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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す
500/523

その――




――after――




 ――香嶋杏香



 杏香は関西特専大学部へ進学。卒業後、省庁勤めとなる。

 特専に通う弟妹たちのために仕送りをする家族想いな一面があるものの、その仕事ぶりは鬼だとか悪魔だとか鬼亀だとか言われる鉄の官僚であった。

 婚期を逃すと陰口をたたかれても何処吹く風。なんら堪えた様子もなく、むしろ正論で言いくるめられて最終的に丸め込まれるという始末。容赦ないやり口とクールビューティな容姿から、影のファンも多いのだとか。

 けれど彼女が他人に嫌われずに、むしろ親しまれているのは、頼りがいのある一面とギャップのある、飲み会での惚気話にあった。


「もう、ほんとうに素敵で素敵で。私はあの人にだったら、なにをされてもいいわ」


 その蕩けた表情に、ノックダウンする人間は、異性同性含めてあとをたたない。


(ああ、お姉様に会いたい)


 そのもっと内面の性癖は、相変わらずのようであったが、本人は充実した毎日を送っていた。























 ――麻生あそう葵美あみ



 かつての魔導科学者であった父の研究を引き継ぎ、特専を退社。科学者として日夜、父のように人のためになる研究を行っている。

 その傍ら、恵まれない分野の科学者たちに日の目が当たる様に講演会の段取りを組んだり、可愛らしいホームページでわかりやすい研究分野の解説を載せたり、自分のような親が理解されずに苦しんだ子供を出さない様に、尽力しているようであった。


「はい、はい、はい」

『――』


 そんな彼女は、毎週一回、必ずどこかへ電話を掛けることであった。

 そのどこかがどこであるのか、知るのは、彼女の親しい人間だけだ。


「いえ、そんな。いつもありがとうございます」

『――』

「ええ。その日は、講演をお願いします」

『――』

「そんな。いつもありがとうございます、先生(・・)


 努力家な彼女。

 その陰には、いつも彼女を支えてくれる恩師の姿があったり、だとか。


























 ――瀬戸亮治



 第二次魔法少女大戦の後、教頭に抜擢。

 順当に試験もクリアーし、その後、副校長、校長と出世街道を駆け抜ける。彼の生徒に似た様な人間が多いように、彼自身もまさしく鉄面皮の冷酷人間。一分の隙もない有能教師であった。

 だが、優秀さの中に以前よりも優しさが見える様になると、人気が上がり、校長となった彼のハートを射止めようとする女性も多い。だが、聖職に身を捧げているのか、その手の誘いに乗ったことは一度も無かった。


「亮治、逢いに行かなくて良いのか?」

「定期的に行っている。ああ、それと平教員の陸奥先生は、言葉遣いに気をつける様に」

「はぁっ?! ちょっ、おまっ、ええっ」


 陸奥国臣、高原一巳、新藤有香、川端新介学年主任。

 定年退職した江沼耕造重光教員の穴を埋める様に、日々、少々騒がしくも関東特専を支えていた。





























 ――虚堂静間



 当初は禁錮千三百年とされた重犯罪者である静間も、第二次魔法少女大戦の活躍により千年ほど懲役が削られ、今もなお、様々な分野での“協力”と、罪を犯したとは言えオリジンの洗脳あとが情状酌量に当たるため、順調に懲役を減らしているようだ。

