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えぴろーぐ

――エピローグ――




 すっかり、見晴らしが良くなってしまった。

 そう、私はぼろぼろになった特専校舎を見上げて、肩を落とす。


「未知、そんなところでなにを黄昏れてんだ」

「獅堂……。いえ、思っていたよりも被害が大きくて」

「はぁ? おまえとガブリエーラの謎術式のおかげで死人どころかけが人ゼロだぞ」


 あの、全てに決着をつけた戦いから一週間。

 未だ、各地には戦いの爪痕が残り、とくに避難場所であった特専のほとんどは無残な姿になってしまった。まぁもっとも、自分たちも多大な被害を受けたはずのアメリカが、“魔法少女の生まれ故郷イズディスティニー”と言って救援に駆けつけてくれたりと、幸い、物資に困る様な事態にはなっていないのだけれど。



 なんだろうね。魔法少女聖教って……?



「誇れよ、未知。全部、おまえが守ったモンだ」

「獅堂……。いいえ、私だけの力では無いわ。みんながくれた、みんなの力よ」


 あのとき、みんなの声が流れ込んでなければどうなったかわからない。

 魔法少女を求める絆の力が、私の後押しをしてくれた。だから、私はあれに打ち勝つことが出来たのだ。


「未知。俺はおまえのその謙虚なところも好きだがな?」

「な、なに? 急に」


 私の頬に手を当て、無駄に整った顔を近づける獅堂。

 あの声を聞いてから、なんだかみんなが近くに感じてしまい、こう、無駄にどきどきするから辞めて欲しいのだけれど。

 そう、身を捩っても、退いてはくれなくて。


「――もっと、我が儘になってくれよ、俺の未知」

「っ、獅、堂」


 近づく、唇が。


「はい、そこまで」


 聞き慣れた声に、閉ざされた。


「七、てめぇ空気を読めよ」

「黙れセクハラ魔。未知、復興について話がしたいから、あっちのテントに行こう。美味しい紅茶を淹れるよ」

「あ、ありがとう、七」


 七はさりげなく私の腰に手を回して、連れて行こうとする。

 そんな七の肩を獅堂が掴んで、じりじりと二人で後退していった。


「おまえホントいい加減にしろよ?」

「いやいや、僕は本当に仕事の話だからね? 君とは違うから」

「はぁ? 復興にかこつけてなに言ってんだむっつりヤロウ」


 うーん、できればもうちょっと仲良くして欲しいのだけれど。

 そう思うけれど、思わず零れた笑声に、自分の気持ちを悟ってしまう。懐かしくて、嬉しいんだ。この、みんなの居る場所に戻ってこられたことが。


「ふふっ」

「未知?」

「どうした?」

「いいえ、なんでもないわ」


 私の言葉に毒気が抜けたのか、喧嘩を止めてくれる二人。

 代わりに両サイドに立って連れて行く物だから、なんだか連行される宇宙人のような気持ちになってしまった。


「ああ、観司先生。ちょうど良かった。授業スケジュールについての会議を通達しよう思っていたのですが……」

「瀬戸先生……。そうですよね、使えませんものね、端末」


 端末どころか、余波でほとんどの電子機器は止まってしまった。

 唯一動くのが、魔導の力を用いた、虚堂博士の魔導機械だけだ。虚堂博士は今、傍らに女性型サポートロボットを連れて、有栖川博士と共に各地の機械整備を主導しているのだとか。


「あ、未知先生!」

「陸奥先生も、ご無事で何よりです」

「いやいや、この程度、どうってことないですよ!」

「ほう? では、陸奥先生は川端先生と体力仕事の方に回って貰いましょう」

「はぁ?! ちょっ、待って、川端先生――」


 挨拶。

 それから直ぐに笑顔の川端先生に引き摺られていく陸奥先生。手を振って見送ると、陸奥先生は引きつった笑顔で振り替えしてくれた。その向こう側にいた高原先生は、こちらに走り寄ろうとして新藤先生に止められていたけれど。

 相変わらず、あの二人は仲が良いなぁ。


「さて、復興資金は協会がたっぷりと捻出してくれました。よって、生徒のメンタルケアを中心に――」


 瀬戸先生は会議を進めながら、そう、説明してくれる。

 世界特殊職務機構管理協会。有栖川博士も所属するこの部署は、元は国連の一機関だった。けれど、時子姉引退騒動から、国連が一切の責任を負わないのは道理が立たないと批判を受け、僅か一週間の間に汚職役員込みで色々粛正。異能や魔導術師に関することは専門の独立機関に任せた方が軋轢は少ないだろうとされ、協会の国連からの独立が決まった。

