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えぴろーぐ

――エピローグ――




 あの忌まわしき事件の後始末が終わったのは、あれから一週間も経ったあとのことだった。

 英雄の叛逆というものは、防がれたことだとしても、人々の胸に傷跡を残す。

 だから獅堂が政府の高官だとかいう方と連絡し、その事実は隠蔽されることとなった。

 代わりに、今回のことで力不足を感じた、という体で仙じいは現役を退き、以降は隠居をすることになったという。


 だから、私は、その前になんとか時間を取って貰った。


「仙じい、調子はどう?」


 特専近郊の小屋。

 茶の間に腰を下ろし、茶を啜る仙じい。

 その姿に、以前までのような覇気は無い。


「ほっほっほっ、案外悪くはないのぉ。後遺症をなぞ考えもつかんほどに、危険な技だったんじゃがの」

「身体を大事にしてよ、仙じい」


 もう、私の家族は仙じいだけになってしまったんだから。

 もちろん、一連の事件で死者はいないとは言え、犯した罪は大きい。幾人ものひとたちの心に傷を付けてしまったことは、否定できるものではないだろう。

 それを庇ってしまってはならない。どんなに、仙じいと離れることが辛くとも、絶対に。


「何故じゃ?」

「何故?」

「そうじゃ。儂はお主を裏切った。ならば、何故恨まん?」


 恨む、恨むか。

 憎めという、ことか。


「憎めないよ。仙じいは、私のおじいちゃんだから」

「――その甘さに、いつか足を掬われても、か?」

「ふふ、大丈夫だよ。仙じいを恨まないのは、他にも理由があるんだよ?」

「ほう?」

「あのとき、獅堂も、七も、私のことも、仙じいは殺しはしないって言ったよね? だから私は、“それ”を信じる」


 殺したくないと。

 どんなに、自身の野望に邪魔な存在だったとしても、殺さないと言った仙じいの言葉。

 私は、恨むよりも信じたい。だから、そのたった一言で信じられる。


「そう、か」

「うん」

「そうか」

「そうだよ」


 目を瞠り、やがてゆるゆると目を閉じる仙じい。

 その声は穏やかで、そして、少しだけ震えていた。


「未知よ」

「なに? 仙じい」

「気をつけよ。世界は、主が思うよりもずっと、悪意に満ちている」

「うん――うん、“知ってる”よ。だから、大丈夫」

「そうか……なら、儂も、安心できるわい」


 私の答えに、満足してくれたのか、仙じいは小さく微笑む。

 仙じいが何故、ここまで思い詰めてしまったのか。何故、悪魔の力を取り込んでまで世界を手中に納めようとしたのか。

 その理由は仙じいだけのものなのだろう。それだけは、頑なに答えようとはしなかった。ただ、時子姉だけには、いつだったか詳しい理由を話していたらしいけれど。


「時間じゃろう」

「うん。また、会いに来るね」

「ほっほっほっ、自重せい」

「もう、いつか、だよ」

「それと」

「なーに?」

「すまんかった」

「うん、いいよ。私は、仙じいを許すよ」

「そうか」

「そう」

「ああ――そうか」


 一つ、礼をして席を立つ。

 俯いた仙じいの、湯飲みを持つ手に、丸い雫が伝っていた。








 空を見上げる。

 澄んだ青空は、突き抜けるように晴れ渡っていた。

 でも、なんだろう、狐の嫁入りとでも言うのだろうか。


 日差しを遮るように伸ばした手に、水の後がつく。

 きっと、雨でも降ったのだろう。




























――/――




 淀んだ空。

 荒れ果てた大地。

 溶岩の中央に浮かぶ、漆黒の監獄。


 その中央に建った塔の一室は、真紅と黄金と紫水晶に覆われた、絢爛豪華な牢だった。


「ディロー、ディロウドー? もう、返事をしたら直ぐきなさいよー」


 牢の中から響く声は、幼く可憐で――そしてどこか妖艶だ。


「ディロウド=ウル=ギグ! 返事をしなさいよー。暇つぶしに付き合わないならめちゃくちゃにしてお散歩に行っちゃうよー?」


 拗ねたような声。

 そこに込められているものは、子供らしい無邪気さだ。

 無邪気な残酷さ、と、そう言い換えてもいいかもしれない。


「もしかして、死んだのかしら? 泣いて頼むから居てやったのにー」


 少女は歩く。

 そして軽く手をかざすと、牢獄の壁が“ひねり潰された”。


「んふふ、もう、後悔しても遅いよー? ふふふふっ、あは、あはははははははははっ」


 淀んだ空に、笑い声が響く。

 それはまるで不吉な鐘のように、“魔界”の大地を覆っていった。












――To Be Continued――


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