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そのご

――5――




 そもそも、今回城崎さんが主役を演じる“炎舞の歌姫”とはどんな作品なのか。

 諸々の確認を含めて、それを振り返ってみようと思う。


 物語は終始、世間を賑わす謎のアーティスト、美玲の視点で綴られる。

 彼女は顔出しを嫌い、歌声のみでネット配信を続けて話題になった、“歌姫”の異名を持つ女性だ。彼女は独特な感性でもって各地の遺跡や自然の光景と心を通わせ、心の奥底から“歌”を導き出していく。

 そんな美玲が旅先で偶然であったのが、フリージャーナリストの工藤だ。工藤は美玲の正体が歌姫なのではないかと思い、美玲について回る。そのうちに遺跡を狙う異能犯罪者とかち合い、補助に特化した魔導術師である美玲は徐々に追い込まれ、危機に陥ったところを工藤に助けられるのだ。

 顔を見られた異能犯罪者に狙われる美玲。そんな美玲を支え、助ける工藤。やがて二人の間に愛が芽生え、二人は異能犯罪者に立ち向かうために手を取り合う。


 ……と、そんなストーリーだ。

 その最初の舞台となるのが、石垣島だ。ここで海を眺めて心を澄ませていた美玲に、工藤が声をかける。そのストーリーのままに、獅堂は私を石垣島に連れてきた、というわけだ。


「ほとんど仕事だが、まぁボランティアだ。ほぼプライベートで来る沖縄はどれくらいぶりだ? 未知」

「いえ、実はないのよ。ずっと仕事か学校行事だけ」


 そう考えると、それはそれで少し寂しい気もするなぁ。

 というか、プライベートはいつも日帰りで行けるところばかりだったような気がする。もう少し色々と落ち着いたら、ポチとリリーと三人で家族旅行でもしようかな。

 今のうちに色々と下調べをしておこう。いや、一緒にあれこれ決めるのも楽しみの内かな? うん、なんだか楽しみになってきた。


「海を見て、思いを馳せる、かぁ」

「俺と最初に出会ったのも、そういや海だったな。覚えてるか?」

「ふふ、忘れるものですか」


 当時、常にステッキを小型化してキーホルダーにしていた私は、キーホルダーから鳴り響くアラームと流れ込む映像により、悪魔が暴れている情報を得ることが出来ていた。

 今はほら、アラームが流れると困るから携帯は出来ないけれど、当時はそれで悪魔の元へ向かい、戦っていたのだ。そうやってアラームが鳴り、海上で悪巧みをしている悪魔を発見。変身して向かっていくと、悪魔は何者かと交戦していた。



『ふっ……我が腕はこれ即ち紅蓮なりッ!!』



 そう、なんだかこう思春期の色んなものをこじらせてしまったような少年。

 当時、中二病真っ盛りであった彼こそが、それから今に至るまで腐れ縁の続く“仲間”であった、獅堂だった。

 恐ろしいほどに整った顔立ちから放たれる、中二病ワードの数々。そして、発火能力というポピュラーな力を鍛え上げて、空まで飛んで見せた才能。



『我が紅蓮こそ、命の炎! 燃え上がれ、“極炎アルティメット・フレイム”!!』



 そう、格好良くポーズを決めながら燃え上がり、爆発。

 どうやら暴走したようで、きりもみしながら吹き飛ぶ彼を救出し、片手間で悪魔を倒した。それから地上に彼を降ろしてさぁ帰ろうというところで、びっくりタフネスで回復した彼に捕まったのだ。

 その時、獅堂はなんて言ったのだったかな。……ああ、そうそう、思い出した。ふふ、そうだったそうだった。


「『俺は負けたわけじゃない。覚えておくがいい魔法少女。我が名は九條獅堂――おまえを越える男だ』……だったかな? し・ど・う・クン?」

「おまえさぁ、そういうところだけ丸々覚えておくの、辞めてくれよな、マジで」

「なに? 自分の言動に恥じるなんて珍しいじゃない」

「うるせぇ。負け犬の遠吠えなんて、恥ずかしいだろうが」


 獅堂の頬を突きながら言うと、獅堂は嫌そうにしながらも、私のからかいを受け入れていた。

 やはり、中二病だと認めて受け入れている獅堂でも、若い頃の失敗談は恥ずかしいらしい。ふふ、可愛いところもあるじゃない。


「あー、あの頃の魔法少女衣装は可愛かったのになぁ」

「今は面白いから良いんじゃねーか?」

「それ、褒めてないよね?」

「っはははは! 悪ぃ悪ぃ、そう拗ねんなって」


 そう――陽光に照らされ、心底気を許したヒトにだけ見せる、無邪気な顔で笑う獅堂。

 不思議と、そう、不本意だけれど、普段の気取った姿よりもずぅっとかっこうよく見えてしまって。


「獅堂は、変わらないね」

「あ? 早々に変わってたまるかよ」

「ふふ、本当に」


 赤くなった頬を、大きなサングラスで誤魔化した。

 あ、危なかった。なんでこんな急に? いや、もう、とりあえず脇に置いておこう!

