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そのじゅうきゅう

――19――




 明かされた真実。

 しょーもない流れで変身が出来たということを思い出させられて、私はがっくりと膝を突く。無駄に高技術で高威力な術式を、あんな無駄なことに使わせたなんて……。


「第三者視点で眺めるのね。どういう術なのかしら?」

「あー、リリーはその場に居なかったからな。俺は俺の視点で回想したぞ?」

「そういうシステムだ。そこで項垂れている未知も、自分の視点で体感したことだろう」


 そうなんだけど、でもさ、これって思い出してなんの意味があったの?

 あのあとに続いた阿鼻叫喚まできっちり追想させられた私は、恨みがましくクロックを睨む。


「ねぇクロック? つまり、どうして未知は変身できたのかしら?」


 リリーの問いに、クロックはさりげなく居住まいを正す。

 今更そんなことに気を遣っても無駄だと思うのだけれど……うん、ツッコミで余計な労力を消費するのは辞めておこう。時間の無駄だ。


「五人の力であの場を“世界から独立し外部の運命から遮断された特殊空間”に設定。その中は常に少年少女たちの魔法少女を求める力で満ちている、という妄そ……空想を、空間に塗装したに過ぎん」

「過ぎん……って、あなたねぇ。未知、コレ、ひょっとして阿呆なのかしら?」


 言いたいことはわかる。

 それはまるで、悪魔が作り出す“異界”のような力だ。その場に“世界観”を追加するのが、“空想哲学(リリカル・ロジー)”。その場に“設定”を追加するのが“幻理の法典(マイ・ルール)”……と、かつての大戦の折りにクロックが教えてくれたのを思い出す。

 規格外も良いところ。そのまま“理外”の力と言えるそれに、説明を聞いていて頭痛が止まなかったモノだ。


「それで、それがなんだと言うの?」

「ああ……俺は正直、その時、あの日の魔法少女を取り戻せるモノかとばかり思っていた。だが、いざ蓋を開ければそれはパンドラ。絶望と深い闇に覆われたあのときのことを、忘れたことはない」

「失礼だからね?!」


 いや、自分でもちょっとそう思ったけれど!


「それからも毎日は、魔法少女に関する研究の日々であった」

「あ、続けるんだ」

「来る日も来る日もかつてのデータを眺め、過程を積み上げる。出口のない迷路に迷い込む様な感覚、とはこのことを言うのだろうな」

「ええ、わかったわ。大人しく聞くからさっさと終わらせて……」


 相手にすればするほど疲れるのだ。

 だったらもう、さっさと聞き流してしまうに限る。


「あの日、未知は見るからに力を増していた。けれど服装も姿もちぐはぐなままだ。だが、未知、最近は“心の成長”と共に服装もやや成長を果たした。そうだな?」

「え、ええ」

「そこに、光明を見た」


 どこに?!

 そう突っ込みたいのを我慢して、周囲を見る。リリーはクロックがどこからともなく取り出した椅子に座り、紅茶を飲んでいる。獅堂はモーターボートの備え付けの竿で、釣りを始めていた。


「つまり、これこそが魔法少女の法則だ。放送期間が延期して予定話数が伸びれば、年数の中で強くなるから“基礎値”は上がる。だが、エンディングを迎えたあとは第二期に突入するので、パワーアップ要素が自然と追加され、衣装がグレードアップする」

「つまりだクロック、未知は魔法少女になってから二十一年分の成長を、基礎ステータスに振ってんのか?」

「うむ。それで間違いはないであろうな、獅堂」


 そっ、そんなお馬鹿な理由で今日まで……?

 どうしよう。なんだか本当に目眩がしてきたよ……。


「つまり、魔法少女の掟というのは、少年少女たちから大きなお友達までの“魔法少女への幻想”によって紡がれたもの、ということになる」

「あ……」


 そっか、そこに繋がるんだ。

 放送期間がなんたらと何を言っているのか脳の具合を疑ったけれど、そうではないんだ。なるほど、魔法少女を研究してきたというだけある。


「つまり、魔法少女への幻想をなんとかすれば、未知は“本来の力”を取り戻す、ということだ」


 私の……ラピの、本来の力。

 確かに、大人だからと引き出せなかった力の全てを引き出せるのであれば、例え創造神相手でも活路が見いだせるかも知れない。


「じゃあなんだ? また全員集めるのか?」

「いいや。それではピースが足らない。少年少女を助ける声も必要であり、そうすると俺が身動きを取ることが出来ない。だが、誰かが瑠璃の花冠に干渉して希望の形、幻想の型を塗り替えねばならん」

「? つまり、どうする気だ?」

「正直に言えば、つい最近までは俺も諦めていた。だが、俺の封印も解放された上に、未知、おまえの築いた絆が、未来への道導を生み出した」


 いつになく真剣な表情のクロック。

 彼の言葉に誘われる様に、私はただ一度、生唾を呑み込んだ。


「理外の力を操り、干渉を掌握する少女」

「っ、まさか」

「笠宮鈴理――彼女の協力があれば、間違いなく、成功する」


 言われた言葉に、喉が引きつる。

 でも、こんな危ないことに生徒を巻き込めるのか?


