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そのじゅうはち

――18――




 オーフの手には赤い槍。

 オーフの方には銀の宝珠。


「ひははははッ、融合!!」


 オーフが蝙蝠を飛ばすと、それに赤い棘を融合。

 血で出来た棘を持つ蝙蝠が、角を向けて突撃してきた。


「【回転ロール】! 二人とも、無事?!」

「私は問題ない」

「私もっ……【流向結界(トレントバリア)】、【展開イグニッション】!」


 流れる盾。

 未知ちゃんに向かった攻撃が、あらぬ方向に流されていく。もしも貫通されても有香ちゃんに当たらない様にしているのだろう。


「加減は試してみるしかない。【龍の息吹(ドラゴニック・ロア)】」

「うぐぉぉぉッ、痛気持ちイイ!」

「……やりにくい」


 メアちゃんでも、やっぱりやりにくいんだ。

 ……でも実際、かなりの脅威だ。なにせ、わたしや有香ちゃんを巻き込んで殺そうとしているのに、未知ちゃんには手を抜いていて、メアちゃんにはそもそも攻撃していない。無駄だと思っているのだろう。

 その上で、痛みを感じられる立ち回りをしていて、あまりにやり過ぎると宿主を殺してしまいそうでなにもできない。


「鈴理、まずは妖力珠を奪う。そのつもりで動く」

「うん、わかった!」


 弾幕。

 赤黒い光が交差する中を、駆け抜ける。

 肌に掠め、服を掠め、それでも足は止めない。



「息を潜め、牙を研ぎ、獲物を見据え」



 凸凹の地面だ。

 勢いよく、それも弾幕を回避しながら走るのに向いてない。

 それでも、“狼”にはそんなこと、関係ないから。



「冷たきをそとへ、熱きをなかへ、心意に満ちるは刃の如く」



 だから。

 わたしは。



「故にこれぞ――」

「なっ、いつの間に?!」



 一足飛び。

 重力軽減、摩擦熱操作、干渉を制御。




「――狼の矜持!!」




 飛びかかり、超高速回転させた平面結界フラットバリアを叩きつける。

 それは悪魔なら誰しもが持つという“膜”を切り裂いて、肩に嵌められた妖力珠までの道を切り開いた。


「ぬぉぉぉッ?!」

「はぁぁぁッ!!」


 そして、妖力珠に手が、触れて。


「っ」


 轟音。


「なぁっ」


 崩落した洞窟の天井。

 岩の固まりが、わたしとオーフの間に落下する。

 そのせいでオーフの身体は大きく弾かれ、後方に転がって行ってしまった。


「は、はは、くははははっ! どうやら運は俺について回っている様だ!! 歪みを成せ、妖力珠よ!!」

「っ」


 妖力珠が鳴動する。

 その輝きは瞬く間に大きくなり、やがて、銀色の妖力珠と赤い槍が近づいて。




「融合――疑似次元槍“カズィ・ドラクリア”!!」




 槍と妖力珠を、融合、させた。


「っメアちゃん」

「ええ。あれは、在るだけで歪みを生む。壊さないとならない」


 周囲の空間が歪む。

 持っているだけでオーフの身体から血が噴き出し、周囲を染めていく。

 早急に破壊しないと――融合されている人間が、死んで、しまう。


「鈴理」


 静かな問いかけに、肩が、揺れる。


「見ず知らずの、それも犯罪者。アレを助けるためにあなたが苦しむ必要は無い」


 でも、そうやって、見捨てて。

 わたしはわたしとして、みんなの元に、笑顔で帰ることができるのかな。


「麻薬は人を壊す。快楽は苦痛よりも甘く、幾度となく生物を貶める。人を人のまま壊すようなものを、欲のために売りさばいていた人間を許すべきではない」

「許すつもりなんかない。でも、でもやっぱり、法の下で裁かれるべきだとも、思う」


 なにより。

 殺すと決めたら、きっとわたしよりもずっと早く、メアちゃんが手を下すのだろう。わたしはわたしのために、メアちゃんの手を汚したくない。でもそうすると、メアちゃんだって帰れなくなる。


 なら。

 結局答えは、一つしか無いのかな。


「鈴理」

「うん、ちゃんと、覚悟を決めるから」

「わかった。時間稼ぎはする」


 飛び出していくメアちゃんを見送る。

 そんなに時間がある訳じゃないんだ。


「鈴理、大丈夫?」

「未知、ちゃん」


 心配そうに覗き込んでくる顔は、いつもの師匠の顔によく似ていた。

 若くなっただけだもんね。それは、似てるのは当たり前なんだけど、心配そうな顔が師匠と被る。


「話、聞いていたよ」

「っ」

「殺すとか、殺さないとか、私は子供(・・)に――あなたたちに、そんな選択肢を選んで欲しくない。戦いに塗れた世界は終わったのに、そんなことに悩ませる時代は、終わったのに。だから、私に出来ることはなんでも言って。どんなことでも、するから。私に出来ることを、教えて」


 まっすぐに、わたしを見てくれる未知ちゃん。

 でも、いったいなにを頼めば良いのだろうか。



「せめて、変身ができれば――」

「あ」

「――ん?」



 変身。

 変身の強要はできない、なんて思いがあって、無意識に選択肢から除外してた。でも、変身してくれる気は合って、それが“できない”という理由だったら?

 確か師匠は――魔法少女の力を失ったと、勘違いしていた。そう、言っていなかった?


「あの、未知ちゃん」

「なに? 鈴理。遠慮せずになんでも言って」

「実はその、未来の未知ちゃんは、できるんだ。“魔法少女”への、変身」

「え……は? え? 本当に? 別の世界だからではなく?」

「う、うん。師匠――未来の未知ちゃんも、できなくなったって勘違いしていた、みたいだから」

「えっ、鈴理、師匠……って、私の弟子なの?」

「あ、えっと、はい」


 わたしの答えに、未知ちゃんはなにやら考え込む。

 それからやがて、決意をした様に頷いた。


「それなら――魔法少女の力なら、なんとか、なるかも」


 そう言って、未知ちゃんはわたしから数歩離れる。

 そして、いのるように両手を合わせて、瞳を閉じた。




「お願い、神さま――私に授けてくれたあなたの力を、もう一度、使わせてください。私の大事な友達の心を、護るために。だから――来たれ」




 未知ちゃんの祈りの言葉は、よくは聞こえない。

 けれど、その手の中に、光が満ちていくのはわかる。



「来たれ、来たれ、来たれ――」



 そして。




「――来たれ【瑠璃の花冠】!!」




 瑠璃色の光が――洞窟を、埋め尽くした。




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