聴いて?」

「うむ。で、夢? 夜這いとは?」

「し、しりません」

「???????」


 寝ぼけ眼を擦りながら体を起こすと、なぜだかみんなたいそう騒がしそうにしていた。寝起きから元気だなぁ。朝は弱い方じゃなかったと思ってたんだけど、どうも寝過ぎたみたいだ。まだ少しだけぼおっとする。

 いそいそとテントを抜け出して、朝日を眺める。水平線の向こう、島にかかるように上がる西日。立地で言えば、この方向にハワイがあるそうだ。つまり、師匠もこの朝日を見ているのかな? だったら、少し嬉しい。


「うぅ、ひどいめにあったわ」

「ご、ごめんね夢。……で、ほ、本当のところはその、どうだった?」

「意外とむっつりよね、静音」

「!」

「ついていけない……寂しい……」


 どこか疲れた顔で出てくるみんなの様子に、首を傾げる。

 昨日の疲れが取れていないっていう感じでもないのだけれど、なんだろう? 情報が少なすぎてよくわからない。まぁ、いいか???


「鈴理、鈴理、二人は忙しいみたいだから魚を取りに行こう」

「うん、アリスちゃん」


 アリスちゃんと並んで、朝ご飯の確保に向かう。魔導術式で網を構築すれば、それなりに取れるかも?

















 朝食を終えると、いよいよ、海を渡る手段についての話となった。けれど、これもけっこうあっさり終わる。外敵の排除さえなんとかできるのなら、これだけの術者が揃っているんだ。いかだを作って、枝葉なんかでカモフラージュして、こっそりと、けれど手早く海を渡る。そのために必要なのが、わたしの魔導術式と、アリスちゃんの異能だ。


「私の異能は“炎嵐(フレイム・ストーム)”。炎と風を操る。独立したものではなくて、融合。ただ、音が大きいことがあるから気をつけて」

「あ、なら【速攻術式セット静音サイレント展開イグニッション】これで派手でも大丈夫だよ。わたしたちには聞こえるけど、外部には漏れないから」

「ありがとう」


 つまり、熱を持った風を操る、ということだろう。それなら、エンジンという意味ではこのうえない効果を生み出すはずだ。

 ということで、静音ちゃんがさくっと筏用の丸太を切り出して、それを夢ちゃんが固定&カモフラージュ。そこに乗り込んで、わたしが制御陣を展開する。


「【速攻術式セット方位制御展開陣(アクセラレータバレル)展開イグニッション】」

「みんな、準備は良い?」

「ええ」

「だ、だいじょうぶ」

「もちろん! お願い、アリスちゃん!」


 アリスちゃんはわたしたちの顔を見回すと、大きく頷いて、制御陣に手を翳した。

 こう、ちょっと早めのヨットくらいの速度は出そうだ。即席の手すりを握りしめて、その時を待つ。


「飛ばすよ。“破炎波及(イグニート・ブレス)”」


 わたしの展開陣に打ち込むように、アリスちゃんが異能を放つ。

 あれ? なんだか意外と強い光が溢れて……って、これ!?


「な」

「ひゃ」

「へ」


 ――瞬間、わたしたちは、風になった。



「「「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!!」」」



 筏が浮かび、着水、浮遊、着水、浮遊、着水、浮遊……。

 ひょっとしなくても水切りをしながら、高速で過ぎ去る風景に思いを寄せる。色々あったなぁ。今までこんな遭難、何度だってしてきた。でも、みんなが揃っていないのはちょっと寂しいかも。ふふ、師匠の笑顔が空の向こうで――って走馬燈だこれ!?


「着地、アリスゥゥゥ、着地はどうする気?!」

「任せて夢。“火打踏破(フレイム・スタンプ)”」


 待って待って待って、嫌な予感がする!

 高速で岩肌にぶつかろうとする筏。水面に手を翳す冷静なアリスちゃん。

 船酔いとか諸々とか、よくわからないもので真っ青の夢ちゃん。

 全てを諦めた表情で霊力を身体強化に回す静音ちゃん。


 

そして。



「爆ぜろ」



 爆発。

 飛翔。



「「「うぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!!」」」



 筏は空中分解しながら燃え尽き、わたしたちは無残にも空に投げ出される。そんなわたしたちをひょいひょいとひっつかんだ静音ちゃんは、軽快な所作で綺麗に着地した。


「こんなことになるんだったら夜這いしておけば良かった」

「は、はは、は。夢ちゃん夢ちゃん、とんでもないこと口走ってるよ?」

「生きてて良かった、い、生きてて良かった」

「予想よりも派手になってしまった。びっくり」


 びっくりじゃないよ、もう……。

 でも、これでとにかく着地できた。想像よりもずっと早く到着することになったのだし、結果オーライかな。でもまぁ、二度と御免だけれどね……?