「鈴理さんを巻き込む様なこと……」

「ふふ、未知。あのこのことをわかってないわね」

「リリー?」


 クスクスと、喉を鳴らして上品に笑うリリー。

 ……そういえば、リリーは鈴理さんの“友達”だったね。


「魔法少女の覚醒に手伝えるのよ? ……大喜びするのに、決まっていますわ」

「あー……ええ、そうね、あの子ならそうよね」

「手伝わせてあげなさいな。それが、あの子の思いを汲むと言うことではなくて?」

「――そう、ね。ええ。ただし、決めるのは鈴理さんよ。彼女が嫌なら、私はやはり私として戦うわ」


 そう、端末を手にする私。

 忙しかったのであれば申し訳ないけれど、どうだろうか?


「了承を得られたら、獅堂。わかっているな?」

「あー、なるほど。タクシー代わりに残されたのか。まぁ良いぜ。俺も楽しみだ」

「頼んで置いてなんだが、獅堂。何故、発現型アビリティタイプのおまえが普通に異能を扱えている?」

「人魂をここで解除したら、“異能が扱えない”ルールに適合する形で復活した。……あの説明書ヤロウのいうとおり、“得”をしたよ」

「なるほど、器用だな」

「おまえに言われたかねぇよ」


 ……後ろの様子は、あまり気にしない方が良いだろうなぁ。

 私は勤めて二人の変な会話に気をとられない様に、大きく深呼吸をしてから、鈴理さん宛てにダイヤルをタップした。




































――/――




 ――関東特専。



 昨晩、突然空から降り注いだ“泥の神獣”。

 その異形に恐れおののく中、わたしたちはけっこういつも通りに、集合して対策に当たっていた。


「夢ちゃん!」

「【展開イグニッション】――よし、終わりっと」


 わたしが結界で動きを止めて、夢ちゃんが射撃で吹き飛ばす。

 何度目かもわからない攻防の中、けれど、泥の神獣は確実にその数を減らしていた。


「やっぱり、夢ちゃんが戻ってきてくれると助かるなぁ」

「ちょっとやめなさいよ。ずっと居たくなるでしょうが」

「えへへ、ごめんね?」


 救援、ということでどうにか駆けつけてくれた夢ちゃんだけど、居られるのは日中だけらしい。夜になると現れると予測させる次の攻勢のために、碓氷一家は各地を飛び回ることになるみたいだ。


「鈴理、あのさ」

「ん? なに? 夢ちゃん」

「たぶんこれ、すっごく、厳しい戦いになると思う」

「……うん」


 政府の発表は、“異世界からの侵略者”というものだった。

 当たり前だ。見たことも聞いたこともない姿の神さまが現れたところで、一度魔王によって痛い目を見ているわたしたちは、簡単に信用できない。

 でも、現に敵は強力だ。どこに終わりがあるかも見えない現状は、否応なしに疲弊させられる。


「だから、鈴理!」

「う、うん」

「この戦いが終わったら、私とけっ――」

「あ、ごめん夢ちゃん、電話だ」

「――けっ、けいたいね?」

「端末だよ?」

「良いから出てあげなさい。……はぁ。もう、私ったら運がない」


 言われて、端末を開く。

 ディスプレイに表示されている名前は――師匠だ。




「はい、笠宮です」

『――』

「ええ、今大丈夫です」

『――』

「えへへ、ありがとうございます。それで、その?」

『――』

「え? え?」

『――』

「いいえ!! もちろん、手伝わせてくださいっ!」

『――』

「はいっ、お待ち致しております!」




 端末を閉じ、にやける顔を押さえる。

 すると、怪訝そうな表情の夢ちゃんが、わたしの肩を叩いて首を傾げていた。


「どうしたのよ? 未知先生がなんだって?」

「うん、あのね、わたし――師匠のすっごい変身を、手伝えそう!」

「はぁ?」


 わたしの助力が必要なら、いつでも言ってください。

 まさかまさかまさかこんな展開になるなんて……やったー!



「……あ、ごめん、夢ちゃん。それで、どうしたの?」

「はぁ……戦いが終わったら、みんなで旅行しましょ。で、遊び倒すの。良いわね?」

「っうん!」



 楽しみなことばかりが増えていく。

 ――うん、だから、この局面は必ず乗り越えよう。そう、誓った拳に、自然と力が入る。やることはいつもと変わらない。わたしはわたしに出来る全力を、振り絞るだけだから!





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