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えぴろーぐ

――エピローグ――




 ――回転寿司系居酒屋“りつ”


 なんだかこうして仲間内で飲むのも、久々な気がする。

 零れるほどに盛られたいくらをひとつまみ。放り込んでから、ハイボール。喉を潤すようにぐいっとジョッキを傾けると、炭酸の刺激とアルコールの熱が体を温める。


「なるほど、それは災難だったね」

「くっ、ははははっ、いや、ホントに運が悪ぃな、未知」

「うるさいなー。わかってるよ、もう」


 彰君と共に悪魔の眷属を撃退し、魔法少女として悪魔を退治した激動の一日。

 まだ昨日のこととは思えないほどに厚みのある休日であったことは、認めざるを得ない。


 あれから。

 ちょっとコネを使って確認してみたところ、彰君は無事に当主に就任することができたようだ。その有様は実に堂々としていて、将来を期待させるものであったらしい。それが聞けて、私としても一安心だ。舞い踊る痴女扱いされた甲斐があったというものであろう。


「しっかし、正路せいじのヤツが帰国していたとはなぁ」

「あら? 獅堂、知らなかったんだ?」

「しらねーしらねー。未知には挨拶して俺には連絡の一つもよこさないとはどういう了見だ? あの野郎」

「獅堂は正路に迷惑を掛けすぎなんだよ。まったく」


 正路さん、獅堂にいっつも振り回されていたからなぁ。

 まぁ実際は帰国したばかりだったと言っていたし、どうせ私から話が伝わるだろうと思ったのだろう。律儀で真面目だが、融通は利くし肩の力の抜き方もうまい。まぁ、そういうことなのだろう。


「にしても、“緑方みどりかた”かぁ」

「七は、面識があるの?」

「お姉さんの方にね」


 お姉さんって言うと、彰君がコンプレックスを抱いていた、という方のことだろうか。

 彰君のお姉さんは、当主を次ぐことは否とは言わず、自分の“やりたいこと”との両立を求めていた、という。

 現にそれが許されていてもおかしくない実績を残していたそうだが、頭の固い親族が強固に反対し、それが原因で出奔してしまったという。

 そんな彼女と七に、いったいなんの繋がりがあるというのだろうか?


「お? 七、まさか、コレか?」

「小指を立てないでくれるかな? 単に、祖父ちゃんが雇ったことがあるだけだよ」

「宗二さんが?」

「そう」


 七には、父親と祖母こそいないが、姉一人に妹一人、それに母と祖父がいる。

 その中でも祖父である鏡宗二さんは、裏の世界では凄腕の異能者だが、表の世界でも名門茶屋の当主として、度々話題になる方である。


緑方みどりかたみやこさん。理想の主人を求めて旅をする、自称侍女マスター」

「うん?」

「自称、侍女マスター。メイド業界の頂点に立つことを画策している女性だよ」

「は?」


 え? ええ?

 それ、彰君は知っているのだろうか? いや、あの閉鎖的な空間で生きていたのなら、知らないんだろうなぁ。

 それでもちょっと斬新過ぎる。それは、まぁ、反対されるだろうなぁ。


「面白れぇな、緑方」

「退魔七大家なんて、みんなそんなものではないかい?」

「いや、七。それは失礼だよ?」

「獅堂なんか、橙寺院とうじいんの御当主に迫られていたじゃないか」

「あいつはなぁ、オネエだからなぁ。藍姫あいひめのシスコン当主が真っ当に見えるぜ」


 ……いや、うん、内情を知っているのは黄地おうじだけだったんだけど、そっか、どこもそうなのか。それならメイドくらい、許してあげても良かったんじゃ?


「でも、時弥ときや君は真面目だよ?」

「ご意見番が時子だからな。そろそろ胃壁が破れるんじゃねーか?」

「もう、獅堂。時子姉に失礼だよ」


 いやー、でも、うん、知りたくなかったなぁ。

 退魔七大家の前当主の方々とは、現役魔法少女時代にずいぶんと衝突したのだけれど、正直、あまり良い思い出がない程度には頑固な方々だった。

 だが同時に、真面目で由緒正しい力を正しく使う、まさしく厳格な方々だった、という印象だったのだけれど……そっか、うん、変態なのか。


「と、そうだ。未知、七」

「どうしたの?」

「いやな、時子で思い出したんだが――二学期のメインイベントのアレ」

「ああ、遠征競技戦?」

「そう、それ」


 二学期に控えた特専目玉イベントの一つ、“遠征競技戦”は、七つの特専が一堂に会して己の技を磨き合い、能力を高める切っ掛けとする……という目標が掲げられたものだ。

 各クラスから代表者を選出して予選を行い、様々な競技に参加する。一般の観客も集まるので、特専の生徒たちが家族に己の活躍を見せることができる、大きなイベントでもある。


「拓斗が、来られるそうだ」

「ホント!?」

「そうか、拓斗か。僕も久々に会いたかったんだ」

「連絡が付いてな。久々の顔合わせだ」


 東雲しののめ拓斗たくと

 かつての英雄仲間にして、みんなのお兄さん分だった彼。なにかと接しにくい七人目の仲間、“クロック”と唯一対等に会話が可能だった人物。

 その異能からついた二つ名は、“異邦人トリッパー”。名は体を表すというか、まぁ、中々捕まらない人だ。


「まずは試合。それにエキシビションだろ? 楽しみができれば頑張れる。違うか?」

「ふふ。教師の仕事で頑張れない、と思ったことはないよ。でも、ありがと」


 なんだか、ここのところ色々あって気落ちしていたことは否めない。

 うん、まぁ、だから。素直にお礼を言っておきましょうかね。


 傾けたジョッキの、最後の一口を飲み干す。

 その味は、不思議なことに、さっきまでよりずっと美味しいとさえ思えた。






――To Be Continued――

2016/10/12

2016/11/09

誤字修正しました。

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