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そのいち




――1――




 炎獅子祭も無事に終わり、バレンタインも含めた大規模なイベントもこれで終了。

 今年、卒業した香嶋さんは、省庁勤めを希望するために専門分野の研究が出来る関西特専の大学部に進学していった。最後に色々とおねだりをされてしまったが、それは卒業祝いの内だろう。

 本日は春休みの最中の登校日。春の麗らかな陽気に当てられながら、来年に向けた準備の最中だ。


「観司先生、進行具合はいかがですか?」

「だいたいのところは終わりましたよ、瀬戸先生」


 そう、いつものように、眼鏡をクイッとあげながら告げる瀬戸先生に、受け答えをする。

 瀬戸先生の端末に資料を共有。早く終わらせて、部活動の方にも顔を出しておきたいからね。


「はい、さすが、優秀ですね。よりによって寝坊をして来て私にまで残業をさせようとするどなたかとは大違いです」

「……ごめんなさい。いやでも、寝坊とは言ってないですからね?!」


 瀬戸先生に言われて、陸奥先生はそう半泣きで叫んだ。

 同時に、他の先生方の視線に晒されて、うぐ、と息を詰まらせる。


「では、私はこれでお先に失礼します」

「あ、観司先生、お疲れ様です!」

「お疲れ様です。しばらくは部室におられるのですよね? なにかありましたら、そちらに連絡致します」

「はい。ありがとうございます」


 職員室を出て向かうのは、第七実習室上の、元第七会議室。

 魔法少女団の部室に向けて足を運んでいると、ふと、珍しい組み合わせを見つけた。


「ですから、ここは――あら、未知」

「ええ、ええ、それでいいでしょう――おや、観司先生」


 銀色の髪に青い瞳、上品な仕草で微笑む女性――イルレア。

 白髪の薄い頭部に曲がった腰。杖と穏やかな笑みの老教師――江沼耕造重光先生。


「これから部活動? 精が出るわね」

「また、困ったことがあれば言ってください。力になりますよ」

「ふふ、ありがとうございます。お二人はなにを?」

「来年のことよ。いつまでもSクラスの担任をレイルだけに任せられないから、新入生は私が担当をすることになりそうなの」


 当初は、海外の特専の理事長であったため、クラスは持たないはずだった。

 けれど、英雄が二人も在中する関東特専の、それもSクラスならば担当可能になったのだという。イルレアは強くて頭も要領も良い方だ。それなら、安心できることだろう。


「そうなんだ? 来年が楽しみね」

「おや、観司先生も人のことは言えませんよ?」

「え? 江沼先生? それは、どういう……?」

「なに、辞令を心待ちにし、準備をしていなさい。そろそろ、戻っても良いでしょう」

「……はい、謹んで」


 そう、いうことなのかな。

 来年の一年生。そのクラスを……私が?

 私に勤まるのだろうか? 不安と心配が胸中を過ぎる。けれど、イルレアの信頼と江沼先生の期待の眼差しを浴びていると、どうしてか、不安が和らいだ様な気がした。


「頑張りなさい、観司先生。あなたは、まだお若い」

「来年からは一緒に頑張りましょうね、未知」

「ええ、ありがとうございます。……と、それでは、私はこれで」


 頭を下げて、その場を離れる。

 少しだけ時間が掛かってしまった。レイル先生にお任せしておけば大丈夫だとは思うのだけれど、申し訳ないことをしてしまったな。

 足早に移動すると、直ぐに、紛糾する部活会議の声が聞こえてきた。周囲に使用されている教室がないからいいものの、そうでなかったら大変だったろうに。







「お待たせしました」


 そう、ノックと共に開ける。

 けれど後ろ側の教室から入ってきて、かつ、会議の邪魔をしないように極力気配を消してきたのが悪かったのか、みんな、私に気がついた様子がない。

 ただ唯一、レイル先生だけが、口元に指を置いて“しー”と、ウィンクをしながら合図をした。



「このままでは、我が部活は廃部の危機よ! やっぱり、今度こそ新入生を獲得しなきゃ!」



 そう、みんなに熱く演説をするのは、夢さんだ。

 どうやら、来年からの部員確保について悩んでいるようであった。そうだよね、実際、今も所属をしているのは二年生のみだ。下級生を迎えないと、彼女たちの卒業と同時に断ち消えてしまう。

