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そのにじゅうよん

――24――




 サーベが。

 アリスちゃんが。

 春花ちゃんが。

 馨が。

 凛が。

 テイムズさんが。


 差し伸べてくれた手に、敬意を払います。

 あなたたちの、愛と正義こそが、きっと、なによりも私の希望だった。

 だから次は、私の番。あなたたちが決して間違っていなかったと、示したいから!!




「来たれ――【瑠璃の花冠】」

「ぬぅッ、な、ニィッ?!」




 ワル・ウルゴの放った次元剣の一撃を、私は頭上に掲げた杖で防ぐ。

 神器ともいえるミョルニルすら切り裂いた一撃を受け止めたことで、ワル・ウルゴは唸るような驚愕の声を上げた。


「未、知? おまえ、それは……」

「サーベ――あなたの、あなたたちのおかげで、私は本当に大切なものを見つけることが出来た。……ありがとう」

「ハッ、水くさいことを言うんじゃねぇよ。なんのことだかわからねぇが――仲間、だろうが」

「ふふ。やっぱり、ありがとう、が正しいよ。だから、今度は私の番よ」


 もう、迷わない。




 ――ピコンッ




 軽快な音が、叫び声と怒号の空間に響く。

 その音を前に、誰も身動きを取ることが出来ない。

 ワル・ウルゴは飛びかかる途中で動きを止め。

 テイムズさんの稲妻も、不思議と、空中で霧散した。


「また貴様か呪術師ィィィッ!!」

「ちょっ、アタシじゃないわよ?!」

「待て、何故、私の稲妻も掻き消えている? いや、攻撃姿勢が取れないだと!?」




【魔法少女のハート成長を確認!】




 ――テレンッ




 音声は、私にしか聞こえない。

 ただ、軽快な音はステッキから、チカチカと眩く明滅を繰り返しつつ響く。



【ヴァージョンアップ承認! 次回から、魔法少女衣装サイズが十二才用に変更!】

【小児から少女への階段をスキップ! 掟の一部に変更が加わるよ!】




 ――ラピッ☆




【さぁ、今日もみんなで、愛と正義の魔法少女を応援しよう!】




「女ァァァァッ!! どうせ貴様だろう?! いったい、なんのつもりだ! 何をしたァァァァッ!!」

「ぐ、づぅ……いや、この状況で未知になにができるっていうんだこの豚野郎いい加減にしろよ」


 手の中に、仄かな熱を感じる。

 これだけは残念だけれど、私の成長期は十五才からだった。十五才まで、衣装のサイズに大きな変更はない。

 息を吸う。大きく吐き出すと、失っていた輝きが、戻ってくるようにさえ思えた。


「未知……?」

「大丈夫。だから、私に任せて」

「なに、を?」


 立ち上がって見据えるのは、血走った目で私を見るワル・ウルゴ。

 悪いけれどこの瞬間も、“前準備”の一環だ。まだ、戦闘行動は取れない。


「ワル・ウルゴ・ダイギャクテイ――今日は特別サービスよ。あなたを地獄に誘う福音、その身に焼き付けなさい!!」

「なに、をッ?!」

「【瑠璃の花冠】よ、その力を示せ」


 瑠璃の花冠に、光が集う。

 始まりの時からずっと一緒に戦ってきた、魔法少女の杖。

 以前(・・)は、この子も傷つけてしまったけれど、今度はあなたの力、ちゃんと使わせて貰うね。

 そう、ステッキの中央に口づけをすると、呼応するように煌めいた。



「我が心に絆の橋を――接続【魂核内壁(コアシフト)】」



 ステッキの中央に、一筆書きの六芒星が浮かび上がると、それが私の胸の中央に照射。

 ステッキと心を繋げ、魂の奥底から力を引き出す“とっておき”が成立すると、服の上からでもわかるほどにハッキリと、花の紋章が背中側に輝いた。



「導きに応えて示せ――【魔法魂剣ディア・プリズムナイト・ブレイド】」



 次いで、ステッキが光に包まれる。

 現れ出でるのは、瑠璃色の水晶で象られた麗しい剣。



「我が声に応えて開け、夜の花――【夜王の瑠璃冠クラウン・オブ・ラピスラズリ】!」



 光輝く夜王の剣が、私の前に浮かび上がる。


 血走った目で私を見る、ワル・ウルゴ。

 困惑しつつも、信じて見守ってくれる、大切なひと(仲間)たち。




 さぁ、今日も、魔法少女を始めよう!






