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そのさん

――3――




 ――千代田区・大手町。



 東京駅にほど近い公園で、黒いスーツに黒いサングラスをかけた男が、黒塗りのセンチュリーの前で腕を組んで、佇んでいた。

 男は燃えるような赤い髪を手で掻き、苛立ちを隠そうともせずにスマートフォンを手に取る。


『申し訳ありません、実は、急に逃げ出しまして……』

「はぁ? 俺が護衛に付くことは知ってんのか?」


 男――獅堂は、そう、低く告げる。


『いえ、連絡をいれる前でした。ミランダは非常に行動力の強い女性です。おそらく、我々が対処の最中に倒れることを心配して、自分で“狙われる原因”を探りに動いたのでしょう。……申し訳ありません、確実性がないからと渋らず、あなたに依頼をしていることを教えておくべきでした』

「そうか……いや、まぁいい。そういう時のための特課だろう。そっちに連絡を付けてみるから、アンタらは見つかったときに直ぐに動けるようにしてくれ」


 獅堂はそういって電話を切ると、次は耳の無線機にスイッチを入れる。

 その先は今朝方に顔合わせをしたばかりのでこぼこ三人組であった。


「よう、俺だ。城崎がいなくなったそうだが?」

『俺だ、ではありません。コードを使って下さい。まぁ、良いでしょう。ミランダ・城崎に取り付けていたGPSがあります。そちらから辿っているので、端末に情報を送ります』

「おう、サンキュー。んじゃ、お転婆姫の出迎えと洒落込むか」


 獅堂はそう、ニヒルに笑って通信を終える。

 彼相手に対等に接しようとするものは稀だ。なにせ彼は七人の英雄の一人。誰もが畏まり、緊張する。だがどうだろう、こと“アメリカ人”に限ってはそうではない。

 彼らが敬愛するのはあくまで“魔法少女”のみだ。その他の英雄に魔法少女ほどの敬意は払わず、だからこそやりやすい。さすが、未だに魔法少女のコスプレイヤーにさえアーティスト並のセンスが求められるトンデモ大国は格が違う、と、獅堂は困り顔の思い人を想像して、小さく笑った。


「徒歩で移動か? 車を出してくれ」

「か、畏まりました!」


 妙に畏まる運転手や、他のSPの姿にうんざりしながらも、獅堂は車に乗り込む。

 さほど離れているようには見えないが、余計なものに絡まれたら面倒だ。犯人が絡んでいるようならば、即退治して解決なのだが。

 獅堂はそう、胸中で唸る面倒くささを、ため息で誤魔化しながら、車窓から外を眺めていた。




『こちらコード・ケルベロス。対象が絡まれているようね』

「はいはいこちらコード・イフリート。もう直ぐ到着するから、そっちは動かなくて良いぞ」

『ラジャー』




 流に身を任せるように、獅堂はそう告げる。

 ――そして後に、こう、振り返ることだろう。“あのとき人任せにしなくて良かった”、などと。






































――/――




 銀座の街並みをとぼとぼと歩く。

 城崎さんを見失い、彼女の目的も解らぬまま銀座の街並みを歩いていた。なにやら重大な事件に巻き込まれているのかも知れない。そう思うと、これを外すことで彼女が危機に陥るかも知れないと思うと心配で、どうにも外せない。

 知らぬ人間だ、放っておけと言われたらそれまでなのだけれど……ううむ、これはもう性分なのかも知れない。


「――ひひ、見つけたぜ。あのバケモノ教師はいないみたいだな?」

「兄貴ー、こいつっすかー? その、舐めた女っての」

「おー、美人じゃねーか?」

「サングラスでよく見えないけどな。ギャハハハハ!」


 ええっと、これってまさか、先ほどの仲間?

