表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/523

そのよん

――4――




 跳ぶ、跳ぶ、跳ぶ。

 跳んで、走って、走って、跳ぶ。

 夜の帳が降りてきた街並みを、ビルの上から移動する。


「彰君、不自由な思いをさせてごめんね。もうすぐだから!」

「ぼ、ボクの方こそ……っ」


 彰君を横抱きにしたまま、向かうのは大きな公園だ。

 扉を破って追いかけてきたのは五人。私が一人倒したから本来は七人のはずだけれど……二人分、“力を分けた”のかな。

 さっきまでは身体強化フィジカルエンチェントについて来られなかったはずなのに、今は張り付くように追いかけてくる。なら、敵わないと思わせて、本体を引き摺り出すのが先決か。

 時間稼ぎをして警察を待つのも手だけど……。


『おお、お』

『うぐぁああ』


 うん……それでは、依り代が保たない。


「【術式開始オープン形態フォーム地形展開陣エリアバレル様式アーム厭人結界プレイフィールド付加パーツ遠地指定発動ポイントスターター展開イグニッション】」


 眼前に見えた公園に、人が近づかなくなり、退去する結界を張る。

 元々、夜にさしかかった公園は人もまばらだ。結界を張って直ぐに、無人の空間を作ることができた。


「着地するよ! 【速攻術式セット――」

「は、はい」


 勢いよく地面に着地。

 土煙と共に大きく滑り、威力を殺し。


「――捕縛バインド展開イグニッション】!」

『うぐるぉぁッ!?』

『ぎぇアッ!?』


 振り向き際に、飛びかかってきた二人を空中で纏めて捕縛。

 彰君を降ろして、転がるように前へ飛び込む!


「【速攻術式セット麻痺パライズ展開イグニッション】」


 捕縛した二人に麻痺を与えて、行動を封じ。


「すぅ……はぁッ!」

『がうッ!?』


 後続の三人のうち、一人が着地する間際に麻痺を加えた掌底をたたき込む。

 二人は着地されてしまうが、構わない。操られているだけの人形よりも、私の戦術勘の方が、速い!!


「【速攻術式セット影縫いの剣(シャドウバインド)展開イグニッション】!」


 二人の足下に、影縫いの魔法。

 ぴたりと動きを止めた二人の間に、身体を横回転させながら割り込み、遠心力の反動で掌低を顎にたたき込む。


「せい!」

――ズ、ダダンッ!

『あぎっ!?』

『ぎゃぐっ!?』


 麻痺。

 同時に影縫いから解放。

 二人の身体が傾いて、倒れる。


 意識を封じただけではむしろ操りやすくさせてしまうだけだが、麻痺は別だ。

 確実に身体の自由を奪うので、操られることすらなく倒れ伏す。


「す、すごい……これが、特専の、教員――!」


 うん、ごめんね、彰君。

 こんなに戦闘に手慣れた教員、実のところそんなにいないんだ……。

 ま、まぁ、それはいいか。特専の株が上がるし、ね!


「彰君、怪我はない?」

「は、はい! すごいです、未知先生」

「えーと、うん、ありがとう。でも、まだ終わりじゃないんだ」

「え?」


 そう、麻痺をさせて操れなくする。

 それは無力化だけが目的では、ない。


『オォォオオォォオオオォ』

「ッ、あれは!?」

「憑依していた低級悪魔ね。抜け出して合体、というところ、かな」


 合体中に狙うのが一番なのだが……こういった場合、合体しきるまでの間は“依り代”と何かしらの繋がりが残っている可能性がある。

 素直に合体を待って、それから攻撃をしないとならない……ので、とりあえず、強化された身体を使って、倒れている浮浪者やチンピラの方々を、茂みに投げ込んでおく。

 ……うん、手荒なまねしてごめんなさい。急ぎだったんです。


『オオオオォォォォオォッ!!』

「中級悪魔ってところかな……【術式開始オープン形態フォーム攻勢展開陣アタックバレル追加プラス防御展開陣ディフェンスバレル様式アーム短縮ショートカット付加パーツ時限リミット十分(600)起動スタート】――彰君は、下がっていて」

「で、でも!」

「大丈夫。お姉さんに、任せて」


 ウィンクを一つ残して、駆け出す。

 泥のような形状だった悪魔は、その形をヘドロでできたゴーレムに変えていた。

 悪魔は口を歪ませて咆吼すると、口から泥の固まりを吐き出す。


「【防御陣ディフェンサー】!」


 短縮ショートカットして展開したバリアで泥を防ぎ、足首のステップで重心をずらさず側面へ。


「【切断スラッシュ】!」


 悪魔の腕を切り落とし。


「【弾丸ブレット】」


 悪魔の膝に穴を開け。


「【爆裂エクスプロージョン】!」


 その頭部を、吹き飛ばす!


『――ッ!?!?!!』


 傾く巨体。

 だが、錯乱はしているが、倒れる気配はない。

 倒しきれない、か。なんて丈夫!


