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そのきゅう

――9――




 ――天城領域・ラエルフリート



 聳え立つ白亜の城。

 雲の中、荘厳に見据える浮遊大陸を前に、拓斗はぽかんと口を開けて見上げていた。


「セブラエルはもう少し、他の天使の質素さを見習った方が良いんじゃないのか?」


 思わず、といった風に零れた言葉。

 それに、カタリナは咄嗟に声を上げた。


「け、権威の象徴という面もあるのです。セブラエル様は、特別な御方でしたので」

「天使にも権力欲があるのか? 人間と同じじゃないか」

「知性があって地位があれば、欲も付随するものじゃ。変わらんよ」

「……返す言葉もありません」


 だが、直ぐに擁護の声は小さくなる。

 彼女とて、疑問を抱いてしまった天使だ。最高位のセブラエルに対しても、思うところがないとは言わない。それ以上に、死者を責めるつもりがないだけであった。


「なにぶん、城主がおりません。侵入そのものは容易いかと思います」

「警備もいないのか?」

「はい。天界の領域で盗みを働けば、“天罰”が下ります。実際には如何なモノかはわかりませんが、事実、罪を犯した天使は“監獄領域”に繋がれますから、天使は自らを戒めて罪を犯さない様に心がけています」

「我慢しなきゃならない側面があるだけで、随分と人間寄りの生き物だ」


 天使と人間。

 あるいは、天使と悪魔。

 その三つの種族はなにが違うというのか。どこに差があって、あの大戦があったのか。その答えを求めることが、あるいは、これまでの事件の終着点にたどり着くことに繋がるのではないか。

 拓斗はそう、聳える城を見上げながら、左手を握りしめた。


「さて、カタリナはおれの背中だ。仙衛門は指に捕まってくれ」

「わかりました。その、よろしくお願いします」

「カカッ、心得た」


 分離した巨神の鋼腕の上に拓斗が乗り、その背にカタリナが捕まる。

 僅かに浮かび上がると、仙衛門は鋼腕の親指に手を掛けた。


「入口は?」

「裏門からお願いします。……お兄様共々、裏門から招かれた時のことしか知らないのです」

「わかった」


 音は最小限に。

 鋼腕から溢れた銀の炎が、三人の身体を持ち上げる。


相棒(ギガント)、ゆっくりと城を外周。裏口まで頼んだ」


 鋼腕は、拓斗の言葉に従って、低速低音を維持したまま外周を回る。

 雲間に隠れる様に移動をすれば、誰かに見つかるような気配もなく、三人は無事に城の裏側へ着地することが出来た。


「ここからは、案内を頼むぞ」

「はい、お任せ下さい」

「殿は儂に任せよ」

「ああ、仙衛門、頼んだ」


 先頭にカタリナ。

 次いで、拓斗が続く。

 殿に仙衛門がつくと、三人は城を進み始めた。


「随分と立派な城だが、セブラエルにはそんなに権力が集中していたのか?」

「……はい。元々は、セブラエル様ともう一方、ガブリエーラ様という女性の天使がおられました。けれど、禁忌を犯してしまい“監獄領域”に封印されるたことから、セブラエル様の挙動がおかしくなり初めて……」


 そうして、セブラエルは、なにかに取り憑かれた様に“魔導術師”を“異能者”に変える研究を始め、その過程で“主の命である”として、カタリナを人間界に派遣し、天兵や天使薬の研究に従事させた。

 同じ頃に、自身も天界から降り立ち、人間社会に侵入。着々と、人間界に根を張る準備を進め、“特異魔導士”を生け贄に魔導術師から異能者への変換を成功させようとして――自分たちが切り捨ててきた、“人間”の“魔導術師”、虚堂静間に裏切られ、天装体から魂を引き抜かれて消滅。彼が本当はなにがしたかったのか。主の命とはなんであったのか。全ては、謎に包まれたままになってしまった。