 けれど本人は以外と重犯罪者隔離施設での生活を気に入っており、今日も傍らに黒髪の美少女を侍らせて、珈琲を口にする毎日だった。


「お父様、次はこの分野なんていかがでしょうか?」

「ああ、そうだね、瑠琉るる。では早速、彼女に電話をしよう」

「直接、支援なさらないので?」

「私はあの子にとって、父の仇だ。こうして彼女が間に立ってくれているうちは、甘えさせて貰うよ」


 そう、目を伏せながら、静間は告げる。

 そんな彼の最愛の娘は、ただ慰めるように、丁寧に新しい珈琲を淹れていた。


























 ――有栖川昭久



 一気に世界トップクラスの権力者にまで昇り詰めたが、彼にとっては“扱える力が増えてラッキー”程度のことでしかないのだろう。

 今日も今日とて、日常風景は変わらない。白亜の城の頂上で、愛しい妻と娘のために己の能力を駆使するだけだ。


「旦那様、あまりご無理はなさらないでくださいね?」

「ははは、もちろんだとも! 君にもリュシーにも先生にも、心配をかけてしまうからね」


 よれよれの白衣とぼさぼさの髪。

 つぎはぎだらけの顔を緩めながら、今日も今日とて開発三昧。

 また新しいネタが思い浮かんだのか、昭久はドライバー片手に研究室へと消えていった。




























 ――イルレア・ロードレイス



 国連の所属から協会の所属へ正式に切り替えると、世界各地の戦災孤児を助けながら妖魔と戦う日々を過ごしている。少しでも多くの子供を助けて、みんなが笑っていられる世界にすることが、彼女の目的の近道なのだとか。


「いつまでも無茶をして、いつまでも戦ってしまいそうだもの。いっそ芽を摘む方が安心よ」


 そんな彼女は毎日欠かさず花を買い、どこかに送っているそうだ。

 本当は足で運びたいのだけれど。そう告げる彼女の横顔に、惹かれない人間はいないのだとか。


「――ごめんなさい。貴女の気持ちはとても嬉しいけれど、私には心から思いを寄せるひとがいるの」


 もっとも、いつもそうやって、愛しげな笑みで断られてしまうから、誰もが“花を贈られるひと”に憧れながら、撃沈していくらしいのだが。
































 ――レイル・ロードレイス



 教育者として目覚め、その人生を教師に捧げることを選んだレイル。

 彼は今日も今日とて教壇に立ち、教鞭を執って生徒たちを導いている。


「つまり、ココは次の公式が当てはめラレルから」


 彼の職場は、NPO法人の団体だ。

 教師に恵まれない学校に赴いて、生徒たちに教鞭を執る臨時教師。そうやって、世界を巡っている。


「ボクにも、憧れのセンセイがいるのサ」


 そう、穏やかに微笑む彼は、以前よりも逞しくなった体躯を生かして今日も未踏の土を踏む。

 どこかに教えが必要な人間が居るのなら、それは等しく彼の生徒だ。そう、笑う彼の後ろには、いつしか志を同じくする人間が集まっていた。


「サァ、次の戦場(学校)に行こう」

『はい! レイル先生!』


 今はまだ、憧れに追いついたとは言えない。

 レイルはそう、愛しい女性を思い浮かべながら、教材入りのバックを背負って歩き出した。

































 ――フィリップ・マクレガー・オズワルド



 魔法少女の天使として名を上げることになった彼は、彼自身も予想にしない方向に転がることになる。社長職を続けたまま、パトロンとして芸能活動のバックアップ。

 今や知らない人は居ない、人気絶頂のグループ“魔法エンジェル”。その所属メンバー、カタリナ、ミランダ、ガブリエーラという妹と兼業女優と大先輩を支える仕事に多忙を極め、中々愛しの人に逢いに行けないのだという。