 わ、私って気が多いのかなぁ? うぅ、最近ずっとあっちではらはらこっちでどきどき、自分自身が心配です……。

 獅堂が肝心なときに鈍くて良かった。ここで畳みかけられたらちょぉーっと危なかったかも知れない。うん……一番、長く私の隣いたのは獅堂、だったから。なんてね。




「さて! メシでも食いに行くか、未知」

「……ええ、そうね。ああでも、人前ではミランダって呼ばないとダメよ? 獅堂」

「おいおい、流石に忘れねぇって」

「ほんとにぃ?」

「まぁ、少なくともおまえよりは演技が出来るよ」

「あ、言ったな? 今に見てなさいよ。私が負けるけれど」

「負けるのかよ!」




 なんだか、うん、この心地よい関係を続けたい。

 誰よりも対等な、この年上の幼馴染みと……なんて、口には出さないけれどね。
































――/――




 走る。

 ――真昼の東京。

 走る。

 ――ゴミ箱に躓き。

 走る。

 ――転びながらも。




「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 どうして、こうなったんだろう。

 脳裏を過ぎるのは、さっきからずぅっとそんな言葉だ。とても強そうな人に“私”になって貰って、私が代わりに彼女に似せたメイクをして逃げていた。

 マネージャーだってすぐに気がつくだろう。おそらく母さんの形見にGPSを仕掛けておいたようだけれど、それが仇になる。彼女が私の代わりに確保されて、そうすれば時間稼ぎが出来る。

 私が狙われるようになったのは、実家で母さんの遺品整理をして、戻ってきて直ぐだ。きっと、実家に、なにかあるに違いない。彼女には申し訳ないけれど、その間に私が“私を囮”に実家を捜索して、羽根付きのバケモノが現れる前に解決する。きっと、マネージャーだったら、こんな危険なことは許してくれないだろう。


(でも、私はもう……)


 稀少度Aランクの異能者。

 戦闘経験など学生時代に置いてきたような魔導術師である私にとって、雲の上のような存在だ。そんな異能者の女性が警備について、あの羽根付きのバケモノになすすべもなく倒されてしまった。

 ――かの有名な特課も、ほとんどはAランクからBランクの異能者で構成されていると聞く。だったら、そんな彼らを蹴散らしてしまうあのバケモノは、それこそ英雄でもない限り、相手にならないのだろう。


(私のせいで、傷つく誰かを享受できない……っ)


 最初は、病弱な母さんを笑顔にしたくて始めた演劇。

 それはいつしか私の才能を認めた人たちに評価され、大きな舞台が用意され、いつしか“たくさんのヒトを元気にする”ための劇へと変化していった。なのに、私を守ると約束してくれた彼女は、大怪我を負って搬送されて、お見舞いにも行けていない。ううん、きっと、私にそんな資格はない。

 だから、もう、誰も巻き込みたくない。羽根付きが狙うのは私だ。混乱はするかも知れないが、偽物の彼女を狙うことはないだろう。だから、私一人で解決する。それが最善だと、そう思ったのに。


(私は所詮、本物を知らない小娘だった……)


 彼女と別れて、ほんの一時間。

 まだ都心から離れてすらいないというのに、埼玉の実家まで、まだずっと先なのに、あっさりと見つかって追いかけられていた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 私の位置情報がわかりそうなものは全て、置いてきてしまった。

 手持ちは交通費分だけのお金のみ。警察に連絡なんて……いや、どのみち、マネージャーたちを蒔いてきた私に、そんな資格はない。

 路地裏に身を潜めて、コンパクトミラーで道路の先を確認する。追ってきては、いない? うまく逃げ切れたのだろうか。でも、実際、アレはなんだったのだろうか。羽根付きではない新しい追っ手。私を見るなり、空中浮遊しながら笑顔で追いかけてきた、どす黒い笑みの子供のようなもの。この上で新しい敵なんて、冗談じゃない。

 ……でも、どうやら、逃げ切れたのは確かなようだ。首の皮一枚で繋がった、のかな?




「ふぅ……良かった」

「あら、安心してもいいの?」




 耳元で囁かれる声。


「きゃああああっ!?」


 驚きのあまりのけぞって、ごつん、と、頭を打つ。


「あら? ちょっと」


 その“アメジスト”のような髪に恐れながら、意識が、朦朧として。


「きゅぅ~」


 闇に、落ちた。

 ……ああ、私は、こんなところで、倒れている、わけには――。































「リリーちゃん、早いよぅ」

「あら、ごめんあそばせ?」

「り、リリー、その人は……あ、あれ? 未知先生?」

「ああ、それよりも鈴理、静音。この未知擬き――治療して下さらない?」

「えっ」

「ふふ。未知の匂いをつけたまま、未知の格好で逃げていたのよ? 怪しすぎないかしら?」

「そ、それで気絶させたの? リリー……」

「あわわわわ、せ、【速攻術式セット】!」

「ふふふ、起きたらちゃぁんと、問い詰めないと、ね?」

『わんっ』





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