「私が、セブラエル様にお目にかかったのは、まだあの方が穏やかであられた時のことです。その時、セブラエル様は私とお兄様に、こう、教えて下さいました」


 カタリナは、そう言いながら、二人を一つの扉の前に案内をする。

 周囲の扉の中で、ひときわ目立つ扉。それは、裏側が透けないのに透き通っている、不可思議な水晶で作られていた。


「“主から頂戴した命の全ては、決して損なわない様に宝物庫に並べてある”――と」


 水晶の扉の鍵穴に、カタリナが光の棒を差し込む。

 すると光は鍵穴の中で形を変え、ガコンと音を響かせて開いた。


「ここが、宝物庫です。――主への道は、城の最上階にあると言われています。ですが、私は、まずはここに皆さんを案内せねばならないと、そう、思ったのです」


 ここに至るまでに、大きな迷いがあったのだろう。

 幾度も迷い、言い出せず、それでも主を裏切る様な行為であろうと人間のために貫いた。


「ありがとう、カタリナ」

「うむ。汝の志、しかと受け取った」

「拓斗さん……仙衛門さん……」


 なら、この時から、カタリナは本当の意味で仲間となったのだろう。

 カタリナは目元に浮かぶ涙を拭い、それを誤魔化す様に背を向ける。それから、改めて、水晶の扉の中へ、二人を導いた。


「はぁ、こいつはすごいな」

「圧巻じゃのう」


 中は、真っ白な部屋だ。

 それも、外側からは計り知れないほどに大きな部屋だった。拓斗はそれに、学校の体育館を思い浮かべるほどに巨大で、壮観だ。

 なにせこの白く大きな部屋の至る所に、様々な色に輝く美しい水晶が浮かび上がっていたのだから。


「カタリナ、あの水晶は?」

「あれが、宝です。天使は物欲というものが薄いです。ですが、歌や声を好み、ああして水晶に封じ込めておくのです。主の命というのは声で届きますが、神力が強く込められているため記録出来ません。ですから、水晶には専用の文字を“空中に”刻んで、その空間事封じているのです」

「つまり、何割かはセブラエルの好みの歌が込められたCDってことか?」

「え、えーと、はい、その解釈で問題はありません」


 そう、カタリナは苦笑して応える。

 問題は無い。けれどとても軽いモノに捉えられてしまった気がして、直ぐに頷くことも出来ないカタリナであった。


「あの、虹色の水晶が主のお言葉です。一番古いモノを取り寄せてみますね」

「ああ、頼む」


 カタリナが光を放つと、それに吸い寄せられる様に一つの水晶がカタリナの前に留まる。

 それに、彼女が指を向けると、水晶は左右に分かれて、黄金の文字を浮かび上がらせた。


「これが、主がセブラエル様に命じられた最、初、の……?」


 浮かび上がった文字。

 そこに刻まれた文章に、カタリナはおろか拓斗と仙衛門ですら、身動きを止める。






『最初に生まれし天使の子

 我が剣にして我が盾

 我の望むものを届けし勇者、セブラエル

 最初に生まれし天使の子

 我が声にして我が筆

 我の望む答えを届けし聖者、ガブリエーラ




 次に生まれし悪魔の子

 我が腕にして我が罰

 我の望まぬ者を消せし英雄、ゴグ・サタヌス

 次に生まれし悪魔の子

 我が目にして我が天秤

 我に仇なす者を仕分ける審判、リズウィエアル




 最後に生まれし弱き子

 我が望みに従事せし、学ぶ者

 一つは男、アダムと名付け

 一つは女、イヴと名付け

 審判のその日まで、信仰を抱き待ち尽くす糧

 審判のその日まで、無知を享受されし贄




 おお、愛しき我が子らよ

 我が降り立つその日まで

 我が子らに見守られ

 我が糧となることが、貴殿らへの祝福なり      』







 これで、一つ、明確になったことがある。

 そう、拓斗は、握りしめた拳を開かぬままに告げた。


「天使と悪魔は最初っから繋がっていて、人間は本来、主の欲求を満たす駒でしかなかったということか」

「カカッ、天使が人を下に見るのも道理よのぅ。事実、彼奴らにとっては下だったわけじゃ」

「そんな……だって、天使は慈悲と慈愛で人を見守るのではなかったのですか、セブラエル様……っ」


 膝を突き、項垂れるカタリナ。

 彼女の絶望に呼応する様に、拓斗は重く息を吐いた。


「配下にはきれい事しか見せない。権力者がよくやる手だよ。……ったく、参ったな。まさか神さまとやらは、最初から人間を玩具の様にしか思っていなかった、か?」

「誰もがなにもかもを失ったあの戦いが、茶番だったとは言わせぬよ。そうじゃろう? 拓斗」

「ああ、ああ、そうだな、仙衛門。――どうする、カタリナ? 休んでいても良いんだぞ?」


 拓斗の声は柔らかく、優しい。

 気遣ってくれているのだろう。それが伝わったからこそ、カタリナは立ち上がる。


「……いいえ、ごめんなさい。続きを。私も、主に聞かねばならないことが出来ました」

「そうか。悪いな、だが助かる。ありがとう、カタリナ」

「いえ。これはきっと、私に課せられた運命なのでしょう。であるのなら、抗い戦うべきだと――魔法少女に、教えて貰いましたから」


 決意の瞳で告げるカタリナに、拓斗は強く頷いた。


「では、次の水晶を――」


 そう、カタリナは手を伸ばして。





『盗み見なんて、悪い子だ』





 響いた声に、肩を震わせた。


「――誰ですか?!」

「仙衛門!」

「応ッ」


 カタリナを中心に、円陣を組む。

 声の主を探せど、気配の一つすらもない。

 全員が同じ声を聞いていなかったら、錯覚かと思っていたかも知れない。




『誰かを問うとは、やはり無知は醜い。おいで、少しだけ相手をしてあげよう』




 そして。


「っ」

「なに?」

「むぅ」


 突き抜けた様な青空。

 永遠に続く水平線。



「城の、屋上?」



 カタリナの呟きが、そう、困惑と共にこぼれ落ちた。




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