「ふぅ、忙しすぎてMeetすることもImpossibleなんて想定外だね……」

「大変そうだね、父さん。あ、そろそろ静音の仕事が終わる頃だ。じゃ、またね」

「エスト……Youは気軽に会いに行けて羨ましいよ……」

「はは……簡単に口説かせてはくれないのだけれど……逢いににはいけるからね」


 イケメンモデル体型に成長とした愛息子が毎日強かになっていくことに、今日も頭を抱えて唸るフィリップであった。






























 ――ファリーメア・アンセ・エルドラド



 時子と肩を並べて戦った実績から、彼女は魔王に騙されていたが魔法少女によって改心した正義の味方、という謎の設定が付随していた。

 だが本人はそれらの評価や肩書きを一切気にすること無く、今日も子供たちの悲鳴に駆けつけている。


「そこまでよ。悪は、私が許さない」


 一切無い抑揚と表情が、逆に良い。

 そんな風に影ながら人気を集めているとも知らず、メアは今日も、子供たちを助けていた。





























 ――フィフィリア・エルファシア・フォン・ドンナー



 正式に父の跡を継ぎドンナー家の当主になると、借金を見事に完遂。かねてより目標だった、名家の威信を取り戻した。

 それから、海外諸国の仲の悪い名家のまとめ役となれる様に、今日も邁進している。その理由をぜひに、と、尋ねるとたいていははぐらかされるのだが、一度だけ、こんな風に答えたこともあった。


「親友たちが生きやすい世界を作る。それだけだ」


 そう、雑誌インタビューで答えたときの彼女の顔は、厳格で公正な名家当主という仮面の下に隠された。優しく情に篤い素顔が垣間見えたのだとか。































 ――水守静音



 特専卒業後は、黄地の館に在住。

 見事難関をくぐり抜け、現在は特課の職員として、先輩たちに厳しくも期待を受けながら、日夜犯罪捜査に尽力していた。


「え、エルルーナさん、どうしましょう」

「む? どうする? 凛」

「私に聞く前に自分で考えてみなさい、エル」


 いつの間にか、一番昇進していた四階堂凛。

 いつの間にか、コンビを組まされていたエルルーナ・浦河。

 いつの間にか、そんな二人とトリオになっていた静音は、おろおろと肩を竦ませる。


「ひぅ、ご、ごめんなさい、そうですよね、私も自分で……」

「ああ、ごめんなさい、静音さん、あなたに言ったんじゃないの」


 一つ年下の静音に最愛の妹と妹分を重ねて、ついつい優しくなってしまう凛。

 そんな凛をからかうことにはまったく手を抜かない、エルルーナ。誰に主導権があるのかわからない凸凹トリオだが、実のところ、ハッキリしている部分もあった。


「まったく、凛はきついな。気にしなくて良いぞ、静音」

「あなたは気にしなさい、エル」


 任務中にいがみ合う二人に、静音はどう仲裁して良いか解らずうろたえる。

 けれど、ふと、なにかに気がついて前に出た。


「あわわわ……あ、ちょっとごめんなさい。斬り断て、ゼノ!」

『応』

「妖魔如きが、抗えると思うな」


 かつての仲間たちの中で、一番成長した体躯。

 長い髪を揺らしながら、どちらかといえば可愛い系の美少女は、影に隠れて襲いかかってきた猛禽類型の妖魔を一刀の下、切り捨てた。

 めきめきと上がっていった実力は、かの英雄を退けたこともあるらしい。そんな噂が真実味を帯びるほどの圧倒的な実力者に成長した静音は、危機が去ったと見るや、ほにゃりと表情を崩した。