 こう、なんというか、あまりにスムーズすぎて誰かが裏で糸を引いているのではないかと不安になる。こう、さりげなく時子姉のポストが用意されていたり、有栖川博士の権限が大きくなって――ああ、有栖川博士、ううん、いや、深く考えないようにしよう。


「――であるからして、正式な授業の再開はもうしばらく様子を見ますが、生徒たちの気晴らしも兼ねて希望する生徒には簡易的な授業、この場合は勉強会を開くと言うことで相違ありませんか?」

『はい』


 全員が頷いたのを見て、瀬戸先生は満足げに眼鏡を直した。

 そういえば瀬戸先生も、教頭先生への昇進が推薦されているらしい。まさしく出世頭だなぁ。

 これでもうちょっとマザコンが……ううん、いやもう、愛嬌と思うことにしよう……。


「観司先生? 聞いていましたか?」

「あっ、はっ、いえ、すいません」


 覗き込まれて、慌てて立ち上がる。

 瀬戸先生はそんな私に、それはもう大きなため息を吐いた。


「はぁ……あとで“めっ”ですからね?」

「あのそれ、この流れだと普通、私がされる方――いえ、なんでもないです」

「よろしい。では、もう一度ご説明致しますが、観司先生の勉強会を希望する生徒が幾人かおります。今回は気楽に、彼女たちの様子を視る程度で良いでしょうが、次からは授業準備の後に行ってください。場所は、第七実習室ですので、よろしくお願いします」

「はい、承知致しました」


 メモ用紙に時間などを書き込んで、それから、気がつく。

 メンバーはみんな、部活動のひとばかり。気を遣って、くれたんだ。


「そういうところばかりだと、とっても格好良いのですが、ね」


 既に見えなくなった瀬戸先生に、そんな風にぼやく。

 それからメモ用紙を胸ポケットにしまって、踵を返して歩き出した。














 ――あれから。

 オリジンを倒してまだあった少女力の残滓で、なんとか十三歳少女服までは回復できたけれど、私の魔法少女衣装は残念なままであることには違いない。おかげでクロックは泡を吹いて気絶して、それから見ていない、というほどだ。



 拓斗さんを初めとして、イルレアやレイル先生たちは海外復興支援に出かけている。一部の天使たちも、人類に味方をしたフィリップさんやガブリエーラさん、カタリナたちは“魔法少女の天使”という扱いに(いつの間にか)なっていて、感動の再会を果たしたミランダ・城崎さんたちと一緒に復興支援中、なんだとか。



 仙じいは正式に引退。芹君を後継とすることを発表し、自身は隠居……とはいかず、協会でこき使われている、とは本人の談だ。今は、憑き物が落ちたかの様な穏やかな表情で暮らしていると聞いた。



 リリーやポチ、ゼノ、それからリズウィエアルさん。ようは悪魔たちは、今、ほとんどがリズウィエアルさんかリリーかのどちらかの派閥に所属している。けれど、二人が裏で繋がっていることは誰も知らず、着々とワル・ウルゴを悪役にした感動ストーリーで人間界に宥和政策が進んでいる様だけれど……うん、まぁ、ほどほどにね?



 魔法少女は再び天に還った。一度は還ったのに、こうして助けてくれたということは、彼女こそが神なのであろう。そう、世界の人々は少なからず認識し、愛と正義と希望の魔法少女に恥じぬ様、未だ世界の歪みとして発生する妖魔と戦うことを誓う。それが、協会のフレーズにもなっているようだ。





 そして。

 私はというと、その、やっぱり、“神候補”という状態には変わらないそうだ。そう、ステッキが教えてくれたから。

 けれど、おじいちゃんとミカエラさんが言ってくれた様に、私の生活は、きっとこれからも変わらない。ただ全力で、精一杯生き抜いて、駆け抜けるだけだ。





『む、鈴理よ、ボスが来たぞ』

「っ、師匠!」

「鈴理さん?」

「大変なんです! 実習室の奥に隠れていた神の泥が妖魔と合体して、それで!」

「周囲に、人は?」

「夢ちゃんたちで抑えています! けど、それだけです!」

「そう。なら」





 だから、まだまだきっと、騒がしい日々は続くことだろうけれど。






「来たれ【瑠璃の花冠】」

「師匠、さすがです! 待っていました!」





 私の、ひた隠しにした魔法少女の日常を、見守っていて下さい。






「【ミラクル・トランス・ファクト】!!」





 ――私の、神さま。





















――Fin――



ラストもう一話続きます。

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