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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 三日目(後)
378/523

そのさんじゅうろく

――36――




 どうにかこうにか入口を破壊して這い上がり、目にした光景。

 誰もが痛苦の中で血と涙にうち沈み、鈴理さんが捕らえられていた。その、鈴理さんを捕らえているのは、獅堂たちが相手取っているはずの虚堂静間と、プロドスィアで。


「――【速攻術式セット】」


 遅れてきた自分と、彼女たちを傷つけた博士を前に、怒りで目の前が真っ暗になるようですらあった。

 でも、だめだ。戒めはあとだ。今は、“アレ”らを片付けた後で十分だ。


「【徹甲弾アサルト・ブレット速効追加インクリース十八エイティーン圧縮プレス】」


 明滅する蒼玉の魔力がバスケットボール大になって、ピンボールサイズに圧縮。

 ――その行程が、八回目で空気が歪み、十三回目で向こう側が見えなくなり、十八回目で空が軋むような音が響き始める。それを、プロドスィアの左手、鈴理さんを抱える手とは反対側に狙いを付けて、放った。


「【狙撃ロック展開イグニッション】」


 空気を刻む音。

 瞬く間に飛来したそれは、プロドスィアの結界を粉々に砕く。同時に、私は瑠璃の箱船に指示を出し、空中に待機させておく。


「私の生徒たちを傷つけたその愚行、万死に値します。そこで潰えなさい、下郎」


 歩きながらそう告げると、静間は私を親の敵でも見るような目で睨み付けてきた。

 だが、当然ながらそう見るべきなのは私の方だ。


「……来ましたか、重装詠唱使い。セブラエルに最も遠い部屋にするように忠告をしてやったのに、無能め」


 セブラエル?

 ああ、ええっと、NPOのラエルか。国連の重鎮でもあったはずだけれど、この分だと敗北済みかな? 天使にも、そのうち落とし前をつけておく必要があるだろう。

 それでも今は、鈴理さんを救い出すことの方が大切だ。アレらに地獄を見せるのは、みんなを治療してからでも遅くない。


「この騒動もあなたが黒幕ね、虚堂静間」

「ならどうだというのです? 一介の教師であるあなたに、なにができる!」

「試してみればわかることでしょう? 後ろの彼女は、逃げ腰の様子だけれど?」


 私の圧縮弾を警戒しているのだろう。

 波打つ黒髪にメイド服の人造人間、プロドスィアは、鋭く私を見ながらも距離をとる。


「どうしたの? 試さないのなら、こちらから行くよ?」


 それは脅しでも何でもない。

 明確な警告の言葉に、無意識だろう。彼は、一歩後ろに後ずさる。


「なるほど、確かにあなたの言うことももっともです――」

「なら」


 止まる声。

 虚堂は、口元を歪ませ、笑う。


「――ですが! ヒヒッ、もう終わりです。脱出の準備は整う頃でしょう? プロドスィア」

「っ、申し訳ありません。テレポーター上の生物の撤去に時間が掛かっております」

「はぁ? モニターを回せ。なんだったら熱線を使ってもいい」


 テレポーター。

 そう聴いて身構えたが、なにやら様子がおかしい?

 うーん、待ってあげる義理もない。こっそり詠唱はしておこう。


「【速攻術式セット魔導陣不可視化インビジブル・サーキット展開イグニッション】」


 私が詠唱を始めると、焦りを浮かべたプロドスィアが、空中に出したコンソールでなにやら操作を始めた。


「【術式起動スタート図式術形態ダイアグラム・フォーム展開指定(バレル・パーマネンス)】」


 空中に展開されるコード。

 複雑な数字列は、向こう側と異界を繋げるためのものか。


「【第一図形(ファースト・グラム)対象指定ロックオン第二図形(セカンド・グラム)持続起動ドゥレイション第三図形(サード・グラム)余剰魔力吸収マジック・アブソーバー第四図形(フォース・グラム)術式魔力循環マジック・サーキュレーター図式接続(グラム・コネクト)】」


 やがて、空中に光が灯り、像を結ぶ。


「【第零番図形(メイン・グラム)詠唱起動展開ワード・バレル・イグニッション】」


 テレポーターと思われる機械。

 森の中に鎮座するそれの上を排除しようと発射される、無人機械の熱線。


「【治癒ヒール】」


 その全てをあくび混じりに弾きながら、テレポーターの上で堂々と転がる――



『わふ』



 ――ポチの姿。


「どういうことだこの犬畜生はァァァァァッ!?」

「データ検索――ヒット。魔狼王フェイル=ラウル=レギウスのものと思われます」

「何故だ?! 笠宮鈴理のペットに成り下がり、この場にいないはずではなかったのか?!」


 えーと、はい、ここに来ているなんて私自身も知らなかったよ?