 それならそれでいた仕方のないことかもしれない、なんて、部活名を見てそんな感想が過ぎってしまったが、さすがにそれを口に出すのは自重しておこう。


「はい!」

「はい、鈴理」

「やっぱり、魔法少女の魅力を知って貰うには、映像資料だよ!」

「なるほど。去年の、杏香先輩のクラスでやっていた、“魔法少女展”みたいなものね?」


 と、レイル先生の陰でこっそりと聞いていたら、どうも流れがおかしくなってきた。


「は、はい」

「はい、静音」

「な、なら、いっそ魔法少女の衣装を鈴理に着せて、客寄せをするのはどう?」

「鈴理が一番小柄だものね。棟方むねかた先輩のご友人に、衣装作りが得意な方がいたはずよ。卒業式直後だし、お願いしてみるのもアリね」


 棟方君……?

 ああ、例の“キューピットさま”事件で、友達募集中だった棟方むねかた恭弥きょうや君か。確か順当に、関東特専の大学部に進んだはずだ。

 いやいやでも、衣装かぁ。


「ユメ、私もいいかな?」

「もちろんよ、リュシー」

「いっそ、ミチにアドバイザーになって貰ってぬいぐるみを作り、それを魔導で浮かせて宣伝するのはどうかな?」

「悪くないわね。リュシー、ぬいぐるみ作り、できる?」

「ふふ、これでも得意な方なんだ」


 そういえば、アリュシカさんの悪夢に潜入したとき、ぬいぐるみの姿で行ったんだっけ。

 アリュシカさんの部屋にぬいぐるみがたくさんあったようだし、飾るのだけではなく、作るのも好きなのかな?

 ……に、しても、最悪、ぬいぐるみで落ち着いて貰うのは助かります。これでまとまってくれたら良いのだけれど。


「なら、類似で一つ」

「ええ、お願い、フィー」

「いっそ研究の一環として、全ての衣装を販売するのはどうだろうか? 部費もまかなえる」


 ええっと、部費はまかなってはだめよ?

 というか、金銭のやりとりを炎獅子祭以外で行うことは、認められていませんからね?