「…………(話しかけないの? エル。ほら、異能の亡霊を被って)」

「…………(いや待て、切り捨てさせようとするな。おいやめろ!)」


 ――稀に、現場から、後見人である黄地に育て方を問う電話が入る。

 その度に、黄地では“さすが、黄金の世代”と、妙な納得をしているらしい。
























 ――アリュシカ・有栖川・エンフォミア



 雄叫びを上げながら襲いかかる妖魔。

 闇を纏ったヒグマ型のそれに、アリュシカは剣を叩きつけて軌道を反らす。


「【起動ライズ】」


 鮮やかに輝く銃と、シンプルだがまっすぐで癖の無い剣。

 アリュシカは未来を読み取りながら、ヒグマの猛攻を踊る様に避けて、一撃一撃を確実にたたき込んでいた。


「君たちに、私たちの未来は渡さない」


 すらりと伸びた背。

 整った顔立ちと結い上げられたプラチナブロンド。

 オッドアイを惜しげも無く晒しながら、男装の麗人は妖魔を見据える。


「だから君は、ここで潰えろ」

『グォォォォォッ!!』

「【斬撃スラッシュ】!」

『グガァァァッ?!』


 巨体を地に沈ませて、そのまま消えていく妖魔。

 周囲から零れるため息は、男女問わず、彼女に見惚れたものたちの吐息だ。


「さ、今の攻防でわからないところはあったかな?」


 爽やかに微笑み、後方に待機していた学生たちに問う。

 ――関東特専大学部所属、対妖魔訓練教官、有栖川職員。それが、今のアリュシカの肩書きだった。

 今、彼女は夢の最中に居る。かつて夢見た、友と過ごし、生き抜いていく世界だ。今はその過程であり、これからは、妖魔に苦しめられる誰かを導く未来を掴んだ。

 彼女の天眼に映るのは、どんな未来なのか。答えはきっと、穏やかに微笑む彼女だけのものなのだろう。























 ――碓氷夢



 母親が国連所属から協会所属に変わると、夢もまた協会所属となった。

 闇から闇へ、影から影へ。一流の忍者として成長した彼女を止められる組織など無く、後ろめたい人間はみな、震えながら過ごしているらしい。

 今日も今日とて重要施設に潜り込み、まんまと情報をせしめた帰り道。見知った気配に出てきてみれば、夢を見て嫌そうため息を吐く小柄な女性。いつの間にかかつての生徒会メンバー、六葉と心一郎を誘って探偵事務所を開いていた、影都刹那であった。


「ブッキングとか趣味悪い」

「趣味の問題にするあたり、性根が腐ってるわね」

「腐っているのなら癒やして貰わないと」

「あっ、こら、待ちなさい! 先生は渡さないわよ!!」


 こんな風に、情報収集の最中で、同業者にかち合ってしまうこともしばしば。面倒であってもきっちり対処して、場合によっては親友の一人の努める特課に突き出すことも、彼女の職務の一環だ。

 そうした中でいつも、もぎ取った勝利を“本命の女性”にこっそりと教えているのだとか。


「あ、鈴理? ええ、そう、刹那。なに? もちろん勝ったわよ。ところで、次なんだけど――」


 楽しげに会話を弾ませて、さりげなくアポもとっていく。

 快活に笑顔を浮かべる表情の中、燃え上がる瞳に宿るのは、まさしく、恋する乙女のものだった。



























 ――ひさぎ仙衛門



 英雄を引退した彼は、今も山奥に引き籠もって悠々自適なご隠居ライフを満喫している。

 ――当初の人生設計ではそうであったが、最早、楽をすることは許されないらしい。あの戦いで一度は本当に息を引き取り、直後に間に合った蘇生術式のおかげで、数分後には白い花に囲まれて息を吹き返した仙衛門は、その後、協会の重要ポストに招かれ断る暇も無く、働くことになった。


「まったく、老骨に鞭を打ちよって」

「師匠、そんなこと行ってないで行きますよ」

「のう、芹、そこで休憩して如何か」

「そんなこと言っても、だめですからね」


 端正な青年に成長した己の弟子に背を押されながら、名残惜しそうに団子屋を後にする。

 色んなコトが吹っ切れて、肩の力が抜けた師匠と弟子は、今日も二人で行客三昧。仙衛門は不満そうにしながらも、決して拒むことは無く。


「これもまた、粋も酸いよなぁ」


 どこか楽しげに聞こえる声色で呟いて、この道中を楽しみにしている己の童心に、あきれかえって見せるのであった。
























 ――九條獅堂



 あの大戦からまたファンが増え、平和になったと思えば、今度は以前のミランダ・城崎の一件から端を発する映画撮影の依頼まで舞い込む様に成り、気がつけば誰よりも忙しくなっていた。

