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そのにじゅうはち

――28――




 ――関西特専。



 関東特専の神獣を討ち倒し、私はステッキに導かれるままに、次の戦場に向かう。

 テレポートに身を任せ、子供たちの叫びを受け止めて、空間を越えて。


「見えた!」


 関西特専。

 京都府を蹂躙しようと咆吼を上げる怪獣――鬼亀、と名付けられたらしい神獣は、五体。その五体の鬼亀を食い止めるのは、黄龍を憑依させ、その出力で四聖獣を向かわせる時子姉。

 それから、赤黒い血色の巨龍――アルヴァ・エルドラドを向かわせる、ファリーメアの姿だった。


「メア……そっか。あなたも、戦ってくれているのね」


 かつて、命を賭けてぶつかったメアと時子姉が、今は、命を賭けて肩を並べて、戦ってくれている。

 なら、私も、魔法少女として今一度全力を尽くそう。私に全てを賭けてくれた“――”のためにも!!




「少女力充填――【魔法魂剣ディア・プリズムナイト・ブレイド】――極光斬撃」




 飛翔。

 背中の翼が爆ぜ、景色が切り替わる。

 ソニックブームを発生させず、周囲に一切の悪影響を及ぼさない魔法少女的光速移動。


「いっけぇぇぇぇぇっ!!」


 鬼亀の背後から星型に切り裂き、翔け抜ける。




「一つ」

――斬ッ!

「二つ」

――斬ッ!!

「三つ」

――斬ッ!!!

「四つ」

――斬ッ!!!!

「ラスト!」

――斬ッ!!!!!




 瞬きの間に五度。斬撃の雨を降らせながら、私は遍く泥を切り捨る。

 星型に切り抜かれた鬼亀は、なにが起こったのか理解が及ぶ前に、光の粒子となって消えていった。



「魔法少女ミラクル☆ラピ! 子供たちの願いに応えて推参! もう、あなたたちの好きにはさせないんだから! 【ミラクル☆シューティング☆スター】!!」



 空に打ち上げた瑠璃の☆。

 巨大なそれは上空で弾け、流星群のように降り注ぐ。

 一撃一撃は、実のところ他の攻撃と大差ない威力だ。つまるところ、ここにいる神獣程度ならば必殺の一撃となる!




『グゴァ?!』

『ギッ!?』

『がぎゃああああッ!!』

『ごぉおおおぁッ』

『るぎッ!?!』

『ギゲガァァァッ!?!?!!』




 断末魔の声。

 戦い、蹂躙するためだけに生み出された哀れな神獣たちが、光の粒子となって消えていく。


「ラピ……?」

「む。時子、ラピが縮んだわ」

「そうね……?」


 首を傾げる時子姉とメアに、苦笑と共に手を振る。

 うん、ちょっとだけ名残惜しいけれど、私は次に行かないとならない。






「行くよ、夜王の瑠璃冠。【ミラクル☆テレポート】!」






 転移。

 次の行き先は……あれ? 海上?



「ええっと、これは?」

『――ますか』

「っ【ミラクル☆超感覚】!」



 頭に響く声。

 咄嗟に感覚を拡大すると、声は、はっきりと響いてきた。


『聞こえますか、未知さん!』

「ガブリエーラさん!? どうして」


 用があると言って残ったガブリエーラさん。

 彼女はおそらく天界から、私に向かって通信を入れてくれている様だ。


『私も、お手伝いします。いいえ、我ら天使の贖いをさせてください……!』

「それは、その、助かりますが……どのような?」

『私の領域で陣を引き、儀式を完成させました。天界のバックアップを用いて、治癒術式を展開させます。ですが、治せない傷はないと言えるでしょうが、複数人向けではありません……。ここからでは戦況が不透明です。背負わせる様で心苦しいのですが、使いどころの選択を、願えませんか……?』


 完全治癒術式か……。

 確かに、天界から出力の供給をしてくれるのであれば助かる。けれど、使いどころが限られ――いや、待って。


「いける? 瑠璃冠」

――『もちろん!』


 そうだ、そうだよ。

 私は愛と希望の絆から生まれた魔法少女。

 願いという望みがあるのなら、それはまさしく得意分野だ。


「出力の出口を、私の頭上に繋げますか?」

『可能、ですが、それだとその場しか治癒出来ません』

「大丈夫です。お願いします」

『? ――わかりました。あなたを信じます。【福音術式・起動】』


 私の頭上。

 光輝き伸びる天使の梯子。

 そこからゆっくりと舞い降りてくるのは、白く輝く“種”だった。



「【祈願セット】――願いはここに」



 その手に、私は、剣を向ける。



「【現想フォーム】――誓いは希望に」



 白に混ざる鮮やかな瑠璃色。



「【慈愛の微笑エンジェル・トワイライト】――愛を告げよ」



 それは、やがて、眩い光を放つ純白に変化して。



「【成就イグニッション】――魔法少女の、御名の下に、光あれ!!」



 そして、種が花開く。

 花は空に融け、爆発。

 雲に混ざって、世界中に降り注いだ。


『すごい……これではまるで、神の』

「では、出力はお願いします!」

『は、はいっ、お任せ下さい!』

「それと!」

『はい?』

「助けられますよ、みんな。だから、大丈夫です!」

『っ――はい。あなたに、愛の加護が在らんことを願います』


 あえて、神では無く愛と言ってくれたガブリエーラさん。

 彼女の言葉に応える様に、私の元にも花が落ちてきた。小さな、白い花だ。降り注ぐ物に、絶対的な治癒をもたらす花。これなら――直後であれば、死者蘇生だってできることであろう。