「部費をそこで稼いで良いかはともかく、けっこう良いわね。衣装は棟方先輩に発注?」

「いや、詳細な物になると、詳しい人間の方が良いだろう。幸い、私には魔法少女全般のプロ、久遠店長に伝手がある」

「なるほど、それは――」

「――ダメですからね?」


 さすがに聞いていられなくなり、レイル先生の陰から出てくる。

 するとそれまで黙って成り行きを見守っていたレイル先生が、小さく吹き出した。


「クックッ、可愛らしいとオモうよ? ダメかい?」

「もう、レイル先生まで。……今までの中では、アリュシカさんの案に一票です」

「ミチ! 嬉しいな。ちゃんと聞いていてくれたんだね」


 はにかむアリュシカさんに、そっと苦笑を返す。

 いや、盗み聞きしていたことを罵られてもいた仕方のない場面だったのだけれど……うん、やっぱりみんな、優しくて良い子たちだ。


「師匠! 魔法少女展はだめですか?」

「ダメとは言いません。ちゃんと議論して、納得できるやり方がわかれば、それで構いません」

「はいっ」


 元気に、それでいて嬉しそうに頷く鈴理さん。

 納得してくれたのなら良かった、けれど、もう一つだけ。


「ただし、フィフィリアさん? お金儲けはだめですからね? あと、可能な限り、学外へ協力は取り付けず、学内で収めてください。無法地帯になってしまいますからね」

「む、なるほど……確かに短慮でした。未知先生。ご指導、感謝します」


 あとは正直、静音さんの案も悪くはない。

 けれど、コスプレを目的とした部活と思われかねないから、そこは立て看板やプラカードなんかで明記が必要かな。


「――その場合は、部費で購入することになります」

「な、なら、プラカードの方が安上がり、ですね」


 うんうん、なんとかまとまりつつある。

 どうなることかと思ったけれど、元々の、自由な意見を聞いておきたいっていう目的も果たせたし、文句はないかな。

 あ、でも、その前に。


「夢さんは、なにかありませんか?」

「あ。そうだった。みんなの意見を聞きたくて、忘れてました」

「ええっと、私は――うぅ、お、思い出したら言います」


 夢さんはけっこう、リーダーに向いている。

 とにかく指示を出す上司ではなく、人を優先して意見を取り組む指導者タイプだ。

 本当は自分の意見を言って引っ張ることも大事なのだけれど、それはおいおい。





 また――また、ちゃんと教えることが“出来たら”、そのときにちゃんと教えよう。

 そうでなければ……一応、一筆したためておいたから、問題は無い。





「あ、そうだ! いっそのこと全員で、映像媒介の劇でもやろうと思ってたんだった」

「ユメ、映像媒介の劇、とは?」

「そのままよ。映像で魔法少女の紹介画像をホログラムして、私たちで声と紹介を吹き込むって訳」

「ねぇねぇ夢ちゃん、それならさ、いっそみんなの合わせ技にしない? ぬいぐるみにちゃんとした衣装を着せて、動かして、声を吹き込んで劇にするの!」

「い、いいかも。それなら、て、照れずにやれそう」

「ふむ、なるほど。さすが鈴理だ」


 やっぱり……鈴理さんは、こうして纏めるのに向いている。

 リーダーの直ぐ傍で、空気の流れをがらっと変えて見せるムードメーカー。


「な、なら、役割分担を、決めておくのも、い、いいよね」

「確かに、静音の言うとおりだわ」


 そっと意見を言い、よく周りを見ている静音さん。

 気弱さは今や、気遣う様子に集約されている。動かなければならない場面では、真っ先に周りを見ることが出来る。


「なら、ぬいぐるみ作りは任せてくれ。なにせ、得意なんだ。脚本は、シズネが得意かな?」

「う、うん、やれる、と、思う」


 一番面倒な仕事は何処だろう。

 そう探して、真っ先に気負わず告げられるのがアリュシカさんだ。アリュシカさんはそのまま、良いところを探して、言い出しにくいであろう人に優しく振ることが出来る優しさもある。


「で、あるなら、衣装代の手配も必要だな。場所も、ここでは辺鄙だろう。新入生が行きやすい場所も借りよう」

「あー、そっか、代金か。盲点だったわ。ありがと、フィー」


 誰もが見落とすところを言えるのは、フィフィリアさんの良いところだ。

 気がつきにくいところに目を遣り、常に最後に意見を言える様にしている。それを成果と誇らない、驕らない強さもある。


「良いチームになりましたね」

「ヒトエに、アナタの人望があってコソだよ」

「ふふ、そうだと、光栄なのですが……はい、やっぱり一番は、彼女たちの努力があってこそ、です」

「謙虚ダネ。キミの、魅力デモあるけれど」


 レイル先生はそう、優しい眼差しでみんなを見る。

 レイル先生もこうやって、差別無くみんなを見てくれるようになった。


 だから、大丈夫。

 もし、“帰ることができなくても”、大丈夫。



「ということで、師匠、よろしいでしょうかっ?」

「ふふ――ええ、もちろん」



 申請用紙にサインと印鑑を押して、念のため(・・・・)、レイル先生にも認可のサインをお願いする。これで、心配事はないかな。








 さて、私も準備をしておこう。大事な、これからの準備を。

 世界を護るために、できる全てのことをしよう。そう、決意して、部室をあとにした。




エンディングについて、活動報告にお知らせがございます。

よろしければご一読いただけましたら、幸いです。

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