 これもどれも、最愛の人に飲み会の席で「獅堂の俳優姿は見てみたい」などと言われて調子に乗った己が悪いのだが、獅堂はそれでも稼げるだけ稼いだら放り出してしまおうとも思っていた。


「獅堂、次のスケジュール。はい」

「仕事が雑だ、マネージャー。やり直し」

「仕事は確実。ほら」

「……ぬぅ」


 かつての第一次悪魔侵攻大戦の折り、死に別れていたとばかり思い込んでいた妹。

 それを妙に仲が良さそうにしながら連れ帰ってきた最愛の人の姿を思い出しつつ、獅堂はこの生意気な妹にため息を吐く。


「言葉遣いくらい直せ、妹よ」

「兄妹なのに? あのひとに、獅堂はみみっちいと教えないと」

「わー、ばかやめろ!」


 赤みがかった金髪は、片親が違う証だ。

 それでもどこか似ているのは、整った顔立ちのせいか、“最愛の人”が同じなせいかは、獅堂は深く考えないことにしている。


「獅堂、早く行く」

「せめて兄と呼べ――アリス」


 けれど、まぁ、と獅堂は苦笑する。

 とうに失ったとばかり思っていた家族との再会に、どこかこそばゆい気持ちを抱きながらも、随分と丸くなった自分自身に。































 ――鏡七



 妖魔によって侵された地は、当分の間は穢れが残る。

 それは、浄化に特課した異能か優秀な魔導術師でないと解消できないものなのだが、精霊である七にとっては難しいことでは無い。


「【魔を祓え(エクソルキズモス)】」


 手を翳し、光が溢れ、穢された大地が浄化される。

 すると、周囲に隠れていた野生動物たちが、安心したかのように彼の元に集まった。


「さ、要領はわかったかな?」

「はい……なんとか」


 そんな彼が所属するのは、妖魔による穢れの対処を中心とした、自然保護団体の一部だ。七はいつも身軽さを望み、最低限の人数で動く。

 今回もまたそうであり、付き添いは一人だけ。この道を志して入隊し、付き従う生徒。七は己の最愛と接した人間に教えを与える数奇な運命に、苦笑しながらも受け入れていた。


「“幻想書架(ザ・ファンタジスタ)”――お願い、妖精よ」


 だから彼も、決して手は抜かない。

 英雄と常に二人きりにされてカチコチに緊張する生徒の慣れない仕草に、少しだけ笑みを零しながら、彼女の肩の力をどうやって抜くべきか思案するのであった。































 ――東雲拓斗



 ――どこかの世界。



 誰かの悲鳴が届くとき、銀の炎が現れる。

 鋼鉄の腕を振りながら、巨悪を打倒する伝説の戦士。

 彼は、今日もどこかで、世界を救っているのだ。



「……で、なんだ? このムービー」

「お兄ちゃんの格好良さをアピールするには、これしかないと思ったの」


 もちろん、ここはいつもの地球だ。

 あの日、妹分で思いを寄せる彼女が救った地だ。

 正真正銘の妹は、見た目ばかりは淑やかな美女に育ったが、どうにも中身は天然だ。素直、というのが正しいのかも知れない。


「でも、いつまで経ってもお姉さんはお姉ちゃんにならないから、きっと巧く伝わっていないのかなって」

「いや、伝われば十割成功するとかそういったものでもないからな?」


 どうにもブラコンが過ぎる妹は、兄ことを過大評価している。

 照れくさいような小っ恥ずかしい様な感情を、拓斗はどうにか押しとどめるので精一杯だった。