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…………すぅ――はぁ……」


 息を整えて、悪魔を見据える。

 こちらの方が消耗は激しい。警察が早く来てくれたら良いのだけれど……たぶん、遅れている理由は私が高速で場所を動きすぎたせいだろう。

 ううむ……依り代が人間でなかったら、公園まで引っ張る必要なかったのになぁ。


 仕方ない。

 もうひと踏ん張り――


「危ない!!」

『オォオオオオオオオオオォオ!!』


 ――ッもう一体!?


 わき出た場所は、吹き飛ばした泥があった場所。

 核を潰さないと無限増殖するタイプ? それとも、依り代になにかあった?

 彰君の声が無かったら危うかったほどに、気配が薄かった。なら、核を持つ個体以外は、使い捨て量産型か!


「【一点防御ピンポイントバリア】!」


 張った結界で、背後からの一体を防御。


「【切断スラッシュ】!」


 振り向かずに、後方に斬撃。


「【半円結界ハーフバリア】! ――っ」


 一点防御が破られる。

 合わせて結界展開。状況の立て直しを。


「【エクス――しまっ」


 爆裂魔法を展開する直前。

 足を掴む、泥の腕。


 壊れる結界。

 迫る、泥。


 そして。


「ボクはもう――迷わない!」


 光が、弾けた。























――/――





 ボクは。


『大丈夫? 彰君』


 ボクは。


『ふふ、楽しみにしてるね?』


 ボクは――。


『歩くことを決意したのは、彰君自身だよ』


 ボクは――何故、こんなところで燻っているのだろうか?





 名家に生まれた。

 古代から京の都を守護し、妖怪たちを狩り、技を磨いてきた退魔師の名家だ。

 ボクの家はその中でも上位の家であり、幼い頃から血統のみ扱える特殊な技を磨いて、磨くことを強要されて生きてきた。

 ボクよりもずっと優秀な姉さんは、ボクが物心の付く前に、“やりたいこと”を認めて貰えず出て行った。

 だからスペアでしかなかったはずのボクは、やりたいことがなんなのかもわからずに生きて、楽しいことも嬉しいこともわからず生かされて、それがたまらなく嫌で……怖かった。


 だから、逃げた。


 みんなが教えてくれる“あの戦い”で、魔王の襲来で本来の当主たちはみんな、戦える身体ではなくなったり、亡くなられたりしたという。ボクの家も“そう”で、だからボクは十五才の誕生日を迎えると同時に、元服の儀式を行い、当主となる。

 なにも知らないまま。ただ、姉さんの残した成績と比べられる劣等感と、自分の中身が空っぽだっていうことへの恐怖を抱えたまま、また、人形のように生きてボクみたいな人間を、人形を作らなければいけなくなる。


 それが、たまらなく怖かった。


 だから、逃げた。

 元服前、東京で会合を行い、その帰りに抜け出した。

 抜け出して、彷徨って、あの人たちに絡まれて――そして、出会った。


『大丈夫?』


 年上の、綺麗なおねえさん。

 未知さんは、何も聞かずにボクの背中を押してくれた。


 二人で食事をして。

 ――今まで食べたどんな高級な料理よりも、美味しくて。

 二人で観光に出かけて。

 ――今までみたどんな名所よりも、胸に響くような光景で。

 二人で、遊園地へ、出かけて。

 ――今までに体験させられたどんな娯楽よりも、ずっとずっと、楽しくて。


 生まれて初めて、満たされた。


 なのに。


「【防御陣ディフェンサー】!」


 結界を張り、弾丸を放ち、光を振るう。

 舞い踊るように戦う未知さんの額に浮かぶのは、きっと、焦燥の汗。


 ボクの心を守るために、見ず知らずのボクのために遊びに連れ出してくれた未知さんが。

 ボクの体を護るために、弱く役立たずなボクのために必死になって戦う未知さんが。


 傷ついていくのを護れずに。

 ただ見守ることしかできない自分で。


 本当に、あの誓いを果たせるのか?

 いつか必ず、未知さんの手を取れるような男になるという誓いが、守れるのか?


「【拘束術式解放】」


 左腕の腕輪が輝くと、黒い表面が砕けて緑の水晶が露わになる。

 本来ならば、未知さんのように特殊な職につき、特殊な申請をした人間でなければ、能力や魔導術を扱った瞬間に警告と通報が施される。それは、端末から一定時間離れていても同様だ。

 けれど、“特殊な立ち位置”の人間に限り、自由に異能の力や魔導術を振るうことができる。


 その証こそが、この腕輪。

 使えば、もう、ボクはこの未来から逃げることはできなくなることだろう。

 それでも構わない。それでも良いと、全てから逃げ出しはしないと覚悟をした今ならば、どんな未来とも戦ってみせるから。


 だから。



「【発動――“光掌拳こうしょうけん”】」



 だから!


「ボクはもう――迷わない!」


 貴女の手を取れる男になります。

 ボクの未知さん(初恋のひと)!!





2017/04/02

誤字修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
少年の性癖がねじれてきしむ音が聞こえる⋯。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