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そのじゅうろく

――16――




 ――東京湾



 突如、ゲート“上空”が揺らぎ、幾人かの影が落ちる。

 未知に殿を任せて“転移”してきた、英雄たちの姿であった。


「うぷっ、気持ち悪い」

「お、おい、大丈夫か? 七。……つぅ」

「仙衛門、拓斗を抱えて。クロックは七を」

「うむ」

「ああ、わかった」


 空母に着地しながら、時子が素早く指示を出す。

 相変わらずふわふわと浮かんでいる獅堂は、もうせっかくなのでこのまま、かさばらずに移動することに決めたようだ。


「時子様、いったいなにが?」

「彰……説明はあとよ。“敵”の目的がわかったから、国連でひとまず緊急会議をするわ」

「畏まりました。国連高官に伝達を致します」

「私も行くわ。みんなは少し待機を」


 それだけ告げて、時子は足早に走り去る。

 残された獅堂たちの元へ駆けつけるのは、特課の警察官と有栖川博士たちだ。


「無事か? ……いや、未知はどうした、人魂」

『人魂呼ばわりするんじゃねぇよ、正路。未知は殿だ。“本気”だから、さっさと戻ってくるだろうよ』

「そうか……おまえが言うのなら、そうなんだろう。拓斗さんは怪我のようだが、七はどうしたんだ?」


 特課、楠正路が疑問符を浮かべた表情で問う。

 七は他の面子と違い、怪我ではなく体調面で不調を抱えていそうな表情であったからだ。


「うぷ……クロックが無茶をするから」

「だが、早かっただろう?」

「無茶……?」


 七は、それだけ言うとぐったりと動かなくなる。

 首を傾げる正路に、人魂獅堂は見かねた様に説明を買って出る。


『無茶って言うのはだな、こう――』


 思い浮かべるのは、転移直前の光景。

 天界の一角。必死で道案内をしようとするカタリナ。転移を提案した七。





『長距離転移で移動しよう。世界の壁に当たってしまうから、魔界から順々に移動する必要があるけれど、走るより良いよ』

『そうだな。七、頼んだぜ。俺は今重さがないから楽だろ?』

『ふむ……ならば七、手伝おう』

『霊力でも供給してくれるのか? クロック』

『いいや、違う。短パン美ショタでなくなったおまえに、そんな気力は湧かん。そうではなく、距離の方だ』

『距離? まぁ、いいよ。全員、集まって。【我に遮る壁はなく(パタオ)】』

『――からの、“幻理の法典(マイ・ルール)”。【遮るべき壁もなく】』

『は? そんな無茶な干渉――っ!?!?!!』





 ……と、簡単に説明を終えると、特課職員のジェーンに冷たい水を手渡され、目元にホットタオルを置いた七が、ぐったりと説明を引き継ぐ。


「精霊術っていうのは、世界に遍く精霊の力を用いて、自然現象を塗り替えるモノだ。特性型スキルタイプなんて区分にされているけれど、実際は、精霊の特権だと思ってくれて良い。一小節の詠唱に真理を見い出し、法則ごと世界に顕現させる。それに横やりの様に適当な概念をぶち込まれたら、僕は“世界に”酔うんだ」


 少し落ち着いてきたのだろう。

 七はなんとか水を飲み干すと、しっかりとした口調でそう告げる。言いながら思うのは、一小節だけで絶大な効果を及ぼすというのに、二小節の連打を受けて“あの程度”で済んだオリジンの姿だ。世界の創造主相手では、精霊術の効きが悪いことを、認めざるを得なかった。


「ありがとう、ええと、ジェーンだったね」

「いえ。我らUSAの信仰せし魔法少女。その弟様のお力になれることでしたら、なんなりと」

「ああ、君はアメリカ人か。相変わらず、あの国の情熱は凄いね」

「恩には誉れを、仇には報いを、悪い子には魔法少女を。我らの誇りです。来年には、日本語の通じないアメリカ人は二割を下回ることでしょう」

「そ、そう。頑張って」

「ありがとうございます」


 ……精霊術が効果があるとか無いだとか、とてもちっぽけな悩みなのではないだろうか。

 七はそう思い直すと、冷たい水を呷る。よく冷えたそれは、七の内心の動揺を、静かに諫めてくれる様だった。


「そういう訳で、僕たちは――」

「仙法【爆熱鋼体】!!」

「――ッ」


 突如、割り込む様に突き出される仙衛門の拳。

 その拳に激突したのは、テニスボールサイズの“泥”であった。


「これは、まさか!」

「カタリナ」

「ええ、拓斗さん。神獣です!」


 空から振ってきた泥。

 真っ白なそれは雪の様に、けれど恐るべき速さで空母の甲板に激突。幾つもの小さな泥を弾丸の様に飛ばしながら、その場で高速回転をしている。


「特課職員一同、非戦闘員の警護と避難誘導に付け。マクレガー隊員、浦河隊員、四階堂隊員、それから崇! おまえたちはデカブツの処理だ!」

「yesSir」

「了解」

「承知しました」

「はいッス!!」


 円陣を組んで取り囲む。

 すると、それに反応する様に、泥は己の形を変えた。白い翼、能面の様な顔、鎧と肉が混じった様な身体、四本の手、鹿の下半身、大剣が二振と槍が二本。


「拘束します!」

「頼んだぞ、ジェーン! 私も死力を尽くそう! “亡霊王の賛歌(ポルター・レクイエム)”!」


 エルルーナの影から、剣を手にした骸骨兵が現れる。

 見るからに弱そうだが、瞬く間に二十を超えた大軍の作成には、目を瞠るモノがあった。それに続くのは、走りながら神獣を睨み付けるジェーンの姿だ。


「“第三の手(ゴッドハンド)”!」


 不可視の巨腕。

 巨人の様なそれが、神獣に襲いかかる。けれど神獣はそれを、まるで見えているかの様に避けた。


「ここで暴れられても面倒だ、移動するぞ!」


 政府高官から指示が回ったのだろう。

 急激に動き出す空母の甲板で、泥の神獣と相対する。




 そして。




『信仰を忘れし愚者に問う――』




 夜空に、巨大な青年の姿が。浮かび上がった。




































――/――




 海の向こうからモーターボートに乗ってやってきたのは、見慣れた姿だった。私に手を振って居場所を知らせてくれた春花ちゃんと、凛さんと、ボートの操舵手を務めるベネディクトさん。

 意外な組み合わせだけれど、春花ちゃん以外は魔法少女の正体を知っている。“向こうの世界”では見せてしまっているから、驚きも少ないだろう。うぅ。


「それで、神獣を適度に弱らせながら確保。今頃、研究班に回されているはずです」


 なるほどね。

 それで、有栖川博士は調査中、と。


「お姉さんが“本気のまま”だったら、空母がいる方が迷惑だろう。そう、獅堂さんがおっしゃって、連れて行かれました」


 うーん、なるほど。確かにリリーに指摘される前に、変身解除をせずにいたら危なかったかもしれないなぁ。


「今後のことも、なにかあればベネディクトさんに連絡が入るそうです」

「ふふ、どうぞお任せ下さい」


 そうか、それなら安心、かな。


「なら、連絡が入るまでは待機、かしら?」

『わんっ』


 さっそくリラックスし始めたリリーとポチに苦笑しながら、頷く。

 今日はもう、これから先、どんな理不尽が襲いかかるかわからないのだ。今だけは、ゆっくりと休んで居られるように、私はベネディクトさんと顔を合わせて小さく苦笑を零すのであった。





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