「でも、お兄ちゃんは唯一、お姉さんにいつでも逢えるんだよ?」

「職場は同じだが、部署が違いすぎて滅多に逢えないよ、春花」

「それならなおさら、こうやって魅力を伝えないと!」

「やめてくれ。恥ずかしい」


 拓斗はそう、顔を押さえて唸る。

 確かに職場が同じなのはアドバンテージだが、こんなものを作って見せたら恥ずかしさしかないだろう。拓斗は、肩をすくめて春花の提案を撥ね除けた。


「良いと思うのだけれど、なぁ」


 そう、不満そうな春花に苦笑する拓斗は、ため息だけは堪えて立ち上がる。

 そうは言っても、今や彼女には、近づくことすら難しいのだから。


「それよりも、そろそろバイトの時間だろ? 良いのか?」

「あっ、そうだった。風子先輩怖いから、急がないと」

「おう。忘れ物は無いか?」

「うん! 行ってきます、お兄ちゃん!」


 今年で大学生の妹は、誰に似たのかおっちょこちょいだ。

 SkyCrownというカフェ&バーで働く彼女の先輩は、妹分の生徒ばかり。

 安心と、変なことを吹き込まれてはいないかという一抹の不安を押し殺して、拓斗は今日もこの平和を謳歌するのであった。




































 ――黄地時子



 第二次魔法少女大戦責任をとって、引退。

 その後、協会にポストが用意されたが、時子は“古い世代は後発に席を譲る”と明言してその座を辞退。結果的にか狙ってか、反乱寸前のクレームにより国連からの和解申し入れが、あちら側が随分と不利な条件で提示され、時子は協会のご意見番というポストにつくことになった。

 退魔七大家のご意見番より仕事が減り、誰よりも日々を謳歌する時子。そんな時子の傍らには、彼女に思いを寄せる美男子が、決して彼女の幼いままの容姿にこだわること無く愛を囁き続けていた。


「結局、我が姫は姫ではなくなってしまった。やはり、俺にはおまえしかいないようだ」

「あ、間に合っているわ」

「そう、つれないことを言うな。俺の魔法少女はもう、天に還ってしまったのだから」

「あなたも還ったらどうかしら? ほら、土に」

「床下に居て欲しいのなら、そういえば良かっただろう? 素直では無いな」

「やめなさい! あ、こら! クロック!」


 噂と事実の間には、おそらく大きな隔たりがあるのだろうけれど、それを当人たちは気にしない。

 片方は本当に気にした様子が無く、もう片方は気にする余裕が無いだけなのかもしれないが。


「はぁ、私の隠居ライフがどうしてこんなことに? やっぱり、私も籠もっていないで、みんなみたいに外に出ようかしら」

「デートか? 荷物持ちくらいはするぞ?」

「はいはい。デートでは無いけれど、お願いするわ」


 時子はそう、ため息と共に立ち上がる。

 京都の奥地に家をたてたはいいが、直ぐに埃を被ることになりそうだ。そんな風に、肩を落としながら。



































 ――笠宮鈴理



 特専卒業後、鈴理はそのまま大学部に進学。

 憧れの師匠のように、人を救える教師になることを夢見て教員課程に進む。当然の様に関東特専に就職が決まると、鈴理は恩師が就職祝いにくれた髪飾りで髪を結い上げると、当時からほとんど変わらなかった体形を気にしつつ、今日も元気に教師業だ。