「消音、かけてなかったら大惨事だったね、夢ちゃん。着地ありがとう、静音ちゃん」

「あんたの判断に助けられたわ……。あと、結果は最良ね。やり方はアレだったけど、アリスもありがとう」

「わ、私はお礼を言われるようなことじゃないよ。す、鈴理も、夢も、アリスもすごかった」

「……なんだかこういうの、少し照れる。どういたしまして。次から着地も考える」

「それは、ぜひ」


 思わずそういってしまったわたしに、夢ちゃんと静音ちゃんは「うんうん」と深く頷いていた。しぬかと思ったからね……本当に……。

 それはそうと、せっかく島に到着したのだから、これから先も隠密行動だ。まずは魔天兵が着陸した場所に向かってみるために、森に入って進んでいく。ペンション跡とかもあるし、けっこう栄えていたんだろうなぁ。どれも戦争の傷跡だらけで、心の奥がぎゅっと締め付けられる。元の世界に戻ったら、ちゃんと旅行をしてみたい。入国審査の魔法少女検定も、わたしたちなら一級取れるだろうし。


「ストップ、みんな。見て」


 夢ちゃんに言われて見上げると、そこには蔦で覆われた遺跡のような施設。所々から見える灯りは正常に見えて、覆われた蔦が森に隠すためのカモフラージュだと教えてくれた。

 大きさは、二階建てのビル程度。周囲の木々に埋もれてしまう程度の高さで、形はたぶん正方形。


「鈴理、調べられる?」

「やってみる。【速攻術式セット窮理展開陣ハイアナライズバレル展開イグニッション】」


 解析魔導術式を展開。スキャンを試みるも、うまく情報を引き出すことが出来ない。入口は天井部分。見えている場所にある地上部分の入口は全てトラップ。おそらくは地下に続く形の施設。地下から先は見えづらくなっているけれど、たぶんこれ、魔導術式への造詣は浅いみたいだ。魔力による探知を察知は出来ないみたい。


「――こんなところかな」

「鈴理はすごい。そんなことまでできるんだ」

「えへへ、ありがとう、アリスちゃん。でも正直、こんなに色々出来るようになったのって最近なんだよね」


 あの日――久遠店長たちと協力して師匠を昔の姿に戻してから、魔導術への理解がぐっと深まった。当然、もう一つの方もそうなのだけれど、日常の便利さがとにかく上がったのが魔導術だ。

 もっとも、師匠みたいに初見で術式刻印レリーフィングを改良するようなことは出来ないんだけれどね? というか、わたしにはまだ書けもしないよ……。


「よし、じゃあ鈴理はそのまま探知お願い。静音とアリスは鈴理の護衛。私はちょっと調べてくるわ」


 夢ちゃんはそういうと、軽快に跳躍して天井に登っていく。あれたぶん、靴に仕込んだ刻印鋼板レリーフィング・プレートの効果なんだろうなぁ。魔導術がまだよく解っていないアリスちゃんだから感心しているだけだけれど、普通の魔導術師が見たらきょとんとすると思う。

 天井でさっとなにかを確認した夢ちゃんは、軽快に降りてきてわたしたちの前に立つ。なにかわかった、というよりは、思い切ったような表情だ。


「入口らしきところはあるけど、開け方はサッパリね。こじ開けて直ぐ侵入することも考慮して、まずは登ってみましょうか」

「りょーかい。じゃ、みんな、行こう?」

「す、鈴理とアリスは、わ、私が抱えるね」

「ん。よろしく」


 と、ほんとうに米俵みたいに抱えられてばびゅんっと跳躍。なんだろう。アリスちゃんのジェットコースターを体験したあとだと、ぜんぜん怖くない。

 天井部分もやっぱり蔦に覆われていて、中央には切れ込みのようなモノ。ボタンの類いはなく、凹凸もほとんどない。夢ちゃんがお手上げだというのにも納得だ。


「どう見る?」

「大きなコンテナが来てたよね? 体重制限とか?」

「わ、私たち四人であのコンテナ一つ分は、む、無理があるよ、鈴理」

「でも、とりあえず乗ってみる?」


 アリスちゃんに促されて、切れ込みに乗る。するとどうだろう。切れ込みのあった部分が“消滅”して、わたしたちは透明な台座に乗せられ、ゆっくりと降下していった。

 ……上手くいきすぎて、頭が着いてこない。なんでこうなったの? そう考えてみると、なんでわたしたちは――今、急いで侵入しようとしたのだろう? 開け方がわからないのなら、次の魔天兵を待つかどうか考えると思う。アリスちゃんは敵の重要拠点だろうからどうにかしておきたいのかも知れないけれど、わたしたちの優先事項はハワイだったはず。優先順位にそぐわないのならそう提案する夢ちゃんがなにも言わないのも妙だ。そうなるとこれは思考誘導? いや、ひょっとしたら事象の――




「あー……鈴理、最近ちょっと丸くなったよね」

「なるほど、体重か」 

「夢ちゃんひどくない?! そんなことないからね!」

「ふ、二人とも、デリカシーがないよ……鈴理はこれくらいがちょうど良いのに」

「静音ちゃん……?」




 もう!

 あ、あれ、なにか今、たどり着きそうだったのに!





2024/02/09

誤字修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