 ……うーん、こうやってお礼参りされるのであれば、見るからに戦えない彼女の方ではなく、こちらに来てくれたのは正解だったのかも。


「あなたたち……なんの御用でしょうか?」

「いや、アンタに用はねぇよ? アンタのカラダにゃ、たーっぷりとオハナシがあるがな!」

「そうですか。あくまで、武力で解決しようというのですね?」

「ギャハハハ、だからどーし……いだだだだだ?!」


 よし、応戦しかないか。

 そう色んな覚悟を決めたところで、急に腕を極められる不良少年。私はまだなにもしていないのだけれど、ええっと?


「なんだてめぇは!」

「俺か? 俺は、そうだな……イフリート。そう呼べ」

「は、はぁ? いふりーとぉ? 妙ちきりんな名前してんじゃねーぞ!」


 そう、激昂しながら腕を振り上げる少年。

 けれど、大ぶりな一撃はイフリートの足を止めるには至らないようだ。足首と重心移動を使った見惚れるような体術で、イフリートは拳を避ける。あまりに流麗な動きだ。きっと、少年たちには彼が消えたように見えただろう。

 次いで、後ろの少年に足がかけられる。前に転ぼうとする刹那の間。黒い手袋に包まれた掌底が、少年たちの意識を刈り取るためのみに振るわれると、あっという間に、転んだ少年を抜いて死屍累々の様相を呈した。


「な、なっ、な」

「これに懲りたら真っ当に生きるんだな。そうでなければ、次は頭が“BAN”!」

「ひぇっ」

「ザクロのように、飛び散るぜ」


 少年は彼の言葉に震えると、そのまま、走り出していった。


「お助け~~ッ!!」

「おいコラ、仲間はどうするんだよ! ……チッ、まったく」


 いや、同感だよ、同感だけど……あれ、なんだろう。この見覚えしかない感じ。

 赤い髪、尊大な口調、無駄に高い身体能力、サングラスの上からでもわかる無駄に整った顔立ち。これだけ無駄な要素が揃っている人間なんて、私は一人しか知らないわけで。


「よう、迎えに上がったぜ。お姫様?」

「な、なん、なんで」

「なんでってそりゃ、俺があんたの護衛役に抜擢されたからだよ、ミランダ」


 や、やっぱり何かに巻き込まれてはいたんだね、城崎さん。

 ああ、それでもなんでまた、ヨリによってこんな複雑なことになってしまったんだろうか。


「さ、まだやるべきことが残っているんだろう? 来い、車に乗るぞ」

「え、えーと、あ、あははー」

「ん? まだ混乱してんのか? ……仕方がねーな。ほら」

「きゃあっ」


 何故か横抱きに、そう、お姫様だっこにされてしまう。

 あわわわ、どうしよう、動揺が顔に出ていないよね?


「なんだ? 照れてるのか?」

「わ、私のことは放っておいて!」

「はっはっはっ。放って欲しいなら大人しくしていな」


 公衆の面前で堂々と運ばれ、車に放り込まれて、獅堂自身も私の隣に乗り込む。

 すると、それを確認した運転手の方が、車を走らせ始めた。いや、えっと、気がつかないものなのかなぁ?


「――さて、改めて。俺は九條獅堂。次の映画までアンタを警備することになった。まぁ、俺が守る以上はどんな敵にも怯える必要はないぜ」


 自信。

 確かな経験に基づくその言葉は、なにより頼もしい。けれど、うん。こんな時でなかったら、私も冷や汗を掻かずに済むんだけどなぁ。

 とにかく、一応、運転手さんにも聞こえないように、差し出された手を握り返す――フリをして、もたれかかる。さも、カーブの反動で倒れたかのように見えるタイミングだ。それから、獅堂にだけ見えるようにサングラスをずらして、呟いた。


「その、ごめんなさい――」

「は? あ? んんん?」

「――巻き込まれてしまった、みたいなの」


 目を白黒させて混乱する獅堂に、内心ですごく謝っておく。

 ごめんなさい、獅堂。だからどうか、私に状況を教えてください――っ! と。





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