「【アルティメット・ミラクル・トランス】っ!!!!」






 眩いばかりの瑠璃色が、瓦礫だらけの施設に満ちる。

 ☆と♪と♡と、※字幕。服と眼鏡が光に溶けて、瑠璃の光が巻き付いた。





【※愛と正義と希望の魔法少女は】

【※魔法のステッキと心を通わせることにより】

【※その真なる力を引き出すことが出来るのだ!】



【さぁ、戦え、魔法少女よ!!】





「なんだ、この光は?!」

「ぐっ……おい、どうした未知! チィッ、傷さえ、無ければ――って、なんで脱いだ?!」




 大丈夫。

 大丈夫だよ。


 これは、ピンチをひっくり返す奇跡の技だから!






「人の心に闇が満ちるとき」

――夜色の手袋、瑠璃色の籠手、黄金で刻まれた花の紋章。

「誰かの悲しみで、空の色が曇るとき」

――夜色のニーハイ、瑠璃色の脚甲、黄金で刻まれた星の紋章。

「希望と奇跡の光から現れて」

――夜色のインナー、瑠璃色の肩当て、銀の胴鎧、透き通った青のフリフリ。

「愛と正義の御技で闇を祓う」

――夜色のスパッツ、膝上二十五センチの瑠璃色フリフリスカート。

「天下無敵の最強少女」

――ツインテールに星飾り。目元には星のメーク。イヤリングは花模様。

「魔法少女ミラクル☆ラピ! 第二期モードで華麗に見参ッ!!!」

――その装甲系キュートな衣装の全てをピチピチぱつぱつにして。






「さぁ、悪い子は、このミラクル☆ラピが、オシオキよ♪」

――ミチミチと胸元を軋ませながら、ピチッとポーズを決めて見せた。






 ぷるん、ぷるん、と揺れる胸。

 がくんっ、と口を開けたまま動かないワル・ウルゴ――と、みんな。


「み、未知、おまえ、えーと、えっ?」

「サーベ」

「お、おう」

「今はただ、見守ってちょうだい」

「は、はい????」


 私の、あなたたちへの恩は、行動で示すから!


「夜王の剣よ!」


 振りかざす瑠璃の剣。

 眩い☆のエフェクトが、私ごと剣を包み込む。

 これもポーズの一環だ。いや、夜王の瑠璃冠は“決戦の魔法少女モード”でしか使ったことが無いから、この第二期モードとかいうのは初めてだったりする。だから私でも挙動がよくわからないけれど……ちょっと難しい言葉を使っても、少女力が下がらなくなっているみたいだ。


