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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 三日目(後)
374/523

そのさんじゅうに

――32――




 轟々と燃える炎の結界。

 その中央でわたしを見下ろす凛さんの姿に、わたしは小さく覚悟を決める。

 ぐらぐらと揺れる心。痛む胸。張り裂けそうな心臓に、カツを入れて立ち上がる。


「ああは言ったけれど、私はあなたを殺しはしないわ。生きていて貰わなければ、目的には利用できないから」

「……魔導術師を超人にする計画、ですね?」

「レルブイルは口が軽いね。でも、そうよ。そのために必要なのは、あなたの器と魂。例え擦り切れ摩耗し心が死のうとも、その能力は必要だから」


 凛さんの手の中で渦巻く黒い炎。

 漆黒に揺らめくそれは、形容できない苛立ちにも似ていた。


「わかり合えるはずです。まだ間に合いますから、だから――!」

「これ以上の言葉は不要よ。鈴理さん――楽しかったわ。でも、ごっこ遊びはここでおしまい。四肢を砕いても、連れて行く!」

「っ」


 踏み出す足。

 同時に、“常に身につけるように言われていた”夢ちゃん謹製のカフスが、強く震えた。

 だから、頭上に盾を展開して、蹲る。


「? なにを――?!」


 降り注ぐのは、雪と雹。

 地面にぶつかり氷柱を生み出しながら、凛さんの悲鳴を轟音でかき消す。さすが、夢ちゃんだ。満身創痍でも活路を開いてくれる。

 なら、わたしは、“親友(夢ちゃん)”の開いてくれた道を、無駄にしない。凛さんから話を聞きたいのなら、その状況はわたし自身の手で作らなければならないから……!


「【速攻術式セット平面結界フラットバリア展開イグニッション】」


 体の奥から、ガリガリとなにかが削られるような感覚。

 魔力とは、空気中の力を吸収して変換、運用する技術。器に溜められる魔力も、運用できる魔力にも限りがある。そして、わたしの限度はもう、目前だ。

 魔力枯渇。痛む胸を無視して、平面結界フラットバリアを展開。わたしが初めて、扱い熟せるようになった、わたしの魔導術!


「“爆火矢ボンボン”!」

「【反発バウンド】!」


 爆発を、盾で跳ね返しながら動く。激しい動きはけっこう、キツイかも。ずきずきと痛む足首。動かすだけで疼く右手。霊魔力同調で使った最後の魔法の“反動”が、今になってわたしを削る。

 辛い。けれど、ここで諦めた方が、きっともっと辛いから!


「“多重制御マルチ・コントロール”」


 爆風と熱。

 振動と衝撃。

 轟音と疼痛。



「“重力グラビティ流向トレント”――“二重干渉ダブル・ロジック”!」



 ふわりと浮いて、超覚エンスシスに導かれるままに動く。

 超覚エンスシスが追うのは、平面結界フラットバリアの反応だ。わたしの意志で動かす平面結界フラットバリアは、魔導術として発現している以上、これ以上の負担を強いない。その状態で平面結界フラットバリア超覚エンスシスで追わせれば、わたしの負担はがくっと減る。

 ……本来、超覚エンスシスで魔力は追えないんだけど、細かいことは今は放置!


「いたたたっ、あたたたたっ」

「痛いで済まないようにしてあげる! みんなみんな、甘くなれ」

「っ【拡大ズーム】!」


 平面結界フラットバリアを広げて、重力制御で大きくジャンプ。同時に、平面結界フラットバリアを足下に配置。


「“爆重煉ファクトリー”!」


 瞬間、地面の至る所が大爆発。

 わたしは足下から迫る衝撃で浮き上がり、遙か頭上から凛さんを――いや、周囲一帯を見回すことになった。



(ぁ)



 血だまりに倒れ伏す夢ちゃんを、刹那ちゃんが抱き起こす。

 セブラエルの猛攻を、ぼろぼろになりながらもゼノが凌ぐ。

 リュシーちゃんと焔原君の傍で呆然としていた六葉ちゃんが、ゆっくりと立ち上がる。

 レイル先生が血を吐きながらも、みんなに霊力と魔力の支援を続けてくれている。

 そして、フィーちゃんが――



(そっか。なら、なんとしても、合流しなきゃ。この場を切り抜けて、直ぐに!)