「笠宮先生」

「あっ、瀬戸校長先生。おはようございます!」

「ええ、おはようございます。ところで遠征競技戦の書類なのですが……」

「ぁ」


 額に青筋を浮かべる瀬戸に、顔を引きつらせる鈴理。

 互いに立場は変わったはずなのに、むしろ生徒であったときよりも怒られる機会が増えた、とは、鈴理の談だ。

 もっとも、彼女の師匠が瀬戸と良く見せていた光景と似ている、と言われたら、そうでもあるのだが。


「笠宮先生には、もっと自覚を持っていただきたい。――師匠に、追いつくのでしょう?」

「っはい! ありがとうございました!」

「まっすぐであるのがあなたの長所です。あまり、川端学年主任の手を患わせない様に」

「は、はい!」


 期待が、重くないと言えば嘘になる。

 けれど鈴理はそれ以上に、今、毎日が勉強という日々が楽しくて仕方がなかった。

 誰よりも、師匠に憧れた彼女だからこそ、なのかもしれないが。


「――師匠も、今頃、こうして空を見上げているのかな」


 窓から覗く空は、心地よいほどの晴天だ。

 もしかしたら、同じように空を見上げているのかも知れない。そう思うだけで、不思議と、彼女の心は大きく弾んだ。

 同時に、同じ空を見上げていて欲しい。そんな風にも、思いながら。







































 ――観司未知



 世界特殊職務機構管理協会。

 通称“協会”が、今年から新しく始めたプロジェクトがある。それが、魔導術師や異能者を次のステップに進めるための、専門学校だ。

 高等部卒業を最低条件にした最上級学校。そこでは、より専門的な異能の探求と、より高度な魔導術の開発が進められている。

 とくに、魔導術については、これまでは机上の空論であった三つの術式、“速攻術式”と“図形術式”と“重装術式”の三つのうちどれか一つを卒業までに習得することを目標としていて、全世界から生徒が集まる人気の講義だ。


「次の講義は?」

「セントラルよ、未知」


 膨大なスケジュールと、膨大な受講者。

 それに対応するために、各地に足を運びつつ、入りきらない生徒は特殊モニター越しの授業になる。実演で見られる権利を一箇所に集めないために、執り行われていることだ。

 なにせ、三つの術式を十全に扱え、なおかつ教えられる様な人間は、未だ世界で一人しか居ないのだから。


「間に合うかな」

「あら、いざとなったら運ぶわよ?」

「悪いわ」

「では、ポチにやらせましょう」

『わふ?』


 そのため、管理のために人材が使わされることになったのだが、困ったのはその人材だ。

 当初は有栖川博士夫人、ベネディクトが担当するという話しも上がっていたが、有栖川博士に申し訳ないとして、却下になる。

 そこで、彼女自身の使い魔と、さらに彼女の家族を採用することによって負担を減らすことに成功した。それが、新世代の英雄にして悪魔によって幽閉されていたところを助けられた、悲劇のヒロイン――リリー・メラ・観司であった。


「……ん、転移術式の使用許可が下りたみたい」

「そう? なら、私は運んでくださるのかしら?」

「ええ、もちろん。さ、リリー、捕まって」

「ふふ、悪くない気分ね」


 リリーを抱きしめて、転移する。

 唯一の最高クラスの魔導術師にして、新世代の英雄の一人として数えられた女性――観司未知は、次の講義堂へと四つ目の魔導術、“無詠唱術式”により転移を果たした。

 履修科目に数えられない、正真正銘、彼女だけの技。“神候補”という立場だからこそ行える、言葉にせずとも世界の法則を操ることが出来る神秘の術。さすがに、何故使用できるかを公開できないものであった。


「では、私はポチと外で待っているわ」

『ボス、また後ほど会おうぞ』

「ふふ、ええ、またあとで」


 講義堂の大きな扉を開けると、数え切れない生徒たちが、期待と好奇と意欲に溢れた目で未知を見る。誰もが、新しい知啓を求め、叡智を得ようと志す学徒たちだ。

 未知は、そんな彼らに恥じぬ様に、背筋を伸ばして、まっすぐと前を見た。


「――お待たせしました。それでは、本日の講義を始めます」


 一度死に、与えられた二度目の生。

 様々な苦難を乗り越えて迎えたエンディングの、さらにそのあとの物語。

 未知は、それでもなおひた隠す己の正体に複雑な気持ちを抱きながらも、一身に向けられる期待に応えようと、教鞭を執る。







 さぁ、今日も、夢見た未来の続きを歩もう。

 後に続く子供たちの、そのまた更に未来のエンディングが、幸福に満ちているように。





 そう、願って。

























――The Mahou Shoujo Covers Up Her True Identity After the Ending――















――To Be Continued……?――

2018/01/03

2024/02/09

誤字修正しました。

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