「ふ、ふざ、ふざけ、ふざけるな、ァァァァァァアアアッ!!」


 怒りの余り、呂律が回らないワル・ウルゴ。


「罪人の裁きを行う神聖な場でェェェェツ!! そのようなふざけた格好がまかり通ると思うたかァァァァァッ!!」

「魔法少女の神聖な衣装を馬鹿にしたら、神さま、怒っちゃうぞ☆」

「我が神を侮辱するか下郎がァァァァァァァァッ!!!!!!」


 顔どころか腕まで真っ赤にしたワル・ウルゴが、最早これは悲鳴なのではないかと言えるほどの絶叫をあげながら、次元剣片手に突っ込んでくる。

 さりげなく次元吼ディメンション・プレッシャーも併用してくるが――


「ラピラピステップ最初の一歩」

「キィェエエエエエエエエエエェェッ!!!」

「きらきら、ぽんっ」


 ――斜め前にステップを踏みながら、効果音で現れた☆を投げつける。

 私は次元剣の一撃を避けながら、次元吼ディメンション・プレッシャーをステップで相殺。誤って☆(物理)に斬り掛かったワル・ウルゴの剣に、罅が入る。


「はっ?」


 呆然と剣を見るワル・ウルゴ。

 その腹に、ステップと共に回転蹴りをたたき込むと、音の残響だけその場に残して、ワル・ウルゴの身体が木葉のように吹き飛んだ。


「えーい!」


 轟音。


「ギッ?!」


 地響き。


「きらっ」


 踏み込んだ私の足下にクレーター。

 壁にめり込んだワル・ウルゴの背にクレーター。

 土煙の向こうから動かないワル・ウルゴを尻目に、私はらぴっとポーズをとった。


 さて、考えないようにしていたけれど、周囲のみんなから声が聞こえない。

 やっぱり引かれてしまったのだろうか? 痛む胸を誤魔化して、みんなに目を向ける。






「キャァァァァァ、かわいいいいっ、未知ぃぃぃっ、こっち向いてぇぇぇっ」

「馨、ミョルニルで目玉を洗ってやるから顔を向けろ」

「あの、テイムズさん、私の目玉も洗って下さい。あれ? おかしいな? あれ?」

「ちょっとみんな、落ち着いて。チョコレートじゃないんだから目は洗えないわ」

「……なるほど。あれは、あれで」






 ……ええっと、意外と受け入れてくれているかも?