 息を吸う。

 ――呼び起こせ。

 息を吐く。

 ――わたしに流れる因子。

 目を閉じて。

 ――相棒がくれた力の源流。



「そのズタボロの体で何が出来るの? これ以上、痛い目を見ない内に下りなさい。少なくとも、他の子たちは死なずに済むのかも知れないよ――!」

「お断りです、凛さん。わたしは、わたしたちはまだ、負けていないから!」



 目を開き、獲物を見据え、爪を揃え、牙を剥く。

 体の奥から取り出すのは、渦巻くような“赤い”力。




「そう、なら、そのまま砕け散りなさい――“爆王臨ザッハトルテ”」




 凛さんを中心に渦巻く力。重なるように生まれる焦げ茶色は、深く重なり漆黒になり、さらには闇よりも暗くなる。

 そこに生まれる力の重圧は、息が苦しくなるほど強大だ。このまままっすぐ落ちれば、周囲も丸ごと粉砕しかねない。


「嫌です! 来たれ、我が眷属。瞬け、ハティ! 狼臨“ブリッツ=オブ=ロア”!」


 体に宿った稲妻の眷属に、深紅の力を喰わせてやる。

 するとハティは獰猛に吠え立てて、わたしの体に乗り移った。黄金の毛並みと、空気を焼く稲妻。わたしをポチが復活させてくれたときに芽生えたわたしの“妖力”を糧に、ハティは狼王の眷属として相応しい姿を、見せつける。


「やぁああああああぁぁッ!!」

「爆ぜよ、王よ。我が声に――」


 漆黒の殻にぶつかり、割り、降り立つ。

 ガラスのように粉々に砕けた霊力の中心で佇む凛さんは、目を見開いてわたしを見ていた。


「狼雅雷臨ッッッ!!」

「――“爆響ティラミ、ッ!?」

「“ハティ=ロア=フェンリール”ッッッ!!!!」


 わたしの体の中に残っていた妖力も魔力も霊力も、全部食い散らかしてハティが“飛び出す”。その大きな姿は、さながら砲弾のよう。

 防ごうとした凛さんの異能を文字どおり食い破り、凛さんの体を包み込み、放電。


「ぁっああああああああぁぁぁっ!?!?!!」


 轟音。

 悲鳴。


「私、は、こん、な、ところ、で」


 それでも、ぼろぼろになりながらも、凛さんは手を伸ばす。


(おねがい、立ち上がらないで、おねがいっ)


 対するわたしは、立っているのがやっとだ。

 足は震え、手にはもう感触がない。右目は霞んでいてよく見えないし、左の脇腹は泣き出したいくらい痛い。ここで立ち上がられたら、もう、勝てない。


「季衣、の、ために、私……は、こんな……ところ……で」


 そうして、凛さんは立ち上がる。

 動かない左足を引きずって、動かせない右手を抑えもせず、わたしを、“視”た。


「我が瞳は、万物を縛る、獄徒の枷――【縛鎖の魔眼】ッ!!」


 赤く光る瞳に吸い込まれるように、体の動きが止まる。

 思考だけはめまぐるしく動いて、それでも、伸ばされる手は止まらない。


「鈴理さん、これで、おしまい……“――――”」


 話すこともままならず、わたしの首に置かれた手を、見ることしか出来ない。

 そういえば前にもこんなことがあった。あのときはまだ敵だったリリーちゃんに捕まって、このまま師匠の弱点になるくらいならって、ああ――そう、だ。



(“霊魔力同調(ハイマジックユニゾン)”)



 なけなしの霊力と魔力を集中。

 掻き混ぜて、混ぜ合わせて、当然のように不適合する力。

 こうなってしまえばスパイスだ。ついでに少量の妖力も混ぜれば、意図的な暴走状態が仕上がった。


「っあなた、まさか!」


 狼狽する凛さんの、声。

 その眼前に差し出される光の結晶は、不可思議な色合いに染まっていて。



「え、へへ、どっかーん」

「きゃあっっっっ!?」



 暴発。

 爆発。

 爆音。


 渦巻く力を意志を用いて取り出して、直ぐに爆発。

 当然のように衝撃に踏ん張ることは出来ず、わたしの体は木葉のように吹き飛んだ。

 きっと、体は見ていられないほどにぼろぼろだ。それでも、爆炎の向こう側、倒れ伏す凛さんに起き上がる気配は見られない。


「づ、ぁっ」


 地面に落ちて転がって、満身創痍の体を自覚する。

 それでも――必ずみんな切り抜けて、迎えに来てくれるって信じているから、捕まりさえしなければどうにかなるって信じられる。


「無茶しすぎだ、って……げほっ、げほっ、つぅ、ぁ、はぁ……みんなに怒られちゃう、よね」


 際限なく流れる、わたしを維持するためのもの。

 訪れる寒さに苛立ちながら、わたしは目を閉じる。どうにも開けていられなくて、寝たらまずいとわかっていても、それでも。


(音が聞こえる。フィーちゃんたちも、セブラエルに勝ったのかな? きっと、勝てたよね? だったら、少しくらい眠っても、良いよね)


 瞼が重い。

 体から、感覚が遠ざかる。

 ただ、暗闇に堕ちるように。




 意識を、手放し、て。






































「傷は治療しよう。意識はそのままの方が良い」

「はい、承知いたしました」

「ああ、丁重に頼むよ? なにせ、大事な“鍵”だからね」

「畏まりました。そのように」






 あまりにも場違いな声が、聞こえた、気がした。





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