「よし、次に行こう! ――【ミラクル☆テレポート】!!」




 景色がまた、切り替わる。

 もう、怖れるものはなにもない。

 治癒は全てガブリエーラさんに任せた。なら、私は、魔法少女として後顧の憂いなく戦い抜けば良い。



「見ていなさい、オリジン――これが私たちの、反撃の狼煙だ!!」



 次の戦場が。

 次の悲鳴が。

 次の絶望が。



 希望を求める声が、響く。

 私はその声に応えるように、瑠璃色の光を弾けさせた。































――/――




 ――アメリカ合衆国。



 空に浮かぶのは、無数の魔法少女。

 現アメリカ大統領、ジョージ・ラッシュの異能、“|我らが尊き魔法少女《Thepresidentholy》”によって生み出された、歴代大統領の魂を模倣召喚し、少女化させて魔法少女として使役する、歴代大統領の内、支持率トップに躍り出た原因の異能によって生み出された魔法少女たちだ。



『グルァアアアッ!!』

「おまえたちがいるから、私たちはまたこんな格好をせねばならんのだァァァッ!!」



 魔斧少女、ミラクル☆Rが赤いマントを翻し、手斧を片手に神獣の頭をかち割る。



『オゴロォォォッ!!』

「ふ、ふふ、早く死んでくれ。もしくは殺せ。いいや、死ぬのは嫌だ。やっぱり死ねェェェッ!!」



 魔樹少女、ミラクル☆Wが桜模様の衣装を身に纏い、装飾木槍で神獣を貫く。



『ろがががががァッ!!』

「まさかボクが少女になろうとはね。ああ、君は死んで良いよ。出でよ我が精霊兵団、貫き踊れ、ボクの天使。飛び立て、パメラ、アンジー、ジーン、プリシア、ジル、メアリー、ジュディス、そしてマリリン。ああ、ボクのジャクリーン。そんなにこわいかおをしないでおくれ。ほら、ボクも今、少女だし」



 ドレス風の衣装を身に纏った美しい小悪魔法少女、ミラクル☆K。

 彼女は美貌に似合わない大きな拳銃から小さな魔法少女たちを発射し、多くの小型神獣を討ち倒し、何故か自分の精霊にしばかれていた。


『グロゥォオオォッ!!』

「ちょっと君たち、こっちを手伝ってくれないかな?!」


 魔論少女、ミラクル☆Nは、スーツ型衣装のコートを傷つけながらそう叫ぶ。

 彼女の相手は鬼亀であり、不遇なことに一人だけ巨大怪獣を相手にさせられていた。時折トランプのカードを投げつけながら、光線に警戒してトリッキーに立ち回る。得意とする戦闘方法だが、さすがに相手が悪い。


「ええい、ほら! ペア、ツーペア、スリーカード! ああもう、こんな役じゃ勝てやしない!」


 逃げながら、それでも市民が攻撃されない様に上手に立ち回るミラクル☆N。

 けれど、その動きも精彩が欠け始め、そして。




「しまっ――」

『グラァァァッ!!』

「――大丈夫、カードを投げて」




 躓いて転び、光線を浴びせられる寸前。

 彼女は自分を支えるように背に立つ存在に囁かれるままに、トランプを投げた。


「【ミラクル☆ラック】!」

「ッロイヤルストレートフラッシュ!?」


 ミラクル☆Nの基礎パワー掛ける二百五十倍のエネルギーが、鬼亀に飛来。

 その身体を撃ち抜いて、鬼亀を討ち倒した。


「ありがとう、助かったよ。君はいつのpresidentだい?」

「私は、今を生きるものです。それでは、残りを片付けてきますね」

「え? っまさか!」


 空を駆ける少女。

 その後ろ姿を、魔法少女たちは呆然と見送る。

 そして彼女は、アメリカ国民全てが見上げる中で、魔法魂剣を振りかざした。




「今ここに、悪を討つ裁きの光を! 【ミラクル☆ジャッジメント】!!」




 降り注ぐ光。

 眩いそれらに、彼らの目は釘付けになる。

 そして、光の柱は地に☆型ミステリーサークルを刻みながら、アメリカ大陸全土の鬼亀と神獣を討ち滅ぼしていった。




「魔法少女だ!」

「ラピだ! おお、神よ!」

「やはり、魔法少女こそが真実の神で在った!!」

「ラピイズゴッド! ラピイズゴッド! ラピイズゴッド!」




 歓声に手を振り、また、魔法少女が消えていく。

 最早雑多な神獣など、魂にガソリンをくべられた彼らの敵ではない。新たなに生まれた神獣が我を忘れて逃げ出すほどの攻勢に――世界は、沸き立っていく。





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