 いや、ちょっとみんなテンションはおかしいけれど、気味悪がったり怖がったりはしていない。ポジティブな感情すら、伝わってくる。

 ああ、だから、背中を押される。まだ、頑張れるって思わせてくれる。


「サーベ、私ね」

「ばっ、ばば、ばかやろう! そんな格好で近づくと、み、見えっ」

「え? あっ――」


 サーベの視線の先。

 そこには私の、残念ながら極限まで短いスカート。

 思わず裾を握りしめて、私は数歩さがった。


「――み、見ちゃだめ」

「誘ってんのかこの鈍感ポンコツ天然女」

「えぇっ?!」

「うぐぐ、傷口に響くだろうがこの、ほんと、いい加減にしろよクソが」


 傷口を押さえてうずくまるサーベに、慌てて駆け寄る。

 それから意識を集中して霊力を送り込むと、瞬く間に傷が塞がった。なんだろう。この地には“魔法少女への信仰”という縁から生まれる力はないはずなのに、この力。

 私の世界に戻ったら、おいそれと変身できなくなるかも知れない。そう思わせるほど、力が満ちている。


「――これは……傷が……?」

「驚かせてしまって、ごめんなさい。私がもっと早く――いたっ」


 額に感じる熱。

 デコピンをされた、と気がついたのは、顔を上げて苦笑する彼と、目が合ったことだった。


「ばーか。細かいことをいちいち気にしてんじゃねぇよ」

「そうよぉ、もう、水くさいんだから」


 馨がそばに来て、肩に手を置いて。


「おまえがびっくり箱なのは、とうの昔に承知している」


 サーベの隣に座り込み、微かにそう笑うテイムズさん。


「びっくりしちゃいましたけど、お姉さんはお姉さんです。私たちの、大好きなお姉さん」


 ちょこんと私に並んで、照れながらも言い切る春花ちゃん。


「この作戦の相棒は私でしょう? 信頼しているから、自由にやっていいのよ、未知」


 そう、春花ちゃんの肩に手を当てた凛が、柔らかく微笑んで。


「未知。あなたはもう、ずっと前から、私の大切な人。だから、どんなあなたでも、受け入れる。それが、仲間だよ、未知」


 私の手を握りしめたアリスちゃんが、優しく微笑んでそう告げた。


「っつぅ訳だ。気軽にぶちかましてこい!」

「ええ!」


 立ち上がって、剣を片手にワル・ウルゴを睨む。

 きっととっくに意識を取り戻していたのだろう。彼は、憎悪を滲ませながら力を蓄えていた。それは、私の世界のワル・ウルゴも片鱗を見せた、“第二形態”。

 肌に漆黒の紋様を浮かび上がらせたワル・ウルゴは、次元のひずみで出来た剣を手に、立ち上がった。


『ウルググゴゥアオ……――オァァァァァァアアァァッ!!』


 咆吼。

 もはや理性を捨てたバケモノになったワル・ウルゴに、同情の念は浮かばない。

 誰かを踏みにじって生きてきたのであれば、報いを受けなければならないのだから。




「【祈願セット】――我願うは、悪を払う光」

『シィネェエエエエエエエエエエッ!!!!』

「【幻想アーム】――我請うは、希望を導く輝き」

『グルォオオオオオオオオオオッ!!!!』

「【瑠璃王閃剣ブレイド・オブ・ラピスラズリ】――瑠璃の王冠よ、悪を断て」




 輝く剣で、次元のひずみを切り捨てる。

 衝撃で空気が震え、瓦礫の破片が砂になり、渦巻く憎悪の先に、狙いを定めた。




『オ、オオオ、ォオ――』

「これで、終わり。消し飛ばせ、【成就イグニッション】!!!!」

『――オオォァアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!!』




 光の柱が、施設の天井を打ち破る。

 それはワル・ウルゴごと全ての階層を消滅させ、夜空に“穴を開けた”。

 だから――今ここに、もう一度、力なき人々へ、誰かを守るための牙をもたらそう。



「【修祓奏上オープン現想フォーム秩序創造ルールクリエイト】」



 救えない誰かを。



「【幻創アーム力なき者に新たな才を(ギフト・プラス)】」



 拭えなかった涙を。



「【献饌パーツ命名契約コントラクト魔導術法デミ・マジック・プラス】」



 避けられなかった過去を。




「【重奏ハーモニクス祈願成就イグニッション】」




 全て、過去の物にするために!



「魔法の力よ、魔導となりて、ここに希望を結んで」



 瑠璃色の光が空に満ち、澄み渡った光の雨が降り注ぐ。

 それはまるで、希望を象徴とする曙光のようにさえ見えて。




「これにて、魔法少女の正義は執行。ラピは今日も、ミラクルキュート! だよ☆」




 びしっととったポーズが、なんだかいつもより、かちっと決まった気がした――。

































――/――



 世界に“新しい法則”が生まれ、それはまるで光の雪のように降り注いだ。

 誰もが空を見上げ、人種にかかわらず抱き合い、それぞれの言語で祝福の声を上げる。

 世界の理想。柔らかな慈愛。全ての者への、幸福の誓い。


 魔法少女の“想い”の具現が、柔らかに舞う。


「時子さま、わかりますか?」


 ハワイにある屋敷でも、その光景は変わらない。

 世話係の千歳が襖を開けると、雪が舞い込んできた。それは身体に当たると温かさを残してうっすらと消えていき、千歳はそれを救い上げて、息を吐く。優しさに、満たされるように。


「これ、は」

「おそらく、彼らがやったのでしょう。……時子様?」


 動揺した様子の時子に、容体が急変したのかと、千歳は慌てて駆け寄る。

 けれど、千歳は想像と“真逆”の光景に、目を見開いた。


「それは、まさか」


 呪いに侵されていた時子の身体は、ただれた火傷の痕のようになっていた“はず”だった。


「ええ、そのようね」


 微笑む顔が引きつることはない。

 包帯が緩く外れ、白い肌が光の雪に晒される。

 それは正しく、祝福であったのだろう。


「呪いが、融けて消えていったみたい」


 “不幸を、繰り返さないために”。

 未知の願いは、世界に満たした新しい法則とともに上書きされる。

 それは、これまでの世界で苦しんだ人たちの、救いとなるようなものでもあったようだ。



 だから。




「――ありがとう、未知」




 時子は空に、そう零す。

 自分を慕ってくれた妹分の彼女が、同じ空を見上げてくれていることを、祈って――。



2017/10/03

後半部分、時子解呪の描写が丸々抜けていたため、直しました。

2017/10/25

誤字修正しました。

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