 まさか森で暮らしていて、テレポーターの上を住処にするなんて――この三日間、どうやって過ごしてきたんだろう。


「――【基点術式オープン律動開始セット】」


 まぁ、でも、逃げられなくなったのならやりやすい。


「コントは終わり? なら……」

「黙れ、観司未知ッ!!」


 私が声をかけると、虚堂はやはり鋭く睨み付けてくる。


「【形態指定フォーム多重効果マルチプル・エフェクト】」


 向こうがうろたえている間に、詠唱だけは重ねて置いて、と。


「そうだ! プロドスィア、メガフロートの転送は可能かい?」

「! はい、提案、実行。予備のメガフロート、召喚準備」


 メガフロート?

 そういえば時子姉たちは大丈夫だろうか? 滅多なことにはならないとは思うが、罠に嵌められて閉じ込められているくらいはするかもしれない。


「【様式設定アーム鎧盾旅団(アーマー・アーミー)】」


 先ほどのモニターが切り替わる。

 映し出されるのは島の直ぐ傍、海上だ。


「【装置付加パーツ自律起動オート・パフォーマンス】」


 そこに現れるのは、白い円盤状の施設。

 巨大なサイズであり、東京ドームほどはあるかもしれない。攻撃術式で止める方が良いかな?


「では今度こそさようなら! プロドスィア、この距離なら直接転送でも……プロドスィア?」


 ああ、いや、必要なさそうだ。

 呆然とモニターを見上げる二人。その姿の理由は、同じようにモニターを見上げれば直ぐにわかる。





『あっはははははははははっ!! とっておきが潰されたら、あいつら、どんな顔をするのかしら? ふふっ、あははっ、本当に楽しみですわ。又聞きしか出来ないのがざーんねん』





 高笑いをするリリーの姿。

 この騒動の中、何故か外で高笑いをする彼女。どこに行ったかと思えば、そんなところにいたのね、リリー……。


「――良いでしょう、ああ、良いだろう。このボクが直々に相手にてやろう。プロドスィア、鍵をここへ」

「畏まりました。旦那様。こちら――を?」


 プロドスィアの腕に握られているのは、大理石の破片を彫刻して作られた天使の象だ。

 いったいいつの間に拵えたのか、良い笑顔を浮かべている。そして、そんな風に入れ替えられる人間は、私の知る限り、ただ一人。


「取り替えさせて貰ったわよ、変態博士!」

「碓氷夢だと?! あの怪我で、どうやって……!?」


 そりゃあもちろん、私が起動させていた“大規模自動治癒術式”だ。

 並み居る生徒たち全員。失った魔力や霊力は早々に回復しないだろうが、怪我と肉体的な疲労は癒やすことが出来る。

 ――そう、彼らが勝手にうろたえていた時間を使えば、充分に。


「関東特専合同チーム、復活よ、虚堂」


 私の宣言に、虚堂は顔を引きつらせる。


「観司先生、ありがとうございます。――ここから先は正真正銘、生徒のための生徒会長として……やるわよ、みんな!」

「ああ、今度こそ、友として正道を導こう、凛」

「ったく。会長も副会長も人使いが荒い」

「そう言いつつ用意する心はツンデレ。六葉も頷いてる」

「はぁ、もうそれでいいよ、刹那」

「それで全員、返事は?」

『はいッ!!』


 生徒会が立ち上がり。


「魔法少女団完全復活よ。ほら、鈴理、いつまで寝てる気? やるわよ!」

「ゆ、め、ちゃ……あ、れ?」

「す、鈴理、無茶しないで。寝てても良いよ?」

「はは、スズリのやりたいようにすればいいさ」

「夢、鈴理は休ませられないか?」

「当の本人に聞けば良いわ。どう? 鈴理」


 そして。



「……やる。やらせて、夢ちゃん、みんな!」



 ふらふらになりながらも立ち上がる、魔法少女団のみんな。


「何故だ! いったい、どうやって」

「サァ? ボクのヴィーナスの加護でも、アッタンじゃないかな?」

「レイル・ロードレイスッ」


 あながち間違ってもいないようなことを言いながら、レイル先生も立ち上がる。

 リリーとポチがいないのは寂しいが、どうにかこうにかフルメンバーだ。ついでに重装詠唱で作り上げられた鉄の盾を、一人一つに配分されるように回すと、中々の見栄えになった。




「さぁ、後悔なさい――!」




 報いは受けてもらう。

 そう、睨まれた分以上に強くにらみ返すと、虚堂は小さく、後ずさった。


 決戦が、始まる。





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